1・2年
人間性豊かな児童を育てる          
〜『大きくなあれ』〜          

長崎県A小学校



1.単元名 『大きくなあれ』


2.単元観

児童の実態

 本校は小規模であり,1年生と2年生との結びつきが強く,生活科などの学習では2年生をリーダーとして一緒に活動している。2年生は1年生への配慮を心がけており,1年生は頼りになる存在として2年生を慕っている。

 4月末より,あさがお,野菜の種や苗植えを行い,朝からペットボトルを持って水やりをする1年生の姿が継続して見られている。


単元観について

 本単元では,学習指導要領,目標(2)−内容(7)にもとづくもので,植物の世話を通して,生き物への愛着や親しみを育てていくものである。加えて,新学習指導要領により,生活科では,人との交流を深めることが求められている。

 そこで,本単元でも野菜を育てるだけでなく育てる過程において,多くの人に触れ合えるように想定した。

 子どもたちは,野菜の種まき,苗として育ったところで,『苗やさん』を開き,ポスターやチラシで地域の人々に呼びかけ,苗を分ける活動をしている。また,畑を回り,作業をしているおばあちゃんたちに,どうやったら立派な野菜を育てられるかを聞いて回った。

 それらの交流を通して,地域のおばあちゃんたちにも気軽に声をかけられるようになった。

 次は,おばあちゃんたちをよんで,感謝(畑をみてもらったお礼)を込めた活動をしようという意見が子どもたちから出てきた。

 最初は,2学年から出た『去年は野菜を育ててサラダにして食べたよ』という意識が,様々な活動を体験する事を通して,単元の終末を迎える際には,『お世話になった人への感謝』に変わることを想定しながら支援していくものとする。


T・Tの活用について

 子どもたちの課題意識を引き出し,高める際(導入),昨年度活動を経験している2学年の存在は大きい。そこで,共通の活動の中に,課題を1・2学年それぞれ違わせることで,合同の授業が可能になった。子どもたちの意識として,1学年の場合,初めて体験していく中に,植物に対する愛着がめばえてきている。『自分たちが植えた苗を大切にしなくっちゃ。』という意識である。一方,2学年においては,昨年の経験を活かし,かつ,1学年のフォローをすることである。『来年の今ごろ,1年生は2年生になっているよね。きちんとお世話しているだろうね。』という発言がみられてきた。

 体験の中から,新しい情報や技能が知識となって蓄積していく中で,それぞれの学年が協力・協同しながら活動していくことを大切にしながら,個に応じた支援をより深くしていくために,T・Tの授業を取り入れた。


学校教育目標との関連

 自分たちの育てている苗に対して,愛着を持ち,より大きく継続して育てていこうとする意識と,成長した作物を前に成長の喜びを分かち合い,関わった方々への感謝の気持ちを育て,高めていくことを通して,本校教育目標の『生きることに喜びを持ち,自ら考え,自ら学び,自ら鍛える人間性豊かな児童・生徒を育てる。』につなげていきたい。


総合的な学習につながる基礎・基本の充実について

 3学年から始まる総合的な学習の時間に向けて,課題に向かって追究していく子どもを育てるためには,生活科において,興味を持って意欲的に取り組む力や課題を発見する力を育てることが求められていると考える。

 つまり,生活科では,総合的な学習を進める上で,基礎・基本となる力をつけうる教科の一つだと考えている。

 本単元においての,基礎的な力や基本的な態度について考えてみると以下のようなつぶやきがでてくるものと考える。その小さなつぶやきを大切にしながら,支援(教師のうなずきやかたりかけ)を続けていきたい。

 <基礎>

興味関心(愛着・成長の喜び等)をしっかり持ち,あきらめないで活動する態度
  「野菜の 種を がんばって 育てるぞ。」
「お水を やらなきゃ。」 「きょうは 暑いぞ なえは お水をほしがってるよ。」
「苗が いっぱい!」 「大きくなあれ」

疑問や問題を見つける力
  「あっ,なえが かれかかっているよ!」
「こっちには,虫がついているぞ!」

 <基本>

問題や疑問が生じた際の対処法を考える力・先を予想して対策を考える力
  「枯れかかっているなら,水を やろうよ。」
「虫が ついたら どうしようか?」「おばあちゃんに 聞きにいこう!」

課題意識を持って,意欲的に活動していこうとする態度。また,新しく生じてきた課題に対しての解決方法を模索し追究していこうとする態度。
 

「おばあちゃんが 育てている 畑の トマト!くきが 木みたいに大きかったよ。なにが ちがうのかな。」
「きっと 畑の パワーが ちがうんだよ!」
「どんなことを 工夫しているのか 聞いてみよう。」

『おばあちゃんが いってたけど 水は 昼には やらないんだって。』
『どうしてかな?』
『昼に 水を やったら 太陽の光で 葉っぱが だめに なってしまうんだって朝と 夕方に たっぷりと 水をやっているんだって』
『肥料の やりかたも 教わってきたよ。』
『根元にはやらずに まわりに 少しずつ やるんだって。』
『よし やってみよう。』

「できた野菜を どうのように しようか?」
「おせわになった おばあちゃんたちを 呼んで サラダパーティーを開こう。」



3.単元の目標

自分たちが日頃食べている作物について興味・関心を持ち,育ててみたい作物の種の準備や世話をすることができる。
普段何気なく過ごしている地域に目を向け,身近な自然や社会の良さに気づき,自分たちの活動に活かそうとすることができる。
異学年と協力し合い,地域の人々とあたたかく交流することができる。


4.活動計画 全体 11時間

単元の流れ 子どもの意識 支援・手立て
2年生 1年生
小単元(1) 去年野菜を育てたよ。
今年もやりたいね。
1年生にも教えてあげよう。
ぼくたちも育ててみたいな。  
やさいを
そだてよう<4>
キュウリ,ミニトマト,ナス,ピーマンを育てたいな。
どんな野菜をそだてようかな。 苗の準備
  焼きとうもろこしを食べたいな。   種の準備
(とうもろこし,オクラ,枝豆)
    とうもろこし,オクラ,枝豆の種ってどんな形をしているの? 苗ポット
  種もあるよ。
ポットで育てようよ。
土を入れて1年生に植えさせてあげよう。
   
    植えてみたいな。
早く芽が出ないかな。
 
      水やりの励まし
    芽が出てきたよ  
  大きく育ってね。 水をかけてあげよう。  
小単元(2) 苗が育ってきたよ。
たくさんできたから,どうしよう?
   
なえやさんを
ひらこう<3>
お世話になった人にあげたいな。 家に持って帰りたいなあ。  
  苗屋さんをすると,ほしい人が持っていけるじゃないかな。 なめくじがいるぞ。
退治しよう。
 
  引き換え券を作っておこうよ。   お金ではなく,引き換え券をチラシの中に書いておくことで,気軽に参加できることを説明する。
  チラシを作って配ろうよ。
1年生にも書いてあげようよ。
本番でいる物は?
私たちも何かできないかな。
ポスターをはってお知らせしよう。
看板は?
学級通信で呼び掛け
画用紙,インクペン
  何を売っているのか札がいるぞ!
椅子や机がいるよ!
券を入れる物! お店を想起することで,どんな工夫をしなければならないのかを考えるように助言する。
  よし!みんなで作ろう   机・椅子等自分達で協力しながら準備することで,苗屋としての自覚を持つように支援する。
  苗屋さんを開こう。
大きな声でお客さんを呼ぶぞ。
私達が育てた苗!
買ってくれるかな。
交流の視点
(触れ合い)
  あっという間に売れたぞ。
うれしいなあ。
2年生は売り方がうまいなあ。
おばあちゃんも来てくれたよ。
元気に伸びてきた命をここで無駄にしてしまってはいけないことを踏まえ,継続して,意欲的に活動できるように言葉かけなどの支援を続ける。
  僕達も苗を植えて育てるぞ。 お水をいっぱいかけてあげるよ。
小単元(3) あれあれ! 野菜がいっぱいあったよ 交流の視点
(お話を聞く。わからないこと尋ねる)
畑の先生
<4>
おばあちゃんの畑とくらべると,ぼくたちの方が小さいぞ。 野菜はかわいいね。
1 おばあちゃんの畑をみてみよう。
  (1)
おばあちゃんたちの畑見に行ってわけを聞いてみよう。 すごくかわいいっておばあちゃんが言っていたよ。
土づくり
水のやり方
肥料のやり方
おばあちゃんの野菜に対する愛情
育て方の工夫
  おばあちゃんたちにぼくたちの畑をみてもらおう。  
  おねがいじょうを書こう。 おねがいをしにいこう。
  おばあちゃんの家へとどけよう。  
   
2 おばあちゃんがぼくたちの畑にきてくれたよ。  
  (1)本時  
おばあちゃんが来てくださったよ。
おばあちゃんありがとうございます。
土の状態
葉っぱや茎などの成長の状態
 
   
どうしたらいいか教えて下さい。
おばあちゃんはいっぱい野菜について知ってるね。
   
   
肥料のやり方が分かったぞ。
     
 
肥料を入れたら,たくさんなるといいな。
おいしい野菜ができるといいね。
 
   
3 おばあちゃんありがとう。
  (1)
おばあちゃんたちのおかげだね。    
    ありがとうをいいたいです。 感謝の気持ちを表す。
  おばあちゃんたちをよんで,よろこんでもらおうよ。    
    サラダパーティーをしようよ。 みんなで収穫の喜びを分かち合う。
  パーティーの計画をたてよう。 歌を歌ったら楽しいよ。  
  音楽で学習していることを発表して,楽しんでもらおうよ。    
      関連的指導
音楽:1
国語:1
  招待状を書こう。    
       
4 おばあちゃんありがとうの会
  (1)
おばあちゃんの紹介をします。 おばあちゃん来てくれてありがとうございます。  
  白百合会のおばあちゃんたちです。
お礼の言葉をいいます。
ぼくたちも言います。  
    いっぱいとれたね。  
  生活園でとれた野菜を紹介します。 おばあちゃんたちのおかげできちんとできたよ。  
  気持ちを込めて合奏します。    
       


5.活動の実際

(1) ねらい

地域のおばあちゃんの話を聞いて,丈夫な野菜を育てようという意欲をもつことができる。
恥ずかしがらずに,尋ねたり話したりすることができる。


(2) 期待する子どもの姿

おばあちゃんの話に注目して,話を聞いている。
分かったことや気づいたことをヒントに活動しようとしている。
積極的におばあちゃんに話しかけ,コミュニケーションをとろうとしている。


(3) 展開  別紙

雨天の際は,教室において,どうしたら野菜を大きく育てられるか話を聞いた後,『おばあちゃんともっとなかよしになろう。』というめあてで活動をする。


(4) 授業の実際

 当日,天候が危ぶまれたので,「雨が落ちていなければ外,雨が落ちていれば,教室でする。」ということを,あらかじめT・Tで確認して臨んだ。何とか,雨が落ちてこなかったので,当初の計画通り,畑のそばに行って,地域の野菜作りのおばあちゃんと出会わせることにした。当日になって,打ち合わせをしていた方が,都合がつかなくなり,急に別の方が見えるというハプニングが起こったが,代わりに来てくださった方が,2年生の宏司君のおばあちゃんだったことから,子どもたちには面識もあり,和やかな中で進めることができた。

 教師の側として一番心配していたのは,子どもたちにどれだけの交流力があるだろうかということだった。1年生にとっては,まだ1学期であるし,地域の方とはいえ,これまで特に交流がある人ではなかったので,目の前にしたら,なにもいえなくなるのではないかということが危惧された。しかし,この心配は,見事に吹き消された。

 子どもたちの中には,目の前にある野菜の状況を何とかしたいという強い思いがあったのだった。野菜作りのおばあさんということで紹介をし,「おばあさんが来てくださったけど,何か聞いてみたいことはありますか?」と投げかけると,1年生の方から,さっと手があがり「ピーマンにカメムシがついているのですがどうしたらいいですか」という質問を始めた。このカメムシについては,なかなか特効薬もないようで,割り箸か,ピンセットで1つ1つとって退治していくといいということだった。

 他にも「私のミニトマトが,隣の人のとからまっているのですが,どうしたらいいですか」という質問があった。この子は,成長するにつれて,トマトが横にのびていき支柱に巻き付かず他の子のトマトに巻き付いていっているのを心を痛めていたのだった。おばあさんたちは,子どもたちの質問に丁寧に答えたあと,肥料が足りていないので肥料を蒔いた方がいいと実際に肥料も持ってきてくださっていた。

 そこで子どもたちを促し,畑の中に入り,肥料を施す作業や,他の野菜とからまる原因となった脇芽かきのやり方を教わった。また,子どもによっては,給食用のプリンカップと割り箸を使って,野菜についたカメムシをせっせと捕っていた。

 この授業を行ってみて,子どもに切実な課題があれば,子どもはどきどきしながらも,聞いてみようとするのだという思いを強くした。また,中には恥ずかしくて手を挙げられなかった子もいたが,そういう子は,実際作業をするときにおばあさんの周りについて耳をそばだてていたり,目で訴えかけたりと何らかのアクションを起こしていた。

 また,「百聞は一見にしかず」ということわざ通り,聞いただけではよくわからなかった脇芽かきのやり方も,おばあさんが,「こことここの間から出ているのは脇芽だから,これはとった方がいい。」と説明しながら教えてくださった。また,肥料のやり方も苗と苗の間に片手に乗るくらいの量をやったらいいこと,わらを敷くことでできた野菜が傷つかないことを実演しながら教えてくださった。

 おばあさんから学んだことを生活科ノートに次のように書き記している。

 「私はわらをしいたとき,やわらかくてきもちよかったよ。びっくりしたよ。ひりょうをまくところは,とまとだったらとまとのきときのあいだにまきます。まくとき,どのくらいまくのときかれてもいっかいてにもつくらいだよといってじまんできます。」

 この子のノートを見てもこの学習によって自分自身に自信をつけたのが見て取れる。

 次に,ゲストティーチャの活用であるが本時の授業には野菜作りの名人として地域にある白百合会(グループを作って野菜を販売している会)の方をお招きしたが,地域の方に学校に関わってもらうきっかけづくりとなったことと,子どもたちにとってこの上ない先生であったことが,良かったと思う。最初は緊張した面もちの子どもたちも一緒に作業をするにつれてうち解け,満足した様子でおばあさんたちを見送っていた。

 また,この後,野菜が生き生きと生長し,やがて収穫を迎えるとき,2年生の発案でお世話になったおばあさんに野菜サラダを食べさせてあげたいと,おばあさんを囲む催しが開かれた。会では,お礼の言葉の他,歌や踊りなども披露し,あらかじめ自分たちで作っておいた,野菜サラダを一緒に食べた。おばあさんたちには,何度も学校へ足を運んでもらったわけだが,一つもいやな顔されることなく子どもたちの教育に関わってくださった。

 会の進行などは,2年生がよく頑張ってくれた。1.2年で生活科を行っていると陰になり日向になり,2年生が1年生を引っ張ったり,フォローしてくれたりする。昨年自分たちが上の学年からしてもらったように,ある時は1年生に譲り,ある時は強力に力を発揮する。

 「自分は,上の学年なんだ」という意識が子どもを育てるのだろう。

 教師の支援としては,この場を設定できたことが最大の支援だと考えている。いかに,子どもの思いをくみ取り,子どもが,やりたいこと聞いてみたいことが,実現できるかだろうと思う。本時の中での支援としては,聞きたいけどいえないでいる子を見つけだし,そっと後押しをしてやることぐらいであった。必要に応じて子どもたちの注意をおばあさんの説明の方に向けたり,場の設定として子どもたちが必要となるだろうと思われるものを準備しておきさりげなくだしてやることを行っただけである。


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