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授業実践記録(物理)

グループワークを中心とした授業実践
-生徒が考え,学びあえる授業をめざして-

鳥取県立八頭高等学校 平尾 淳一

1.はじめに

筆者は,これまで実験や観察を行う場合を除き,授業は講義形式で生徒には板書したものをノートに書かせるという,従来の授業スタイルで行ってきた。特にこのスタイルに大きな問題があったわけではなく,本校に赴任して1年目の授業でも,生徒は比較的よくノートをとり,おとなしく聴いていた。しかし,授業をしながら何か内容がうまく浸透している様子が感じられず,印象通りにテストの結果も思わしくなかった。もちろん,これは筆者の力量の問題もあるが,従来の授業スタイルでは限界があると強く感じるようになった。本校の物理選択者は進学を目指す生徒がほとんどであり,テストの得点力も求められる中で,授業時数も不足しがちであり,問題演習の時間も十分とはいえないのが実情である。

こうした中,赴任して2年目の平成24年7月に,鳥取大学から「第15回授業力向上セミナー」の案内が届き,東京の産業能率大学で開催された「アクティブラーニング実践セミナー」に参加した。講師は,元埼玉県立越ヶ谷高等学校の小林昭文先生(現 河合塾教育研究開発機構 研究員/日本教育大学院大学 非常勤講師)であり,物理の授業で実践されている「アクティブラーニング(能動的学習)」について,実習を通してわかりやすく説明していただいた。この学習法のねらいはいくつかあるが,新学習指導要領に示される思考力・判断力・表現力の育成,学習意欲の向上,さらにはグループワークによる言語活動の充実も期待される。

このセミナーを機に,筆者も自分なりの能動的学習の授業スタイルができないかと考え,現在試みている。ただし,筆者自身が「アクティブラーニング」について詳しく研究しているわけではなく,日々の授業に追われる毎日である。「アクティブラーニング」と呼べるためには,そのねらいや効果を熟知し,その指導法としていくつか必要な要素があるかもしれないが,筆者はそれらの点にはこだわらず,本校の授業でできるスタイルを確立しようと考えている。ここでは,その中の1例をご紹介する。

2.授業実践

昨年度(平成24年度)の2年生についてこのスタイルを始めたので,行っているのは旧課程(物理I・II)の授業である。本校は1コマ45分授業であり,時間の配分は,前半15~20分で教科書の内容をプリントをもとに説明し,後半の25~30分をグループワークの時間として,ほぼ毎時間同じ形式で行っている。グループのメンバーについては,当初座席を決めて授業を行っていたため,机がつけられるような近くの生徒4,5名を教師が分けて1グループとした。1クラス40名程であるので,8~10グループできる。このグループを編成した最初の授業では,コンセンサスゲーム(NASAゲーム)を実施し,互いの意見を言えるような雰囲気作りを行った。なお,今年度(平成25年度)の筆者の受け持ちは3年生であり,現在は選択履修者が30名程であるので,座席は自由にしてグループの構成メンバーも自由としている。

前半に行う説明のプリントは,1回の授業でほぼ完結できる分量にし,重要語句や公式などは穴埋めのようにして,演習問題を2問程度載せている。説明の際には,プリントをPDFファイルにして,プロジェクターでホワイトボードに映しながら書き込むようにしている。できるだけ要領よく説明し,あまり時間をかけすぎないように気をつけている。

後半のグループワークは,プリントに載せている演習問題をメンバーで相談しながら解かせるというものである。机をつけた後,生徒はしばらく各自で解こうとする。しかし,やがてグループの中で「わからない」と言い出す生徒が当然のように現れる。教師は,そこですぐにはその生徒のもとに行かず,「メンバーの解き方を見せてもらい,わからなければ教えてもらいなさい」とか,「わかる人は周りに教えてあげなさい」と指示する。また,グループ全員がお手上げの状態であれば,「他のグループへ行って聞きなさい」と移動を促す。それでも思うように進まない場合に,いくつかのヒントを教師が与えることにしている。最後に,解答をグループごとに当てて答えさせ,板書して終了する。

概ね毎時間このようなスタイルで行っているが,昨年度(平成24年度)に研究授業で行った学習指導案の一部を以下に示す。

単元名 物理I「光」 2.光の性質

(1)本時の目標

光の種類(単色光・白色光など)や光が横波であることを学習し,光の速さの測定法について理解する。

(2)本時の評価

【知識・理解】:光の種類,光速の測定法について理解し,知識を身につけている。
【実験・観察の技能】:偏光板を適切に扱い,偏光の様子を的確に観察している。

(3)教材・準備

授業プリント,ビデオカメラ,リモコン,偏光板

(4)学習過程

指導者の活動 生徒の活動 指導上の留意点【評価】
導入
(3分)
授業プリントを配布し,本時の内容を説明する。 教科書の該当ページを伝え,教科書と照らし合わせながら聴くように助言する。
展開
(40分)
授業プリントの内容を説明する。
A.光とその種類
ビデオカメラでリモコンの赤外線を見せる。
プリントの内容を聴きながら,空欄に語句や数式を記入する。 ホワイトボードに授業プリントを映して,聴くことに集中するよう支援する。
B.光の速さ
C.偏光
動画を活用し,測定法を理解しやすいよう支援する。
班になるよう指示する。 机を動かして班になる。
問(電磁波の種類と波長・振動数),問(フィゾーの実験)を班ごとに考えさせる。 班ごとに問題を解く。
わからないときは班員に聞いたり,相談したりする。また,わかった人は班員に説明する。
波長と振動数の関係を確認する。
フィゾーの実験の仕組みを確認する。
机間巡視し,班員が協力して問題を考えるように助言する。また,わかった人は積極的に説明するよう促す。 【知識・理解】
生徒に発問しながら,解答を板書する。 解答を確認する。
偏光板を班ごとに配布する。
ビデオカメラでガラスの反射光が偏光になっていることを確認させる。
偏光板を使って,光の見え方を観察する。また,ガラスに写った反射光を観察し,一部が偏光になっていることを確認する。 2枚の偏光板を回転させて,光の見え方の変化を観察するよう助言する。
ガラスに写った光を見るときは,反射光をいろいろ変えて見るよう助言する。 【観察・実験の技能】
まとめ
(2分)
授業プリントをもとに,本時のまとめをする。
次回の予告をする。

3.成果と課題

正直なところ,従来の授業スタイルを変えることに抵抗もあったが,現状が行き詰まっているとも強く感じ,新たな試みを始めた。始めて1年程になるが,これまでの取り組みで考えられる,あるいは感じているいくつかの成果や課題について挙げてみたい。

[成果]

まず最も重要な変化は,これまで生徒は教師の話を聞く,板書をノートに書き写すといった受動的な態度であったのが,グループワークにより問題について考える,話し合うという態度になってきたことである。今まで,生徒は教科書の内容はもちろん,練習問題についても解説を聞くという姿勢であったのが,問題はみんなが考え,みんなで理解しようという雰囲気になってきた。教師が一方的に説明する時間を抑え,生徒自身が考えるための時間,互いに話し合える時間を設けたことで,以前よりも学びの意欲は高まっていると感じられる。初めは話すことをためらっていた生徒も多かったが,今ではグループ内でわからないことを言えるようになってきた。教師も,そのような声を聞くことで,理解できていないところをその場で把握でき,説明を加えることができる。

また,進度が速くなっている。単元によってはあまり変わらないところもあるが,たとえば前述の指導案にある「光の性質」では,従来ならほぼ1.5単位時間の内容を1単位時間(45分)で終えられた。全体でも1.2~1.5倍くらいの進度で内容を進めることができている。この進められた分の時間を,テスト前の問題演習や生徒実験に使うことができる。

その他,教師はプリントの準備に時間を割くことになるが,授業での役割は生徒の活動を見ることが主となるので,1時間中説明して板書するという授業に比べれば,その負担は軽減される。そして,その分生徒の様子を詳しく見ることができる。また,一度プリントを作れば,改良を加えることはあっても複数の授業で利用できるため負担は増えない。

[課題]

前半の内容説明に関して,プリントをもとに行っているため,生徒がノートに式や図,あるいは説明文を書くことはない。プリントは穴埋め式にしており,重要な公式などは書かせるようにしているが,最小限にとどめている。この点が,生徒の内容理解にとって良いかどうか不安な面がある。演習問題では,解答する上で図や説明を必ず書くように指導しており,テストの答案を見る限りは,今のところ悪い傾向にはないと感じているが,詳細な比較検討はできていない。今後,さらにテストの結果や答案の様子に注目していく必要がある。また,説明を聞く際には教科書も見るよう指示しているが,時間をかけ過ぎないようにするため,要点のみ説明して終わってしまいがちである。したがって,教科書の「参考」や「話題」などが目に触れることなく進んでしまうことがある。これについては,わずかな時間でも紹介するように心がけたい。

グループワークにより,従来の授業スタイルに比べれば生徒の意欲に変化は見られるが,まだ十分に能動的学習が定着しているとはいえない。当初よりもグループ内において発言が多くなっているが,もっと活発な議論となるようにさせたい。わからないことを言える生徒はいるものの,「この問題はこう考えるのではないか」とか「こうすれば解けるのではないか」といった提示をする生徒はまだ少ない。これは,内容を理解している生徒に消極的な面があり,周りに教えるという意識まで至っていないためである。グループメンバーを初めから自由に組ませるべきであったかもしれないが,今後この点に教師がどう働きかけていくかが課題である。

また,本校が45分授業であることから,時間ごとに生徒の到達度をはかるためのテストはしておらず,今のところ進度を優先している。ただし,できれば単元ごとに小テストなどで生徒の理解度を確認しながら進めるべきと考えている。他には振り返りシートなどで生徒の状態をつかむことも必要である。

その他の課題としては,プリントの準備に多くの時間を要していることが挙げられる。取り組みを始めたところであり,やむを得ないことであるが,わかりやすく説明できるプリントを作るには時間がかかる。さらに,授業後には納得いかない部分を修正するようにしている。

4.おわりに

現在の授業スタイルでほぼ1年経過しているが,実のところ毎時間の準備をするのがやっとであり,落ち着いて授業の振り返りや反省などはできていない。ひと通り全分野の教材ができあがれば,冷静に授業改善に取り組めるのではないかと考えているが,まだその段階に達していない。

導入した主なねらいである学力向上については,まだ過年度との比較検討などができていないため,はっきりした成果と言えるものはない。ただ,テストの答案を見る限り,学力が低下していることはなく,今のところよい結果ではないかと感じている(漠然としているが)。この点については,これからの模擬試験等の成績について,過年度との比較分析などをしなければならない。

試行錯誤しながらの取り組みであるが,改善を加えながら今後もこの授業スタイルを進めていきたい。

[参考資料]

2012.7 第15回授業力向上セミナー「アクティブラーニング実践セミナー」
小林昭文(現 河合塾教育研究開発機構 研究員/日本教育大学院大学 非常勤講師)