2年
探求心を育てる生活科学習         
〜人とかかわる町たんけん〜         

茨城県水戸市立五軒小学校 森 久美子



ダイナミックな名人技を披露するお習字名人

1. 単元について

 市内中心部に住む本校の子どもたちは,核家族が多く,地域の方々と交流する機会も少ない。特に人とのかかわりを求めて2学年で行う「町たんけん」という単元は,地域の人・もの・ことへの興味関心を高め,学習を楽しいものにしている。


 今回は,地域に住んでいる様々な技能・芸能をもつ名人を保護者を通して推薦してもらい,1年間名人技の体験をはじめ,子どもたちとのかかわりをお願いし引き受けていただいた。ここでは,名人技との出会いや名人技の習得,その中で出会う「なぜ」という問いに対する追求活動が学習の核となる。

 すでにどの学校でも実践されている「町たんけん」であるが,多種多様な名人技をもつ18名から興味関心がもてる人を選び,会いに行く。出会うことで,名人技に驚き,憧れを抱く。児童は名人に近づきたい気持ちから,何度も同じことにチャレンジする。そして,技の難しさや不思議さから「なぜ」が生まれ,追求したくなる。さらに名人をめざしたい気持ちから名人のもとへ通うことにもなり,学校以外の場での学習が保障されることになる。

 名人技は習得までに長い年月を要するものであるから,体験できても名人技にはとうてい追いつかない。上達しないところでこつやわけを知りたくなったり,「どうして」「なぜ」が生まれる。児童は「なぜ」が生まれると,教師と解決に向けて考えたり調べたりする。その過程を友だちに伝え,意見を交流する場もある。その繰り返しの中で,町をもう一度探検し直すことにもなり,自分なりの課題を見つけ,個人やグループでの追求活動が始まる。

 児童にとっては「名人さん」と関わり合える喜びが原動力となり,分かったことや調べたこと,できるようになったことを「名人さん」にまた伝えたくなる。その一連の学習の流れは児童が生活していく上で必要なさまざまな技や力をつけ,人とかかわり合う力を育みながら学習が進んでいく。

和菓子名人どら焼き作りにチャレンジする子どもたち
太極拳名人とともに体を動かす子どもたち


2.単元計画

指導計画(58時間取り扱い) 五けんの町は○○○○な町
【1学期】 五けんには名人さんがいっぱい 22時間

【2学期】

名人さんにつたえたいな わたしの○○○○ 28時間
【3学期】 名人さんありがとう 8時間

 
五けんの町は○○○○な町
 
               
 

目標

学習内容・活動
 
国語科との関連




(22)
 名人さんと出会い,名人技に憧れの気持ちをもつことができる。
 体験したことから問いを見つけることができる。
名人技を見せてもらおう (下見たんけん)
名人技にチャレンジしよう (町たんけん)
名人さんを知らせ合おう
名人さん大集合
絵手紙でお礼状を送ろう

【夏休み】
やさいを届けよう
はがきを出そう
名人技にチャレンジ!
なぜなにさがしパート1

自己紹介カードを書こう
はがきの書き方を学ぼう
   
   





 友達の問いを知り,共に考えることができる。
 具体物を提示や話し合いの工夫を通して,これまでの体験から生まれた問いを考えたり話し合ったりできる。
  (本時)
 自分が選んだ方法でできるようになったことや調べたことが表現できる。
夏休みにチャレンジしたことを伝え合おう
    3時間
なぜなにさがしパート2 ・・・ 2時間
もっと知りたい 名人技のなぞ ・・・ 2時間
伝えることを決めよう ・・・ 1時間
伝え方を考えよう ・・・ 1時間
   
名人さんに伝えよう ・・・ 6時間
発表の練習をしよう ・・・ 2時間
問いについて考えよう ・・・ 1時間
友達の問いについて考えよう ・・・ 4時間
できるようになったことを作文に書こう
(文集五軒のよい子)
−名人さんとの出会い−















絵手紙・工作名人・テレビ番組・茶道名人・カメラ・掛け軸名人・お料理・太極拳名人   昔遊び・お菓子作り名人・絵手紙・茶道・和菓子名人・お花育て・昔遊び名人・カメラ・工作名人   習字・掛け軸名人・茶道・生け花・習字名人・オカリナ・サックス・和菓子名人・ピアノもの知り・テレビ番組名人
   
   
   
   
名人さんにわかったことやうまくなった技を伝えに行こう ・・・4時間
(町たんけん)
春にむけてお礼の球根をうえよう ・・・2時間
【冬休み】
年賀状を出そう
   
 
 

(28)

 
   
   




(8)
 ありがとうの気持ちを伝え,自分の成長に気付くことができる。
町たんけんマップを完成させよう
ありがとうの気もちをまとめよう
ありがとうの気もちを伝えに行こう
(町たんけん)
私のすきな道を伝え合おう。


3.授業の実際とアイディア

(1) 第1次 五けんには 名人さんが いっぱい(22時間取り扱い)

名人さんの家を表す地図 五軒の町の名人さん(18名)
工作名人
お花育て名人
絵手紙名人
掛け軸作り名人
ピアノもの知り名人
お菓子作り名人
太極拳名人
お習字名人
野菜育て名人
和菓子作り名人
カメラ名人
お料理名人
サックス名人
テレビ番組作り名人
昔遊び名人
茶道名人
生け花名人
オカリナ名人


名人たんけん パート1・パート2
たんけんグループは1グループ4〜5人
訪問する名人宅は1グループ2軒

下見たんけんと名人たんけんのちがい
  名人たんけんパート1(下見) 名人たんけんパート2
ねらい
 名人さんの家までの道順がわかり,名人技を知ることができる。
 自己紹介カードを読み,わたすことができる。
 名人技を体験することができる。
 技について質問することができる。
活動内容
名人宅までの道順を知る。
名人技を見る。
自己紹介カードを渡す。
名人技にチャレンジする。
名人技について質問する。
活動時間 2時間 3時間
事後指導は,前ページの指導計画参照


【夏休みを利用した生活科の学習】

訪問する。
暑中お見舞い状を書く。
名人技にチャレンジする。(各自,名人さんと共に)
「なぜ」を見つける。
「なぜ」の解決に向けて教師に相談する。

体験して分かったこと
「なぜ」さがし
どうやったら解決できるか
名人さんに伝えたい「なぜ」など
学習相談日を4日設け,都合のよい日にグループ毎に登校し,話し合う。
名人技を生かした 町を知るための たんけん活動へ


例:ピアノもの知り名人(調律師)  
マッピングをしてみて
名人技からなかなか離れない。
「名人さんのようになりたい」という児童の思いと調律という仕事との共通点を見いだすのが困難。
(教師の積極的アプローチにより)
「音」や「メロディ」が出てきたところで,家や町の中に音があることに気付 く。

名人さんの素晴らしいところ
 
耳がいい
どんな音もドレミで言える。
[児童の願い]
五軒の町の音マップを作って名人さんをびっくりさせたい。


(2) 第2次 名人さんにつたえたいな わたしの○○○○(28時間取り扱い)

名人技から「なぜ(問い)」を見つけ,追求活動に至るまで
1 名人技に出会う。
 授業の中での「なぜ」 タイムの位置づけ
(次ページ参照)
2 憧れや願いをもつ。
3 技にチャレンジ
4 「なぜ」さがし
5 問いの解決に向けて話し合う
6 再度技にチャレンジ
345の繰り返しによる学習)


授業の実践
  この授業は学年(2クラス)を3グループに分け,3Tで行った一つの例
1 目 標
 具体物の提示や,話し合いの仕方の工夫を通して,これまでの体験から生まれた問いを考えたり話し合ったりできる。
2 準備・資料 地図,鍵盤ハーモニカ,カラーコーン
3 展 開


カッコー・ピッポー五けん一周グループ 指導者
(テレビ番組つくり名人・ピアノもの知り名人) 場 所 スタディールーム

学習内容・活動 ○教師の支援・◎評価(方法)・☆国語科との関連
 名人さんに伝えたいことを発表したり聞いたりして話し合う。
 
【なぞをとこう】
(1)  五軒の信号の音についてのクイズを発表する。
 音の鳴る信号があるのはなぜ。
 鳴る音は場所によって違うのはなぜ。
 鳴る時間が決まっているのはなぜ。
【耳をすませよう】
(2)  横断歩道を歩いたり信号の音を聞いたりする。
〈京成デパート前〉
長さ
15
メートル
時間
39
おと
ピウ
ピウ

なぜタイム
 信号は,場所によって音の長さが違っているのはなぜだろう。

 道が長いから
 人がいっぱい通るから
 車が少ししか通らないから
 足の不自由な人は横断歩道を渡るのに時間がかかるから
 赤ちゃんを連れている人は,ゆっくり歩くから
 近くにお店があるから
 五軒町にある信号音の記録が一目でわかる「ピッポー五軒地図」を提示して,五軒の中から発見した“ふしぎ”を理解できるように補足・説明する。
 クイズを聞いて,問いや質問が出たときには,その気付きを認めて,どうすれば相手によく伝わるのかを話し合えるように導く。
 信号の音と鳴る時間が違っていることに気付けない時には,歩いてみて,時間が足りたか,足りなかったかを聞き返す。
 C3児には,音の鳴る間,横断歩道を一緒に渡り,体験したことを言葉にできるように声をかける。
  (観察・つぶやき)
 「ピッポー五軒地図」にまとめられている,信号の青の時間の記録や道幅の長さを関係づけて話し合いを進める。
 A3児には,自分たちが出した考えと,友達との考えを比べさせて,考えの違いから新たな問いに気付けるように話を進める。
 なぜに対して,友だちの考えを認めながら,自分なりに考え,答えを求めようとしている。
  (発表・つぶやき・表情)


名人たんけんパート3
ねらい
 自分たちがやってみたり,調べたり,できるようになったりしたことを名人さんに知らせることができる。
活動内容
 できるようになったことを見せる。
 自分たちが考えたり,調べたり,まとめたりしたことを思い思いの方法で伝える。
 成長できた自分についての作文を発表する。


児童がチャレンジした名人技には
体験して上達をめざすことができるもの,
体験したことから「なぜ(問い)」が生まれ,調べたり試したりできるもの,
名人技を使って町の秘密を学習できるもの
がある。

  児童は1と2,2と3の学習のどちらかを選び学習を進めた。
  上の指導案は,2の一つのグループの「なぜ」について,グループ全員で話し合いをした授業の展開例である。


3の名人技を使って町の秘密を学習した例
○○名人 児童の思いや願い 実際の活動 わかったこと
カメラ名人 大好きな道(R50)で働く人たちの笑顔を撮ってみたい。 R50に出かけ,写真を撮って笑顔マップを作った。 今までで一番嬉しかったことは何?
と聞けば誰も笑顔になる。
ピアノもの知り名人 町中の音をドレミにしてみたい。 信号の音を探り,音マップにした。 信号の音はどれも少しずつ違う。
茶道名人 町の古いもの(実がなる木)をさがして,今年は実がなる年だったのかを調べたい。 実のなる木をさがしてマップにした。 今年はどんぐり,ゆず,くりなどたくさん実がなる年だった。


「なぜ」「どうして」を考える時間は,みなさんにとってどんな時間ですか?
クリックすると拡大されます 上の発問に対し児童は,
大好きな時間
分からないことが分かるようになる時間
大切な時間
わくわくどきどきする時間
また,なぜが生まれる時間
答えが見つからない時間
自分にとって必要な時間
自分のためになる時間
と答えていた。


(3) 第3次 名人さんありがとう(8時間取り扱い)
 
「大きくなったよ」の単元とタイアップさせた指導
ねらい
  名人さんに出会ったからこそ,成長できた自分に気付くことができる。
活動内容
各自のまとめ
大きくなったよアルバムの作成
お知らせ会
ありがとうの会の企画・準備・運営(3月,名人さんと共に)


4.成果と課題(○成果,●課題)

 1年間を通して人とかかわる町たんけんは,児童に目的及び相手意識をもたせ,活動への励みとなった。
 地域に自分たちを支えてくれる大人がいることを知り,さらに町を知ろうとする意欲が高まった。
 名人さんに出会い,やってみたい,名人さんみたいになりたいという憧れが活動への原動力となり,「なぜ」を発見し,追求したい気持ちへとつながった。
 答えが見つからない追求活動に対して,「わくわくする」「なぜをたくさん見つけたい」など追求することのおもしろさに気付けた児童が多かった。また,他の児童の「なぜ」に対しても日々の生活体験を通して真剣に考え,話し合いに参加できた。
 2年生の生活科の「町たんけん」は,小学校に入ってはじめて地域とかかわる単元であるため,人材バンクの意味も兼ねて名人リストを作成したい。さらに,3年以上の学年でも必要に応じて人材を活用できるように地域の人材の開発,活用に努めたい。
 2年生レベルでの追求活動が,他の教科でも生かされるように(国語:「学習課題を作って読み取る」算数:「多様な考えを引き出す」など)実践を積み重ねていく。

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