私の実践・私の工夫 生活科

1年

生命の尊さに気づくことができる生活科(1年生)
〜聴診器を使って,生命の躍動を実感する活動〜

K県S市立O小学校
教諭
 

◎はじめに

最近の子どもたちの周囲には,テレビゲームなどのリアルな仮想現実の世界も広がっている。仮想現実の世界では,ボタン操作一つで人を傷つけたり,殺したりすることができ,逆にリセットボタンの操作一つで命を復活させることも可能である。生命の尊さに気づかないまま成長してしまい,生命をおろそかにするなど,新たな社会問題になっている。

そこで,生活科で動植物とふれあう活動を通し,自然の不思議さや面白さに興味・関心をもつとともに,生命の躍動とその尊さに気づき,大事にしようという思いをもつことをねらいとして,授業を組み立てた。その際に,生命の躍動をより実感することができるように,聴診器を活用した。

◎ネイチャーゲーム「木の鼓動」

○きっかけ

子どもたちは,4月に2年生からアサガオの種を譲り受け,5月に成長を楽しみにしながら種まきをし,世話を始めた。日々成長するアサガオの変化の様子を見て,生命の存在を実感しながら世話を続けた。そんな折,聴診器を使うことで生命の躍動を実感することができる「木の鼓動」というネイチャーゲームがあることを知り,植物の栽培にかかわる内容の発展として取り入れることにした。

1.単元名

「ぐんぐん のびろ」

2.目標

3.授業の実際

〈聴診器にであう〉

はじめに,子どもたちに聴診器を提示して,「これは,なんだかわかる?」と問いかけた。すると,すぐに「聴診器だ」「お医者さんが使っているのを,見たことあるよ」「胸の音を聞く時に使うんだよね」という反応が返ってきた。聴診器の扱い方を知り,扱いに慣れることができるようにするため,自分の心臓の鼓動を聞くことにした。「自分の胸にあてて,音を聞いてみよう」と投げかけると,子どもたちは自分の胸に当て始め,一生懸命に聞きはじめた。そのうち,「あっ,聞こえる」「『ドク,ドク,ドク』っていう音だね」という反応が返ってきた。その後,「どうして音が聞こえるんだろう?」と問いかけると,「心臓が動いているから」「人間が生きている証拠だよ」という反応が返ってきた。「聴診器で聞こえる音=生命がある証拠」ということを,子どもたちが共有できたようである。

〈木の生命を感じる〉

木の鼓動を聞く

次に,聴診器で木の鼓動を聞くとどんな音がするかを予想してみた。「この聴診器を木に当てると,どんな音がすると思う?」と問いかけると,「何も音がしない」「木も生きているから,何か音がするんじゃないかな」「人間の心臓と同じような音がするんじゃないかな」など,様々な意見が出された。この時点で,すぐにでも外に出て,やってみたそうな様子である。早速,「木にあてて,音を聞いてみよう」と投げかけ,校庭に出ることにした。

校庭に出て,様々な木に聴診器を当てて,音を聞こうとし始めた子どもたち。初めは,「何も聞こえないよ」と言っていた子どもたちであるが,聴診器を木に当てたり離したりしながらよく聞いてみると,「何か聞こえるよ。」「『ゴーッ』っていう,すごく小さい音が聞こえるよ」と言い始めた。微かに聞こえる木の鼓動に気づいたようである。

〈感じたことを共有する〉

活動の後,教室に戻ってきて,「木の鼓動を聞いて,感じたことや考えたことを発表しよう」と投げかけた。「聴診器で音を聞くのが,すごくおもしろかった」「聴診器を木にあてると,『コーッ』という音が聞こえて,びっくりした」「木も生きているんだなと思った」などという反応が返ってきた。「聴診器で聞こえる木の音=木にも生命がある証拠」ということを,子どもたちが共有できたようである。

4.授業の成果

・ 聴診器を使ってとても小さな木の鼓動を聞くことができた子どもたちは,「あ,聞こえた」「すごい」「『コーッ』という音がするよ」などとうれしそうな表情を見せ,自然の不思議さや面白さに興味・関心を示していた。

・ 自分の心臓の鼓動と,木の鼓動とを関連づけ,「木も生きている」という結論を見出し,生命の躍動を実感することができた。

・ 「他にも生きているものを探したい」と言いながら,休み時間などに聴診器を持ち歩いて,いろいろなものに当てては音を聞いて楽しんでいる様子が見られるようになった。

5.授業の課題とその対処

・ 木の鼓動がとても小さな音だったため,授業の時間内に聞き取ることができない子もいた。

→休み時間を使って,もう一度木の鼓動を聞きに行き,多くの子が聞き取ることができたように思う。

・ 木の鼓動はとても小さな音だったため,本当に木の鼓動を聞き取っていたのか,それとも聴診器が木に擦れる音などの別の音を聞き取っていたのかは不明である。本来はすごく小さな「ゴーッ」という音が聞こえるはずであるが,「ドクドクって聞こえたよ」という感想も出た。

→児童が本当に正しい木の鼓動を聞き取っていたかどうかは,確認のしようがない。「ドクドクって聞こえた」という児童は,思いこみで間違った音を聞き取ってしまっていることは確かだが・・・。しかし,これは1年生の集中力からして難しいことであるため,たとえ間違いであっても生命の躍動を実感した気になり感動している子はそれでよしとし,その子に対して「その音は,木が生きている証拠の音ではないよ」などとは言わなかった。

◎ウサギとのふれあい

○きっかけ

本校の飼育小屋では,動物委員会が中心となってウサギを飼育している。10月下旬から12月初旬にかけて,木曜日の昼休みに「ウサギとふれあおうタイム」という動物委員会による活動が行われ,多くの1年生がはじめてウサギとふれあう経験をした。そして,ウサギに興味・関心をもったこの機会に合わせ,生活科で動物の飼育にかかわる内容の学習を取り入れた。

ウサギは目に見えて動いているため,生命があることは明白であるが,いろいろな感覚を使ってウサギの生命の躍動を実感させたいと考えた。そこで,ウサギとふれあって体の温かさを感じ取ることだけでなく,以前に学習した「木の鼓動」を応用し,聴診器を使って心臓の鼓動を聞き取ることを活動として取り入れた。この活動を通して,「かわいい」「楽しい」「飼いたい」という感想をもつことだけにとどまらず,生命の尊さに気づかせるとともに,生命を大切にするということは実際にどのようにしていくことなのかということについても考えさせていきたいと構想した。

1.単元

「げんきにそだて」

2.目標

3.授業の実際

ウサギとふれあうことに自体に慣れ,喜びを感じることができるよう,ウサギと遊ぶ時間を2時間確保した。その後,聴診器を使った活動に入っていった。

〈以前の授業を思い出し,今回の授業につなげる〉

まず,生き物の生命に着目することができるよう,以前に聴診器を使って木の鼓動を聞いた活動を思い出すことから始めた。「聴診器で木の音を聞いたときのことを思い出してみよう」と投げかけると,「聴診器を当てると,『コーッ』という木の音が聞こえた」「木も生きていることが,よくわかった」という反応が返ってきた。子どもたちは,活動したことを覚えているようである。

〈ウサギの生命を感じる〉

次に,ウサギの体に聴診器を当てるとどんな音がするかを予想させた。「心臓の音が『ドク,ドク,ドク』って聞こえると思う」「ウサギにも命があるから,心臓の音が聞こえるよ」という反応が返ってきた。この時点で,すぐにでも飼育小屋に行き,やってみたそうな様子である。そこで,「ウサギさんに聴診器を当てて,音を聞いてみよう」と投げかけ,飼育小屋に行くことにした。

飼育小屋に行き,ウサギに聴診器を当てて,音を聞こうとし始めた子どもたち。聴診器を当てると,すぐに「『ドクドク』って聞こえる」「心臓の音だ」と言い始めた。ウサギの心臓の鼓動に気づいたようである。

聴診器でウサギの心臓の鼓動を聞く(1)(2)

〈感じたことを共有する〉

ウサギの世話をする(1)(餌やり)

活動の後,教室に戻ってきて,「ウサギさんとふれあったり,聴診器で鼓動を聞いたりして感じたことを,学習カードにまとめてみよう」と投げかけた。そして,学習カードに書いた後,発表し合った。「ウサギさんは,とてもかわいかった」「一緒に遊ぶのが,すごく楽しかった」という感想が出された。また,「心臓の音が聞こえて,ウサギさんも生きているんだと思った」という感想が出された。「聴診器で聞こえるウサギの心臓の音=ウサギにも生命がある証拠」ということを,子どもたちが共有できたようである。さらに,「ウサギさんの命を大事にしようと思った」という感想から,「ウサギさんの世話をしてみたい」という考えまでもが出された。

その後,「命を大切にするということは,実際にどのようにしていくことなのか」ということを考えさせた上で,飼育小屋の掃除やえさやりなどのウサギの世話をする活動へとつなげていった。

ウサギの世話をする(2)(飼育小屋の掃除)

4.授業の成果

・ 事前に「ウサギとふれあおうタイム」や授業の中で,ウサギと遊ぶ機会を十分に設けたため,初めは怖がっている子もたくさんいたが,ほぼ全員がウサギを抱けるようになった。

・ 導入で「木の鼓動」の学習を想起した際に,ほぼ全員の子がしっかりと記憶に残っており,生命の躍動や尊さを実感することをねらいとする学習にスムーズに入っていくことができた。

・ 自分の心臓の鼓動や木の鼓動と,ウサギの心臓の鼓動を関連づけ,ウサギの生命の躍動を実感することができた。

・ 動物アレルギーの子も,飼育小屋の網に聴診器を通してあげることで,飼育小屋の外からウサギに触れることなく,心臓の鼓動を聞くことができた。

・ 生命の躍動を実感したことで,「ウサギさんをもっと大事にしたい」という気持ちが芽生え,「ウサギさんに餌をあげたい」「世話をしてみたい」などの命を大切にする優しい気持ちを引き出すことができた。

・ 飼育委員会の上級生にウサギの世話のしかたを教えてもらい,休み時間に一緒に水やりや餌やり,飼育小屋の掃除等を行うことになった。たくさんの子が一度に世話をしに行ってしまうことがないように,クラス全員で当番を決めて交代しながら活動していくことになった。

ウサギの世話をする(3)(ウサギのベッドを作る)

5.授業の課題とその対処

・ ウサギとふれあって,「ウサギの体をさわって,どんな感じがした?」と子どもたちに問いかけると「毛がふさふさで,気持ちよかった」などと体毛に着目している感想が多かった。また,体の温かさに着目できている子でも,生命の躍動と結びつけることは,なかなか難しいようであった。

→自分の服の中に手を入れて,自分の体の温かさを感じ,「この体の温かさは,人が生きている証拠なんだよ」と教えた。すると,「ウサギさんの体の温かさも,生きている証拠なんだね。」と何名かの子が気づいた。それを,教室で発表することによって,気づけなかった子にも広め,共有した。

◎おわりに

最も多くの情報を一度に受け取ることのできる感覚は視覚であるため,観察の際などには得てして視覚ばかりに頼ってしまい,目で見たことばかりを記録してしまいがちである。しかし,子どもの気づきの質を高める上で,諸感覚をめいっぱいに使って実感することは,とても大切なことである。子どもが様々な事象とふれあう際には,多様な観点からより質の高い気づきができるようにしたいと考えている。その際に,聴診器は,聴覚に意識を集中させることができる,とても有効な教具であると感じた。

今回はこの聴診器を活用したことで,人間や木,ウサギといった生命あるものが躍動する様子を子どもたちによりよく実感させることができた。そうしたことで,「ウサギさんをもっと大事にしたい」という優しい気持ちが芽生え,「ウサギさんに餌をあげたい」「世話をしてみたい」などの生命を大事にする具体的な活動につなげることができたように感じている。


前へ 次へ

閉じる