特集 小学校「総合的な学習の時間」−国際理解−

「英語活動」の授業展開
目次

宮崎大学教授 影浦 攻

 今回は,前回(「年間活動計画」について)の中で紹介した英語活動のための資料『楽しく遊ぼう! 歌おう! Let's enjoy English!』Step1〜3で扱っている活動を例にとって,「授業展開」の仕方の基本と留意点を述べることにしよう。

1.活動例1(『楽しく遊ぼう!歌おう! Let's enjoy English!』Step1の中の活動例)

 ○単元名 「3 色で遊ぼう」

第1次 いろんな色を探そう 〈1時間〉

[活動の流れ]
1.大きな声であいさつをしよう。

2.カードを見ていろんな色を英語で言ってみよう。

3.“Colors”を簡単な動作を入れて歌ってみよう。

4.教室の中にあるいろんな色を探そう。

5.いろんな色の言い方をふりかえる。

6.元気に終わりのあいさつをする。

 ここでは,2番目の活動である「カードを見ていろんな色を英語で言ってみよう。」を例にとり,英語活動の授業の改善の視点を述べることにする。

[活動の方法]
  1) 教師は,クイズ形式にして,色カードの一部を少しずつ見せる。
  2) 子どもは日本語や英語でその色の名前を答える。
  3) 教師は,何度も1)の形式を繰り返し,英語を使って演技をしながら問いかける。
  4) 子どもは,教師の真似をして英語で言うようになる。

[活動の特徴]
  1) 遊び感覚を盛り込んだクイズである。
  2) 子どもは教師の英語と動作と色カードをじっと見ながら,内容を理解する。
  3) 子どもは,英語の意味がわかるようになった段階で,自分も口に出して言う。

[活動のねらい]
 ターゲットになっている表現を何度も聞き,実際に自分が使えるようになる。ここでのターゲットの英語の表現は,
   “What color is this?”
   “It's red.”
   “Very good.”
である。

[活動の実際]
 子どもたちの活動の様子を観察すると,次のようである。
  1) 教師がもったいぶって取り出す色紙の色を日本語で当てる。
  2) 教師の英語を聞きながら,動作と色紙をじっと見ている。
  3) 自分も真似をして色を英語で言う。

[改善の視点]
  1) 子どもが自信をもって活動に取り組めるようになるまで,忍耐強くモデルを示す。
 子どもが英語を口にするまでには,音をきちんと聞きとり,何度も頭の中で理解し,勇気を出して真似をしてみる,という過程がある。コップに水を注ぐことを例にとると,コップに水を注いでいくと次第に水のかさが増えて一杯になり,さらに注ぎ続けると縁から水がこぼれ出るように,子どもが英語に慣れていくと,自信を持って英語を口にするようになる。
 教師は,多くの場合,モデルとして2 〜3 回子どもに聞かせて,直ぐに「○○君,今度はあなたが言ってごらん」と要求する。ところが子どものコップはまだ一杯になっていない状態であると,子どもは下を向いたまま黙るか,間違った発音をするかである。このような状態では,直ぐに子どもを英語嫌いにしてしまう危険性がある。
 教師は忍耐(Patience)をもって,何度も英語を聞かせて,子どもが自分から言ったりしたりするのを待つ必要がある。

  2)

 子どもの興味を引きつける面白い活動をいくつか組み入れる。
 英語活動の授業を構成する際に,一番大切なことは,子どもの興味を引きつけてはなさないようにすることである。1時間の授業には,「活動の流れ」に示したように6つの遊び感覚豊かな活動(Play)が組み込まれている。このように種類の異なる活動を組み込むことによって,子どもは目先が変わり,新しい場面が展開されたように感じる。
 ここで大切なことは,それぞれに場面が変わる活動( 歌,チャンツ,クイズ,ゲーム,ロールプレイ,スキット,読み聞かせなど) の中で教師が使う英語は,その時間のターゲットとなる英語に限定することである。この時間であれば,
  “What color is this?”
  “It's red.”
  “Very good.”
である。子どもを退屈させることなく,楽しく同じ英語を聞かせ,表現させるような練習(Practice)を組み込むような授業構成を工夫することが大切である。この授業の工夫によって,子どもは自然に英語に親しみ習熟していくものである。

  3)

 子どもに達成感を与える褒め言葉(Praise)をかける。
 子どもが授業を面白いと感じる要件は,
  ・自分が授業の活動に参加できること
  ・自分を何らかの形で表現できること
  ・自分の活動や表現を認められること
である。子どもが喜んで活動に参加できるように,何かにつけて褒める言葉をかけることを忘れてはならない。

2.活動例2(『楽しく遊ぼう!歌う! Let's enjoy English!』Step2の中の活動例)

 ○単元名 「2 好きな食べ物や飲み物は何ですか?」

第2次 自分の好きな食べ物や飲み物を言ってみよう〈1時間〉

[活動の流れ]
1. 大きな声であいさつをしよう。

2. 好きな食べ物や飲み物をたずねる言い方を知ろう。

3. 食べ物・飲み物カルタをしよう。

4. 友達に好きな食べ物をたずねてみよう。

5. インタビュー結果を発表する。

6. 元気に終わりのあいさつをする。


 ここでは,4番目の活動である「友達に好きな食べ物をたずねてみよう。」を例に取り,英語活動の授業の改善の視点を述べることにする。

[活動の方法]
  1) インタビューカード(Step2のp.17参照)を人数分準備しておく。
  2) このカードを持って,友達にインタビューする。
  3) インタビューの結果をこのカードに記入する。
  4) カードの記入がすべて終わった子どもから順に座らせる。

[活動の特徴]
  1) 遊び感覚を盛り込んだゲームである。
  2) 早くインタビューカードを一杯にしようと友達にインタビューをして回るという競争の要素を含んでいる。
  3) 子どもがターゲットの英語表現を何度も聞き,何度も口に出して言う機会がある。

[活動のねらい]
 ターゲットになっている表現を何度も聞き,実際に自分が使えるようになる。ここでのターゲットの英語の表現は,
  “What food do you like?”
  “I like spaghetti.”
である。

[活動の実際]
 子どもたちの活動の様子を観察すると,次のようである
  1) カードを手に持ち,友達同士でインタビューをして回っている。
  2) わいわい言いながらインタビューの結果をカードに書き込んでいる。
  3) 子どもの使っている英語表現に耳を傾けると,
  “What food do you like?”
  “I like spaghetti/pizza/rice/….”
をいきなり使って,済むとまた走って別の子どもにインタビューをしている。

[改善の視点]
  1) 遊び感覚豊かなゲームを準備し,その中でターゲットとなる英語表現を使う。
 英語活動では,ターゲットの英語表現をただ身に付ければいいというものではない。遊び感覚豊かなゲームを通して,実際にどういう場面でどういう英語表現を使うのかを子どもに実感として体験させることが大切である。

  2)

 英語活動には,コミュニケーションの視点を入れる。
 子どもが使う英語表現が,
  “What food do you like?”
  “I like spaghetti.”
だけというのは,コミュニケーションの視点から見るとはなはだしく不自然である。日常生活において,いきなり何の前触れもなく,このようなやりとりが行われることはない。そこで,少しでもコミュニケーションの視点に立てば,以下のようなやり取りを指導することが大切となる。
  Hanako: Excuse me, but what food do you like?
  Taro: I like spaghetti.
  Hanako: Oh, spaghetti. Thank you.
  Taro: You're welcome.
 下線部の表現は,コミュニケーションをスムーズにするための潤滑油の働きをするものであり,いつでもどこでも使える表現である。このような表現を早くから指導しておくことによって,言葉を使う際の自然さを身に付けさせることになる。

 また,「活動の流れ」の5の活動(インタビュー結果を発表する)についてコメントしてみよう。

[活動の方法]
  1) もう一度全員の前でターゲットの英語表現を使って演技をする。
  2) 他の子どもは,演じている子どもの好きな食べ物を発表する。

[活動の特徴]
  1) 4の活動(友達に好きな食べ物をたずねてみよう)の復習である。
  2) 1組の子どものインタビューを全員で集中して聞くことになる。

[活動のねらい]
 ターゲットになっている表現を聞き,実際に自分が使えるようになるように確認する。

[活動の実際]
 子どもたちの活動の様子を観察すると,次のようである。
  1) 1組の子どもの発表をじっと聞いている。
  2) その発表についてのコメントを言いはじめる。
  3) 自分も発表したくなって,手をあげたりする。

[改善の視点]
  1) 活動に目的を持たせることによって,子どもの遊びに意味を持たせる。
 この活動では,1 組の子どもに全員の前でもう一度英語表現を使うことを求めており,他の子どもは演じている子どもの好きな食べ物を発表することになる。このことは,ある活動が次にくる活動の前提として行われるものであり,何らかのねらいを持って行われると,活動自体に意味がでてくる。そのことが子どもにとって,英語を使って何かをするということ(Production)の楽しさが増す結果となる。
 例えば,先の4の活動を例に取ろう。活動4では,インタビューカードを完成させるだけではなく,カードを上手に活用することによって,「友達の大好きな食べ物ベスト5!」をまとめるというような活動に広がっていくと,このインタビュー活動が大きな意味を持つことになる。

 さて,最後に授業改善の視点のまとめとして,注意すべき6つの項目をあげておく。
(1) 子どもが自信をもって活動に取り組めるように,教師は忍耐強くモデルを示す。

(2)

 子どもの興味を引きつける面白い活動をいくつか組み入れる。

(3)

 遊び感覚豊かなゲームを準備し,その中でターゲットの英語表現を使うようにする。

(4)

 英語活動には,コミュニケーションの視点を入れる。

(5)

 活動に目的を持たせることによって,子どもの遊びに意味を持たせる。

(6)

 5つのP(Patience,Play,Practice,Praise,Production)を気にかけよう。



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