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授業実践記録(数学)

「自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考える能力を高めるためには,どのように教材を組織し指導したらよいか」
~中学3年数学 「式の展開と因数分解」 小単元「式の計算の利用」~

長野県信濃町立信濃小中学校 秋山 拓也

1.研究テーマ

自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考える能力を高めるためには,どのように教材を組織し指導したらよいか。

~ 中学3年数学 「式の展開と因数分解」 小単元「式の計算の利用」 ~

2.キーワード

条件がえ   共通したものを見つける

3.研究の仮説

仮説1 単元を構成するときに大切にすること

  • ○もとになる問題を,条件をかえて追究していくことができる教材を用意する。
  • ○自ら課題(行動目標)を立てられるように,学習のモデルとなるもの(条件をかえるとどうなるか)を経験させる。
  • ○生徒自ら条件をかえて問題に取り組めるように,単元展開を構想する。(教材を組織する)

仮説2 1時間の授業を考えるときに大切にすること

①自ら課題を見つけ ・・・ これまでの学習の中にあるプロセスをモデルとして問題を作り出す
②自ら学び ・・・ 児童・生徒が主体的に取り組む。
③自ら考える ・・・ 自分で問題解決ができる。
(解決の方法を見つける,既習内容をあてはめる,自分で学習を進める)

ととらえ,1時間の中では,この3つの中から1つに焦点を絞って,授業展開を考える。

仮説3 1時間の授業のまとめの場面を考えるときに大切にすること

共通したことを見つけ出し,ポイントを押さえることまで見通して指導計画を立てる。授業の終末に解決した結果を整理することで,一般化できることに気づいたり,数や図形の性質や問題の構造をよりよく理解できるようになったりし,学習してきたことを価値づけることにつながる。このことは,さらに自ら課題を見つけ学習していく学習意欲につながると考える。

4.提案内容

(1) 小単元 「式の計算の利用」 (中学3年)を計画するにあたって,仮説に関わり,次のことを大切にして単元を構成した。

仮説1に関わって

  • 条件をかえて追究していくことができる題材として,カレンダーの数表にある法則を取り入れる。
  • まず,「自ら課題を見つける」学習のモデルとなるものを経験させるために,数の性質を考える場面で,元になる問題を解いた後に,条件をかえられそうなところを確認し,自分で条件をかえて問題を作り,解く場面を設ける。
  • 生徒が条件がえをしやすいようにするには,どの問題を基本の問題とするか検討し,単元の流れを考える。

仮説2に関わって

  • 条件がえについては,カレンダーの数表①で「自ら課題を見つける」ことに重点を置いて授業を進め,カレンダーの数表②で「自ら考える」に焦点を絞って,授業展開を考えた。

仮説3に関わって

  • 法則を調べて終わるのではなく,調べたことを振り返る時間を設け,共通することはないか考えたり,法則と式との関連を見つけたりすることを通して,学習したことを価値づける。

(2)単元展開

小単元 「式の計算の利用」 (中学3年)

時数 学習内容
計算の工夫 ①因数分解や展開を利用した計算
②式の値の計算
数や図形の性質 数の性質の証明  ※ ①となりあう2つの偶数の積に1を足した数は…
②となりあう2つの奇数の場合はどうなるだろう…
図形の性質の証明 ③道の面積=道の真ん中を通る円周×道幅
数表の性質  ※ ④カレンダーの数表1
 「自ら課題を見つける」に焦点を絞る
⑤カレンダーの数表2 (本時)
 「自ら考える」に焦点を絞る

※は条件がえをして,課題を追究する授業

5.教材研究

(1) モデルとなる問題

【学習問題】
どこで囲んでも「対角にある数の積の差は7」になるのだろうか?

カレンダーは,どの部分を2×2の正方形で囲んでも,対角にある数の積の差は7になる。

たとえば, 5×11-4×12=55-48=7
  9×15-8×16=135-128=7

のように,具体数で考えた後に,今までの学習を活かして文字を用いて成り立つことを説明する。

<説明> 正方形の左上の数をnとすると,残りの3つの数は右の表のように表される。対角にある数の積の差は,
(n+1)(n+7)-n(n+8)=n+8n+7-n-8n=7
よって,その差は必ず7になる。

この問題をモデルとして,条件がえを行うことで,次のような扱いが考えられる。

(2) 条件がえ

① 囲む四角形をかえる

正方形を,長方形,ひし形,平行四辺形,等脚台形などにかえたときに,どのような法則が成り立つのかを調べる。

長方形 縦2×横3の場合

(n+2)(n+7)-n(n+9)=n+9n+14-n-9n=14 より,差は必ず14になる。

平行四辺形 底辺2,高さ2の場合

(n+1)(n+6)-n(n+7)=n+7n+6-n-7n=6 より,差は必ず6になる。

ひし形 対角線が縦2,横2の場合

(n+6)(n+8)-n(n+14)=n+14n+48-n-14n=48 より,差は必ず48になる。

等脚台形

(n+1)(n+6)-n(n+9)=n+7n+6-n-9n=6-2n より,差は一定にならない。

このあと,それぞれの図形と差の法則とを比較することで,点対称な図形では差が一定になる,定数項の和が等しい時は差が一定になることなどがわかる。

② 囲む正方形(長方形)の大きさを変える

2×2の正方形のサイズを,2×3,2×4,…,3×3,4×4,…とかえていくことで,差の数がどのように変わっていくのかを調べる。

縦を2と固定して横の長さをかえると,右の表のようになる。一般化すると,2×mの長方形では,対角の数の積の差は,7(m-1)となる。

同じように,横を固定して縦の長さを変えても,対角の数の積の差は,7(m-1)となる。

これを,同じ表(行列)にまとめると,右のようになる。
長方形では,差はいつも一定になり,長方形の縦と横の長さによって差がいくつになるか決まる。

③ カレンダーの形をかえる

旧ソビエト連邦で使われていたカレンダーに,1週間が6日のものがある。このようなカレンダーを生徒に提示することで,カレンダーそのものを条件がえしようという意識が高まる。カレンダーをかえた時にも,モデルとなる問題と同じ性質が成り立つかどうか調べることで,数表の性質をより深く考察することができる。
また,週6日のカレンダーでも上記②の追究を進めると,2×mの長方形の場合,対角の積の差7(m-1)が,6(m-1)となる。共通する性質を見出すだけでなく,週○日によって生じる違いから,この数表の構造をより深く理解することもできる。

○今回の授業では,生徒の実態も踏まえ,「週6日のカレンダーの場合は,決まりはどうなるか」のように条件をかえ授業を行うことで,テーマに迫ることができるのではないかと考えた。

(3)資料               (ウィキペディア フリー百科事典 「ソビエト連邦暦」より)

ソビエト連邦暦Ⅰ
(1929~)
黄曜日(ジョールティイ・デーニ)
桃曜日(バラ曜日,ローザヴィイ・デーニ)
赤曜日(クラースヌィイ・デーニ)
紫曜日(スミレ曜日,フィアレートヴィイ・デーニ)
緑曜日(ゼリョーヌィイ・デーニ)

ソビエト連邦暦Ⅱ
(1931~1940)

6.本時案

9年 授業者 秋山拓也

教科名 数学    単元名 式の展開と因数分解

○ねらい

  • どこで囲んでも差が一定の囲み方が,週6日ではどうなるか調べ,週の日数を変えてさらに追究することで,どのカレンダーでも差は一定で,共通点があることに気がつくことができる。

主な学習活動・流れ

(5分) ①これまでの学習の振り返り

(5分) ②「自分が見つけた囲み方は,週6日のカレンダーでも差が一定になるのだろうか。」
【学習問題】
 ・文字式で考えればどうなるか分かるはずだよ

(10分) ③「文字式を使って,差が一定になるのか説明してみよう」【学習課題】
 ・差の値が変わったけど,やっぱりどこで囲んでも差は一緒だ。
 ・週6日以外のカレンダーならどうなるのかな?

(15分) ④「週○日のカレンダーでも同じことが言えるのか調べよう」
 四隅の数を文字で表した式と差に,何か関係がないか着目させたい。

(10分) ⑤気がついたことを発表しよう。
 ・週○日のカレンダーでも,差が一定になる。
 ・差の値は,必ず2番目と3番目の数の項の積になってるぞ!

(5分) ⑥まとめ
どの囲み方でも,どんなカレンダーでも,四隅の数を文字で表したときの2番目と3番目の数の項の積が差になっている。                ・予想される生徒の反応

○期待する反応や言葉

  • どの囲み方でも,どのカレンダーでも,差は2つの数の項を見れば求められるのは驚いた。
  • ・差が一定の囲み方は,カレンダーが違っていても一定になるのは不思議だなと思った。

【板書計画】

7.授業の生徒の姿

<平行四辺形で追究した生徒>

前時に通常のカレンダーを使って,「正方形で囲んだ四隅の数の対角の積の差は一定になる」ことから「他にも対角の積の差が一定になる囲み方があるのか?」を追究した。長方形や平行四辺形,ひし形などは差が一定になることを生徒たちは見つけていった。(右図参照)

本時ではまず,ソビエト連邦で使われていた週6日のカレンダーを提示し,前時に自分が見つけた「差が一定になる囲み方」は“週6日のカレンダーでも差が一定になるか?”を追究した。前時の囲み方を使って四隅の数を文字を使って表し,それぞれ確かめた。週6日カレンダーの日付が,1日後が1つ下,1週間後が1つ右になっているため,式で表すことにやや戸惑っている生徒がいたが,配ったカレンダーに具体的に囲んでみることで,正しく表すことができた。

<週100日の追究をした生徒>

週6日でも自分たちの囲み方は差が一定になることを確認したら,「週○日のカレンダーでも同じことが言えるか」を考え,生徒自身が「週○日のカレンダーなら…」と自由に設定して自分の囲み方について追究を進めた。週5日や4日,8日や10日などで追究する生徒が多かったが,中には週100日ならどうかと調べる生徒もおり,自ら考えて追究する姿が見られた。(週100日などの場合は31日以降もあるものとした数表をイメージして追究を進めることとした。)
追究時,机間支援で回っていったときにA生と以下のようなやりとりがあった。

A生:「これ,いちいち計算しないといけないですか?」
T :「どういうこと?」
A生:「この対角の式の数の部分の和が等しいときは,もう差が一定になるんですよ」
T :「確かにAさんの図の場合は和が等しくて,差が一定だね。他の図でもそうなのかな?」

<A生の学習カードでのやりとり>

A生は,繰り返し文字式の計算を繰り返すうちに,式に隠れているカラクリを見出し,「計算しなくても差が一定になるかどうか判断できる」ことに気がついている。さらには「四隅の数を文字で表したとき,2番目と3番目の式の数の項の積が,差になっている」ことにも気がついた。このA生の気づきを全体に広げ,誰のカレンダーでも,誰の囲み方でも共通する性質としてまとめをした。

8.考察

  • 学習のモデルが,生徒たちの背景として位置づいていたので,条件を変えてもスムーズに追究を進めることができていた。
  • 提示した週6日のカレンダーは,一週間後が下ではなく右のため,四隅の数を文字で表す際に戸惑ってしまったり,勘違いしてしまったりする生徒がいた。見慣れない資料を提示する際にはもう少し丁寧に全体で確認する必要があると感じた。
  • 今回は「個々に条件を自由に変えたのに,どの追究にも共通した点がある」ということを落とし所としたいと考えて授業を展開したが,「なぜ差が一定になるのか?」「なぜそんな共通点があるのか?」という“なぜ…?”を問い返し,文字式や展開している式に着目して,式を読んでいく展開も十分に考えられる。生徒の実態にも応じてどこに着目して授業を組み立てていくかを考えなければならない。
  • ご指導いただいた点として,この一連の学習問題の導入からの「流れ」を大切にするべきというお話をいただいた。突然本時のような学習問題が降って湧いてくるのではなくて,この疑問が成り立つまでには,そこまでの経緯があり,そこまで戻って課題提示をするべきだとご指導いただいた。カレンダーは元々数表の1つであり,数表での様々な経験を基にした課題追究ができるような導入を模索していきたい。