特集 小学校「総合的な学習の時間」−国際理解−

授業展開の応用編
目次

宮崎大学教授 影浦 攻

1.はじめに

 英語活動を行う際に,最初の段階は,授業例に習って授業を行うことだけで精一杯である。しかし,時間の経過とともに自分の経験や子どもの慣れなどが出てくるにつれて,自分なりの様々なアイディアが生まれて,英語活動に自分なりの味付けができるようになってくる。
 第2回(「年間活動計画」について)の中で紹介した英語活動資料『楽しく遊ぼう! 歌おう! Let's enjoy English!』(Step1〜3)に取り上げている様々な授業の例も,それだけに固定するものではなく,取り上げるトッピクや内容を変えたり,活動の組み合わせを変化させたり,あるいは新しい活動を付け加えたりしながら自分なりの英語活動を組み立てて,広げていけばよい。このような活動にこそ,英語活動の楽しさがある。
 今回は,『楽しく遊ぼう! 歌おう! 』の中で扱っている単元の授業展開の応用編として,2つの活動事例を紹介しよう!

2.活動事例

  <応用編1> Show and Tell

 『楽しく遊ぼう! 歌おう! 』(Step3)の単元「1 自己紹介をしよう」に、応用編として第5次の活動を“Show and Tell”の手法で追加してみよう。

私の宝物を紹介します

[授業の内容]
 各自の大切にしているものを絵や実物で示し(Show)ながら,クラスの友達に英語を使って紹介する(Tell)活動である。

[授業のねらい]
 英語活動を行う際に,子どもが,英語をコミュニケーションの手段として使うだけでなく,コミュニケーションを行う際の大切な要素をも合わせて身に付けてくれることをねらいとしている。
  1) 自分の大切にしているものを考える。
  2) 大切なものを絵や写真や実物で示す。
  3) 大切なものを英語を使って紹介する。
  4) 友達に大切なものを提示する際の態度や口調を身に付ける。
  5) 子どもの出番をできるだけたくさんつくり,英語活動への興味・関心を高める。

[授業の方法]
  1) 前もって子どもに,自分が大切にしている身の回りのものを準備しておくように言っておく。例えば,家族の写真,飼っているペットの絵や写真,誕生日などに貰った記念品,大切な文房具,等。
  2) 大切なものを絵や写真や実物で示しながら,決まった英語の表現(下記の下線部)を使って紹介する。
  3) 紹介する際に,英語を覚えておいてもいいし,ちらっとメモを見ても構わない。
  4) 決まった表現にコミュニケーションの視点からなにがしかの表現(Hello./I like it very much. Thank you.など) を付け加えて,表現を広げるようにする。
 “Hello.”
 “This is my treasure.
 “It is my bicycle.”
 “It is from my father.”
 “I like it very much.”
 “Thank you.”
  5) 自分の宝物を紹介する子どもは,聞いてくれる友達の目を見ながら,ゆっくりと説得力のある口調で紹介する。
  6) グループをつくって,その中で全員が発表できるようにする。
  7) 時間の許す範囲で,2,3人の希望者にクラス全体の友達の前で自分の宝物を紹介する機会を与える。

[授業の感想]
  1) 子どもたちには,各自に大切にしている物があったこと,また,友達の宝物を知る機会を持てたことに対する満足感が見えた。
  2) 子どもたちは,自分に関係する身近なことを易しい英語で表現しようとしていた。
  3) 子どもたちは,発表に慣れるにつれて,自信をもって紹介するようになった。
  4) HRTとALTの褒め言葉がタイミングよく与えられたことが,子どもたちに自信を与えていた。

   <応用編2> 既習事項を総合的に結び付ける活動

 『楽しく遊ぼう! 歌おう!』(Step2)の単元「3 これこれ!一押しTVプログラム」の「第4次 おにごっこをしよう」で学習したおおまかな時間の表現と,『楽しく遊ぼう! 歌おう!』(Step3)の単元「2 今日も1日元気です」の「第4次 自分の1日を紹介しよう」で学習した1日の生活とを合わせて,子どもの1日の生活を時間を追って紹介する活動事例を紹介しよう。

わたしの1日の生活を紹介します

[授業の内容]
 子どもの1日の生活を英語で表現しながら,既習の時刻を表す表現と合わせることによって,自分自身のことを表現する楽しみを広げる。

[授業のねらい]
 子どもが自分のことを英語で表現しようとすることは,英語をコミュニケーションの道具として使うことを実感する活動である。英語を実際に使う活動と自分の1日を時間系列でとらえて紹介する活動である。
  1) 自分の1日の生活の大まかな流れを理解する。
get up/wash my face/eat breakfast/brush my teeth/go to school/study/go home/play with my friends/watch TV/eat supper/do my homework/take a bath/go to bed,etc.
  2) 順を追って、自分の1日の生活の様々な行動とそれを行う時刻を考える。
  3) 自分の1日の生活の様々な行動とそれを行う時刻を絵を指しながら友達に紹介する。
  4) 紹介をする際の態度や口調に注意する。
  5) 同じ行動でも,人や家庭によって行う時刻が違うことに気付く。

[授業の方法]
  1) 子どもの1日の生活の大まかな流れを示す絵や写真を提示する。
get up/ wash my face/eat breakfast/brush my teeth/……
  2) “What do you do in the morning?”
 “What do you do in the afternoon?”
 “What do you do in the evening?”
などと言いながら,絵をおおまかに時間帯によって分類する。
  3) HRTやALTの1日の生活の流れをおおまかに紹介する。
 “I get up at six.”
 “I eat breakfast at seven.”
 “I go to school at eight.”
 “I go home at six.”
 “I take a bath at seven.”
 “I eat supper at eight.”
 “I go to bed at ten.”
  4) 子どもの様子を見ながら,午前中だけに限定して紹介したり,午後に限定したりしながら,子どもが英語表現に慣れるまで繰り返す。
  5) 学校での行動について,子どもの様子を見ながら,
 “Do you like PE?”
 “What subject do you like?”
などを使って広げることができる。
  6) 家庭によって行動の時刻(夕食と入浴の時刻、等)が違っていたりすると,子どもの反応を見ながら,話題を広げることができる。
  7) 子どもが自信を持って,グループの前で,あるいは全体の前で,自分の1日の生活を発表する機会をつくる。

[授業の感想]
  1) 子どもたちは,自分の1日の生活を英語で表現することに喜びを見い出していた。
  2) 子どもたちは,教師の追加の英語表現に反応していた。
  3) 子ども同士の生活習慣の違いに興味を示していた。
  4) HRTとALTの褒め言葉に子どもたちの発表の態度がよくなっていった。

3.英語活動を進めるための基礎・基本11

 英語活動を導入するに際して,これまでの英語学習に対する考え方を変えようとして,様々な言葉を使ってきた。このシリーズの最終回にあたり,そのうちの11を短い言葉で紹介しよう。

(1) どのように英語を学習するかについて,「正しくなければ英語ではない」から 「伝わらなければ英語ではない」という考えに意識を転換する。

(2)

 英語の学習方法について,英語は「覚えてから使うもの」ではなく「使いながら身に付けるもの」である。

(3)

 授業の方法について,「無理やり覚え込ませる授業」から「楽しみながら覚えてしまう授業」へと転換する。

(4)

 英語嫌いをつくらないために,英語の音声・文字・文法等を同時に導入することから,音声を中心にした指導へと切り換える。

(5)

 英語活動では,子どもの遊び感覚を重視しながら,ゲーム・クイズ・歌・チャンツ・ロールプレイ・読み聞かせ・スキット等を中心にして授業を構成する。

(6)

 子どもの「話したい」「したい」というニーズを大切にして,それを教材化する。

(7)

 子どもが英語を使えるようになるためには,英語をたっぷりと繰り返して聞かせることである。コップに水を入れるとだんだんと水が溜まり,やがてコップの縁からこぼれ出すように,英語をたっぷりと注ぐことによって,やがてはそれが英語の表現となって口から出てくるようになる。子どもの学年に応じてコップの大きさは,変わるものである。低学年の子どもほど,コップは満杯になりやすい。教師は,コップが満杯になるまで何度でも根気強く,英語を聞かせる必要がある。

(8)

 英語活動では,英語を覚えればいいというのではなく,実際の生活の中でのコミュニケーションを行うという視点を忘れないようにする。

(9)

 子どもを退屈させないために,1時間の授業で,使う英語は同じであるが,活動に変化をつけて子どもの目先を変えるのがプロの教師である。

(10)

 教師が子どもに英語を教えてやろうという姿勢では授業が苦痛になる。教師も子どもと一緒になって英語の世界を広げて自分も楽しむ姿勢が必要である。

(11)

 教師は,結構たくさんの英語を知っている。使えないのは,その英語が錆びついているからであって,勇気を出して英語を使って,その錆を落とそう。

冊子の該当単元のPDFファイルを挿入してリンクさせていますが、2色の色は冊子の色(Step2:緑色,Step3:青色)にあわせていません。全部赤色になっています。



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