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授業実践記録(理科)

「セミのぬけがら」を用いた昆虫の体のつくりの観察

徳島県鳴門市鳴門第一中学校 丸山 直生

1.はじめに

無脊椎動物についての学習において,現行の中学校理科の教科書(啓林館2016)では「バッタの体のつくりの観察」が掲載されています。昨年秋,教科書(啓林館2016)のバッタの「気門」の拡大写真と「気門から空気をとり入れて呼吸する」という説明を使い授業を行いました。「気門から肺に空気が入って,酸素が全身に送られるのか」「気門から空気をとり入れると教科書に書いているがイメージできないし,肺があるのか」など,授業後の感想から,生徒は気門で呼吸することがイメージできなかったり,昆虫類に肺があると勘違いしたりしていることが分かりました。

この授業の反省から,観察活動の充実化や実感を伴う理解のために,バッタ以外に何が使えるかを考えました。身近で,採集しやすく,観察もしやすい昆虫は・・・と。そして,思いついたのが「セミのぬけがら」でした。

2.「セミのぬけがら」を使うことの意義

学習指導要領の改訂で「根・茎・葉のつくりと働き」の学習が現行の第1学年から第2学年に,「動物の体の共通点と相違点」の学習が第2学年から第1学年へ変更されます。課題となるのは,小学校での既習事項を活用しながら「外部形態」を学習させ,それが第2学年の「内部形態」の学習につながるような教材を見つけることです。

小学校の生活科や理科の教科書(啓林館2015)には,「セミ」や「セミのぬけがら」が多数掲載されています。小学校で学習したことを思い出しながら学習できるので,学習内容の理解を深めるだけでなく,「学習意欲の喚起」や「興味・関心を高める効果」も期待できます。

「セミのぬけがら」は,庭や公園など市街地でも見つけることができるため,夏休みに採集しておくことができます。7月中旬から8月上旬にかけては,セミが羽化する様子を観察できる機会もあります。また,「セミのぬけがら」は長期間の保存ができ,年間を通していつでも観察が可能です。バッタやトンボなど他の昆虫の「ぬけがら」は壊れやすく,観察には不向きですが,「セミのぬけがら」は比較的丈夫で扱いやすく,実物を自分の手に取り,じっくり観察することができます。しかも,生体のようなエサやり・飼育容器の清掃などの世話も不要で,教師の負担を軽減できます。

3.試行した授業について

(1)準備物

双眼実体顕微鏡,ルーペ,ハサミ,ピンセット,セミのぬけがら

(2)観察の流れ

①観察手順の説明(5分)②「ぬけがら」の観察(10分)③「ぬけがら」のスケッチ(10分)④気門および気管の観察(10分)⑤気付いたことのまとめと発表(10分)⑥後片付け(5分)

(3)指導上の留意点

昆虫に嫌悪感を持つ生徒への配慮が必要です。観察中は,作業を隣で見るのも,仲間の発表を聞くことも「学び」であると生徒に伝えました。ちなみに,漢方薬の蝉退(せんたい)は「セミのぬけがら」です(図1)。湿疹,アトピー性皮膚炎等の止(し)痒(よう)(かゆみ止め)として,蝉退(せんたい)を中心に複数の生薬が配合されています。安心して触れることも伝えました。

図1.漢方薬の蝉退(せんたい) 図2.翅芽(しが)を外す 図3.黒い線に沿ってカット

時間があれば,熱湯で殺菌したり泥を洗浄したりすると衛生的です。また,「ぬけがら」の羽(翅芽(しが))を外すと,胸部の気門を観察しやすくなります(図2,図4)。胸部に羽が4枚ついていることも確認でき,一石二鳥です。カットする部分にマーク(図3)をしておくと作業がしやすいです。

授業の前に,「ぬけがら」を水に5分~10分浸すと(前日から浸しておいてもかまいません)柔らかくなり,足や腹部を「節」で曲げたり伸ばしたりできる様子を再現できます。また,気門の白さが際立ち,気門の観察がしやすくなります。クマゼミやエゾゼミの「ぬけがら」は図5の作業が必要ですが,アブラゼミはそのままで気門を観察できます(図6)。

図4.胸部の気門 図5.腹部の部を切除し気門を見る 図6.アブラゼミの腹部

「ぬけがら」の断面(図7)を観察すると,白い筋(気管)が「気門」からつながって,体中に張り巡らされていたことがわかります。「ぬけがら」に残された白い筋は幼虫時代の気管です。また,生徒が興味を持った部分(図8)を撮影して発表しあったり,トンボ(写真はクロスジギンヤンマ)の「ぬけがら」(図10~13)と比較したりすると,言語活動が充実します。「セミのぬけがら」の前足(腿節)内部の「腱」などを事前に撮影しておき,TV画面で拡大して見せると,「カニ」と似ている部分(図9,12)があることなどに気づき, 外骨格についての理解がしやすくなります。

図7.「ぬけがら」の断面 図8.セミの口(ぬけがら) 図9.前足内部の腱
図10.複眼のようす 図11.大あご(口) 図12.足の節 図13.翅芽(しが)

さらに,草食性動物・肉食性動物をはじめ,植物,食物連鎖,音(鳴き声),光(色),気体,浮力,表面張力,重力,聴覚,スピーカー,電気,合成繊維,撥水性,抗菌作用,ナノテクノロジー,生命の誕生,生物多様性,外来種問題,環境問題,発電,エネルギー,自然災害,地球の歴史,宇宙開発(セミやトンボが羽化する時に羽を広げる仕組みは,人工衛星のソーラーパネル等に応用されている)などに触れると「学び」の幅が広がります。

(4)授業についての考察

「セミのぬけがら」を用いた今回の授業では,「虫(昆虫)は嫌い」と言っていた生徒が授業中に「さわってもいい?」と言い出し,授業後は「夏が楽しみ。セミが出てくるから。」と笑顔で話していました。今まで「触る」ことがなかった「ぬけがら」を「はじめて触る」までに時間が必要だったのは,むしろ当然のことかもしれません。

その他の意見として,「これは,クマゼミと思う。大きいから。」,「目が透けて見える!」,「体中に毛が生えている。」,「ぬけがらの中は空洞になっている。」,「穴が6個ある。ここには,足が入っていたと思う。」,「重なっているけど,小さい羽がちゃんと4枚ある。2枚目の羽は,とても小さい。翅芽はけっこう分厚い。」,「前の2本の足は,なぜ,こんなに太いのか?」,「しっぽ(腹部)を切ったら伸び縮みする!おもしろい。」などがありました。

また,「昆虫の体のつくり」についての「知識の理解度・定着度」を検証するために,学習後約5か月後に鳴門市A中学校2年生6学級175名を対象に,授業で質問紙調査を行いました。今回の調査では,「セミのぬけがら」を観察に用いると,無回答率がゼロになりました。さらに,昆虫類の「足は胸に6本ついている」ことや「羽は胸に4枚ついている」こと「昆虫は肺で呼吸していない」ことなど,「昆虫の体のつくり」で学習すべき基本的な知識の理解度を高めることも示唆されました(丸山ら2018)。

4.まとめ‐教師のみなさんへ‐


図14.クマゼミの羽化

「セミのぬけがら」はセミの生命活動の確かな証拠です(図14)。昆虫についての基本的な知識だけでなく,「自他の生命の尊さ」「自然への畏敬の念」「生命の神秘」などを伝えることができる素材です。

見慣れていて,知っているつもりの「ぬけがら」の観察を通して得た「発見」や「理解」は,言葉では表しきれない「感動体験」を伴います。年月を経ても,ふと懐かしく,この授業を思い出すことがあるかもしれません。

この試験的授業を皆さん流に様々にアレンジしていただき,生徒と共に「理科を学ぶことの楽しさ」を共有していただければ幸いです。

5.参考資料<生徒のスケッチと感想の例>

参考資料 <生徒のスケッチと感想の例>

参考文献

未来へひろがるサイエンス2,啓林館,47-48,2016.
わくわく理科3,啓林館,74-75,2015.
わくわく理科4,啓林館,42-43,2015.
丸山直生:中学校におけるセミのぬけがらを用いた「昆虫の体のつくりの観察」の試み,日本科学教育学会研究会研究報告,Vol.32 №8,7-10,2018.

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