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授業実践記録(数学)

統計的な眼を鋭くするための教材と指導の工夫

山口県山口市立鴻南中学校 大田 誠

1.はじめに

山口県の数学共通テスト(2011.1実施,2年生対象)において,「資料の活用」の領域に関する基本的な問題が出題された。出題された問題は「資料を(1)度数分布表や(2)ヒストグラムにまとめる」問題であり,正答率は(1)8割程度,(2)7割程度であった。一方,平成23年度実施予定であった全国学力・学習状況調査・数学Bの第5問(2)において,本校生徒は,正答率が28.6%,そして無解答率が29.9%であり,正答率の低さと無解答率の高さが際立っている(3学年生徒数259人)。

この両調査からは,知識については定着しているが「資料を読み取り,統計的処理からわかることを根拠に自分の考えを述べること」については大きな課題があることがわかる。つまり,統計が単なる知識に留まっているのである。

生徒には,統計的にものごとを見たり判断したりする力があると考える。ただし,それは,漠然とした,生活経験によるもので,決してデータに強いとは言い難い。このような生徒の統計的な眼を鋭くし,データに強い生徒を育てたいと思い,単元を構成した。

2.授業実践

  • (1)素   材 紙コプター ~滞空時間の長さNO.1は?~
  • (2)数学的活動 ウ 数学的な表現を用いて,自分なりに説明し伝え合う活動
  • (3)学習のとらえ方([1]生徒観,[2]教材観,[3]指導観)

[1] 生徒は生活体験で培われた統計的な眼を持っているが,それは曖昧なものである。

「先生,このテストの平均点は何点ですか」定期テスト後に必ず聞かれることである。『「平均点は,この集団の真ん中の人の点数」だから,平均点より高ければ真ん中の人より良い点数である』という誤った認識をもっているのである。これは本校の生徒に限ったことではないし,大人であってもこのような認識である場合が多い。

また,ニュース番組や娯楽番組において,街角調査をもとにグラフ等を使ってもっともらしい情報を提供しており,生徒はその内容を鵜呑みにしていることがある。中には,ずさんな調査もあり,どこで,どのようにして,どれくらいの資料を集めた調査をもとにつくられた資料なのか,統計的な判断が伴わないまま信じているわけである。このように,生徒はこれまでの生活経験から統計的な眼を持っているが,十分な処理力や判断力を伴ったものではなく,曖昧なものである。

[2] 自らの集めたデータの中に,自分なりの根拠を見いだし説明したくなる教材である。

課題「滞空時間NO.1の紙コプターは?」は,羽の長さの異なる紙コプターを2mの高さから落下させたときの滞空時間を計り,滞空時間の長さで優劣を調べるものである。遊び心をくすぐる本素材は,生徒の触りたい,調べたいという好奇心をかき立てるだろう。そして,自分の手で集めたデータに,自分なりの根拠を見いだし,「どちらの紙コプターの滞空時間が長いか」について説明したくなるのである。

この課題解決には,<1>問題の把握と計画を特定し,<2>データを収集し,<3>データを処理・表現し,<4>データを解釈する,というステップが必要になる。例えば<1>については「何回くらい調べるか」「どのようにNO.1を決めればよいか」「誤差はないか」等について考える必要がある。このことは,未知の事象に対してどのようなアプローチをするかを経験させることにつながる。

[3] 資料の傾向や特徴を読み取ることにおもしろさを見いださせたい。

本単元では,統計的な手法を習得し,目的に応じて手法を選択し,自他共に納得のいくような判断をする力を高めることを目的としている。感覚的にはわかるが,うまく説明できないものに対して,統計的な処理を使って考察したり,資料の傾向や特徴を読み取ったりすることにおもしろさを見いださせたい。

本時は,羽が5cmと6cmの紙コプターの滞空時間を比較する。資料を集める際には「どれくらい集めた方がよいか」「どのように集めるか」等を確認し,ヒストグラムができるようなワークシートにまとめさせる。そうすることで,最大値や最頻値が視覚的にわかり,ワークシートを重ねて透かした時に資料のちらばり具合を確認することができる。そして,集めた資料から自分の結論を持たせ,自分なりの根拠を持って説明させたい。

(4)学習計画(資料のちらばりと代表値)

[1] 資料を収集,整理して,資料の傾向を読み取ろう ・・・・・・・ 6時間(本時1/6)
[2] 測定値の誤差について考えよう(近似値) ・・・・・・・・・・・・・ 2時間
[3] 資料の傾向を調べて,わかることをまとめよう ・・・・・・・・・ 2時間
[4] 自分が調べたいことを調べ,レポートにまとめよう ・・・・・・ 3時間

(5)既習事項とのつながり 度数分布表と柱状グラフのよみ方,かき方(6年)

(6)ワークシートの工夫

生徒が集めたデータをまとめやすいように,表を利用した。
*利用した表はPDFファイルをご覧ください。

ワークシートの表 (PDF:155KB)

これは,滞空時間のデータを表にまとめると,ヒストグラムができるように工夫されている。2012年度の中学校1年生にとって,「ヒストグラムは小学校での既習事項である」ため,このように扱うことにした。データをあつめてからヒストグラムにつくりかえる時間を短縮して,ヒストグラムからの読み取る時間をつくるという利点がある。

(7)主 眼

集めた資料をもとに滞空時間NO.1を決める活動をとおして,資料のちらばり具合に目を向け,資料の傾向や特徴を読む視点を得ることができる。

(8)授業の過程

学習内容 及び 学習活動 予想される生徒の反応 教師の手立て
[1] 課題をつかむ。 ・ 6cmの方が羽が長いので滞空時間が長いと予想するかもしれない。 [1] 実演し,課題のルール(滞空時間とはどの部分をさすか)を確認する。 ・ 生徒の予想を挙手で確認しそのように考えた理由を聞く。
羽の長さが,5cm,6cmの紙コプターをつくり,2mの高さから落下させたときの滞空時間を調べます。 どちらの紙コプターの滞空時間が長いでしょうか。
・ 機体を離す合図を決める(よーい はい!)
・ 2mの高さから落とす(紙コプターの先端とスタート位置の確認)
・ 紙が床に触れた瞬間にストップウォッチをとめる
[2] 課題に取り組む。 ・ 役割を分担する。 ・ データをとる。 ・ 集めた資料を自分のワークシートにまとめる。 ・ うまく記録がとれない班が出てくる。 ・ ストップウォッチのタイミングがあわない。 ・ 作業時間が班によってばらつくかもしれない。 [2] 必要な道具を配布し,作業の手順を説明する。 ・ ワークシートのまとめ方を確認する。 ・ 作業が終わったらプリントにまとめさせる。
どちらの紙コプターが「滞空時間が長い」といえるでしょうか
[3] 2つの資料を見て,「どちらの紙コプターの滞空時間が長いといえるか」考える。 ・ 班で共通データを使って考えさせる。 ・ 小学校の時に学習した内容を思い出すかもしれない。 ・ 平均をとる班が多い。 [3] 補助発問「どのデータから説明できるか」問う。 ・ ヒストグラムの形については,黒ペンで強調させる。 ・ 「○○から,△△であることがわかる」の形でワークシートにまとめさせる。 ・ ホワイトボードにまとめさせる。
・ 5cmと6cmの資料の平均値どうしの比較で説明する
・ 資料の中で最も滞空時間が長い記録で説明する(最大値)
・ 資料の中で最も滞空時間が短い記録で説明する(最小値)
・ 階級の度数で説明する。(階級値 最頻値)
・ 柱状グラフ(ヒストグラム)の位置で説明する。
[4] 班の考えを発表する。 ・ 他者の意見を記録する。 ・ 他者の視点に納得するだろう。 ・ (見方によって「意見が変わる」場合)意見に納得できないかもしれない。 [4] 黒板に張り付けたホワイトボードを使って説明させる。 ・ 他者の説明を聞いた後に,自分のデータ上で確認する。
[5] 授業を振り返る。 [5] 授業の感想をかかせる。

3.授業の実際

時間 学習活動 指導者の働きかけ 生徒の反応
00 [1] 課題をつかむ。
・ 前回はタイムマシンの話をしたことに触れ,今回は「紙コプター」を用意したことを告げる。
03 ・ 一度,紙コプターの落下を実演してみせる。 ・「おー」という声が上がる
  T「羽の長さが6cmと5cmの紙コプターを用意しました。さて問題です。今みたいに落としたとき,どちらの滞空時間が長いでしょう。」 T「伏せて(予想して手を挙げて)。選択肢は3つ。ア 6cm。イ 5cm。ウ どちらともいえない。はい,ア 6cm(の人)。イ 5cm(の人)。ウ どちらともいえない(の人)。はい,顔を上げてください。」
ア 16人
イ  4人
ウ  2人
05 T「赤が6cmの羽,青が5cmの羽です。これからどちらの滞空時間が長いか調べるけど,何回くらい調べたらいい?1回?1回じゃまずいよな。3回か4回?」 ・ 先に滞空時間の計測をして,後から,どちらの滞空時間が長いかを考えてもらうことを告げる。 S「1回はまずい」
S「3回か4回」
08 ・ 班別で取り組むことと役割の内容を伝え,役割分担をするように指示する。 【紙コプターを落とす係】・・・窓枠の下の線に紙コプターの下の線を合わせ,手が羽に当たらないように,羽を指でつまんだ状態から落とす。背の高い者が担当することが望ましい。椅子が置いてある場所で行う。5cmの羽のもの,6cmの羽のものをそれぞれ15回ずつ試行する。 【ストップウォッチ係】・・・紙コプターが地面に着いたときにストップウォッチをとめる。 【記録係】・・・机に座り,大きめの紙2枚に記録を書きとめる。 【紙コプターを拾う係】・・・4人班の場合のみ,4人目の役割。落ちた紙コプターを拾い,落とす係に渡す。 その他の注意点・・・役割分担が決まったら,落とす係は,前に紙コプターとストップウォッチを取りに来る。取った後は,実際に落とし,ストップウォッチを止める練習をする。記録係は,書き方を説明するから,前に集合する。
・ 指示が明確であり,生徒が指示通り動いている。ここでの適切な指示と,配慮された準備が授業の後半の考える時間の確保につながる。
・ 記録用紙は,記録を書き込むとヒストグラムの形になるように工夫してある。前に集合した記録係に具体例を提示し,数回,記録の練習をさせる。
11 ・ 数回生徒が練習した後に,「確認します。」と言い,全員を注目させる。全体の中の1班に実際に落とさせ,計測する例を示す。その中で,次の注意事項を告げる。 ・ 落とすときには「せーの」や「さんはい」などの合図をすること。 ・ 赤と青は,片方ずつ行えばいいということ。 ・ ストップウォッチ係は落とす係に向かい合う形で配置すること。 ・ 記録係は,落とす係の横に机を置くこと。
12 [2] 課題に取り組む。 T「では,始めてください。」 ・ 机間指導をしながら,生徒のやり方を微調整していく。 ・ この間に各予想の人数を板書する。 ・ 各班,一斉に始める。 ・ 生徒は楽しそうに活動している。
22 T「終わったところは紙コプターとストップウォッチを前に戻し,席に戻ります。そして,プリントに記録を写しなさい。
・ 机間指導をしながら,生徒の気付きを拾い,意見を育てていく。
31 T「では,ペンを置いて前を向いてください。今やってみて,どちらの滞空時間が長かったでしょうか。今から班の皆で作ったデータを使って,どちらの滞空時間が長いか,『このデータのこの部分から,何cmのほうが長い』という言い方で,皆で調べてみてください。」 ・ 班で一人,ホワイトボード・黒ペン・必要に応じて赤ペンを取りに来させ,ホワイトボードにまとめた意見を書くように告げる。
・ 平均値に注目する生徒が多数いることを見越して,電卓を持参するように連絡してあった。
32 [3]結論をまとめる。 T「では,始めてください。」 ・ この間に,6班のヒストグラムを例として板書する。 ・ 平均値,最頻値,最大値などに注目する班が多い。
41 T「書けた所は,前に貼りに来てください。」
44 [4] 班の意見を発表する。
・ 生徒の直感的な気付きを,机間指導の間にうまく意見に育てているため,生徒が自信を持って,多様な意見を提案する。
T「班で1人発表する人を決めてください。」 T「はい,では注目して1班から発表してください。」 T「1班と同じように平均を取ろうとしたところ手を挙げて。」→平均の値に赤線で枠を書く。 T「同じような意見だけど,困ったところもありましたね。3班の人。」 T「同じところ?」 S「羽が5cmの滞空時間の平均が1.56秒,羽が6cmの滞空時間の平均は2.07秒なので,6cmの滞空時間のほうが長い。」 ・ 数班の者が手を挙げる。 S「同じような結果が集まっているところの平均を出そうとしたら困った。」 S「同じ結果が集まっている,ヒストグラムの高さが同じところの平均を出そうとしたが,同じ高さの山が2山あったので,どちらの平均を取ればいいかわからなかったから困りました。」
  T「何でここ(高さが高いところ)だけに目を向けようと思ったの?」 S「何回も同じ結果が出ているということは,一番正しいのに近いような気がしたから。」
  T「では5班に聞いてみましょう。」 S「5cmの紙コプターで一番多く出た数値は1.7秒から1.8秒で,6cmの紙コプターは2.3秒から2.4秒になったので,6cmの紙コプターのほうが滞空時間が長いと思った。」
  T「一番出た回数が多いところに目を向けたんですね。5班の場合はそれが1.7秒~1.8秒と2.3秒~2.4秒だったのですね。これだとどうなるか,皆さんも確かめてみましょう。一番ヒストグラムの高いところに,赤ペンで山形に印をつけましょう。これ(黒板に掲示している6班のデータ)でいくとここですね。はい,自分のデータを見て,赤ペンでかきこんでみてください。」 T「ここの班は1ヶ所だったけど,ここの班は2ヶ所ありました。2ヶ所だった班は,手を挙げて。何班かありますね。この場合はどう考えたらよいのでしょうか。東さんどうですか。」
  S「もしも一番高いところが2つあったら,(全データの中で)一番大きい値(最大値)で比べたらよい。」
  T「方法を変えて,一番大きい値で比べるんですね。では,青ペンで一番大きい値に○をつけましょう。」 T「では,次に4班どうですか。」 T「塊で見たところ,ありましたか。」
T「今日は一応ここで終わりますが,だいたい今,6cmのほうが長いんじゃないかという意見の班が多かったように思います。比べ方は班によって様々でしたし,どれが妥当なのかも,いまいち分からなかったところもあるんじゃないかと思います。こういう調べ方について,これから少し学習していこうと思います。ちなみに,今日は5cmと6cmだったけど,9cmと10cmだったらどうなるか,とかやってみたら,また別の結果が出るのではないかと思います。また続きをやっていきましょう。」 T「プリントは終わりの会のときに回収します。感想を書いておいてください。」 S「データの塊で見ればよい。」 ・ 何人か存在している。

4.生徒の反応

授業では,データの処理の仕方やデータの集め方において,特徴的な活動がみられた。

[1] ヒストグラムの見方については,次のような反応があった。

  • ○最大値で比較する見方
  • ○最小値の扱い方(全体的には6cmの方の滞空時間が長いが,最小値だけみると5cmの方の滞空時間が長い)
  • ○範囲による見方
  • ○平均値で比較する見方
  • ○最頻値で比較する見方1
  • ○最頻値で比較する見方2 度数が多い階級が2か所あった班は困っていた。結局,度数が多い階級のデータの平均値をとろうとしていた。
  • ○2つのヒストグラムを重ねて,塊で比較する見方
  • ●中央値に目を向けた意見はなかった。

このように,この単元で学習する知識が多く出ていた。ヒストグラムにまとめられたデータを根拠にして自分の考えを説明することができた。

[2] データの集め方に生徒の統計的な眼があらわれる。

紙コプターを使って班ごとにデータを集める際,次のような反応(発言,活動)があった。

  • ・ 風が吹くと,データに影響が出るので,窓を閉めた方がよいという意見がでた。
  • ・ 20回ほどデータをとったが,紙コプターの強度がだんだん弱くなったため,羽が開かずに落下したデータがあった。それをどうするか生徒同士で議論する場面があった(はずれ値の扱い。さらには,紙コプターを新しいものに変えてよいかどうか)。
  • ・ 計測のタイミングや落下位置にこだわる姿があった(誤差に対する見方)。

5.今後の課題

課題としては,次の点があげられる。

  • ・ ワークシートにある階級の幅は,最初の時間ということもあって教員が提示したが,生徒にまかせることも考えられる(ただし時間が足りなくなる)。
  • ・ 落下実験を何回行うかは,もう少し議論して決めた方が統計的な見方を養うことにつながる。2つの紙コプターの実験回数が異なれば,相対度数の考え方につなげることも可能。
  • ・ 練習させている時に,2つの紙コプターを同時に落としている生徒がいた。単純に「どちらの滞空時間が長いか」であれば,この方法でも確かめることができる。発問を工夫して「どちらの滞空時間が長いか,特徴を調べよう」とすればもっと丁寧な導入になったと考えられる。
  • ・ 実験を20回行うのであれば,20個の紙コプターで実験することも考えられる。

【参考・引用文献】
未来へひろがる数学1,2012,啓林館
統計的な眼を鋭くするための教材づくりと指導の工夫,2013.2,鴻南中 研究のまとめ

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