3年

「算数的活動」と「身につけたい算数ことば」の活用
―かさ(水のかさをしらべよう)の実践を通して―

広島県三原市立田野浦小学校
坂田 博之

1.論理的に考え,表現する力を培う算数科授業づくりのための具体的な手だて

(1)数学的な思考を培うための算数的活動を取り入れる。

「算数的活動」とは,頭と体を動かすさまざまな作業などを含む操作や調査活動から思考活動へと続く一連の学習活動だと捉える。考える余裕もなく教師の一方的な指示活動を通して,基礎的な知識や技能を身につけるのではなく児童に自ら考える力をつける大切な手段である。

(2)「身につけたい算数ことば」の習得を図る。

「身につけさせたい算数ことば」は問題への見方や考え方を表したものである。こういったことばを使って自分の考え方が表現できるようになるということは,いろいろな事象を数学的に見たり考えたりできることだと考える。

 

「身に付けたい算数ことば」
数学的な
考え方の視点
算数ことば 教師の手立て
(発問等)
統合 ○○と○○が同じだと思うので〜です。 同じところ,違うところを見つけてみよう。
発展 次に○○なことをやってみたい。
類推 ○○のときはこうだったのでこれも○○と○○と○○から〜が言えるんじゃないか。 今までに似たような学習をしたことがないか。
帰納 いくつかの例からどんなことが言えるのか。
抽象化 比べてみると○○が同じです。 比べて同じところを見つけてみよう
絶対必要なものを考えると。
捨象化 関係ないものはどれかを見ると。 関係ないものを省いてみよう。
一般化 ○○にするといつもこの考えが使えそうだ。 同じことが言えそうなものは他にないかな。
特殊化 全部○○だと考えたら 「もし○○だとしたら」と考えてみよう。
もし○○だとしたら ○○の場合を考えてみよう。
単純化 数字を簡単にして考えると ○○を変えて考えてみよう。
理想化 理想的な場合(形)として考えると 簡単な場合を考えてみよう。
具体化 おはじきに置き換えてみると。 おはじきを使ってやってみよう。
実験してみると。やってみると。 実際にやってみよう。
数量化 線分図で表すと。 線分図にかいてみよう。
数直線に書いてみると。 数直線にかいてみよう。
図形化 図や絵に描いてみると。 表に 絵に グラフに 式にかいてみよう。
表やグラフに表すと。

 

低学年
@自分の考え
私の考えは○○です。
A理由
私は○○だと思います。そのわけは○○だからです。
B順序
初めに○○です。次に○○です。
C仮定
もし○○だったら〜でしょう。だから××です。
D前時と比較
前と比べて○○がおなじだよ。○○が違うよ。
E類似点と相違点
aとbの同じところは,ちがうところは。
F既習事項の活用
前に習ったことを使うと。
G付加や言い換え
○○さんに付け加え。他に言い方があります。

 

中・高学年
@単位
○○をもとにすると◇◇は何個分だから
A
もとにする数×○倍は全体の数だから
÷○というのは○等分することだから
B関数的
一方が○ずつ増えるともう一方が◇ずつへるので
一方が2倍3倍になるともう一方も2倍3倍になる
C記号化
記号や図に置き換えると
D類推的
このときは○あるになるのだから,これは◇◇になるだろう。
E帰納的
これらのことから決まりを見つけると
いくつかの例からこんなことがいえるよ。
F一般化
いつでも使える式は○○です。
○○というきまりを見つけた。
G統合的
○○の時の考えと同じだ。
H演繹的
○○の学習で習った△△を使って(もとに)わけを説明すると

2.実践例

(1)単元

かさ(水のかさをしらべよう)

(2)本時の目標

進んで水のかさ調べをし,直接比較・間接比較・任意単位による比較などを通して,基準となる共通な単位の必要性に気づく。

(3)目標達成のための具体的手立て

手立て@算数的活動を取り入れた学習活動

本単元では,「容器くらべ」や「マイ1ℓますをつくろう!」で作業的・体験的な算数的活動を取り入れる。また,単元の最後に「かさの学習ウォークラリー大会」を行ない,いろいろな問題をグループで協力し解いていく,ゲーム的な算数的活動を通して学習のまとめとしたい。

手立てA「身につけさせたい算数ことば」を活用した学習活動

数学的な考え方に関わっては,「長さのときに習った△△をつかって」とか「○○の何はい分」などのことばを提示して思考の手助けとする。また,言語技術としては「始めに○○,次に〜だから〜」ということばで順序よく表現する手助けとしていく。

(4)実際の授業(2時間)

学習の流れ
【1時間目】

問題場面をつかむ
@どちらの容器に水がたくさん入るか考える。
Aたくさん入りそうな方を予想する。
 ○中に入る水の量が「かさ」であることを指導し,容積に着目して「かさしらべ」の学習を進めていくことを確認する。
T:AとBでは,どちらがたくさん水が入ると思いますか?
C:私は同じだと思います。そのわけは,Aは細いけど背が高くてBは,太いけど背が低いからです。だから,私は同じだと思います。どうですか。
C:僕は,Bだと思います。そのわけは,Bのほうが見た感じが大きそうだからです。だからBがたくさん入ると思います。どうですか。
T:Aがたくさん入ると思う人?(0人)
 Bがたくさん入ると思う人?(16人)
 同じだと思う人?(13人)

AとBの水のかさをはかる方法を考えよう。
(Ok!AとBのかさのくらべ方を1つ以上考えよう。)

さぐる(自力解決)
B「身につけたい算数のことば」を使ってワークシートに自分の発想をまとめていく。
「前に習った考え方をつかうと」「始めに・・・次に・・・」
T:どうやってAとBの水のかさを比べたらいいか,
 その方法を考えていきましょう。今日のOk!は,「くらべ方のアイデアを1つ以上考える」です。「身につけたい算数ことば」は,「前に習った考え方を使うと」や順番を表すことばの「はじめに,つぎに」です。できるだけこのことばを使って自分の考えを書いてみましょう。

 

練りあう
(1)アイデアを出して説明する
@片方の容器に入った水をもう一方の容器に移す。(直接比較)
A同じ大きさの入れ物に移し替えて比べる。(間接比較)
Bコップにうつしてその数を数える。(任意単位による比較)
C計量カップを使う※お母さんの料理を見て(普遍単位)
D重さをはかる
(2)みんなで検討しあう。
@とAは「どれだけ多いがわからない」「あふれてしまうことがある」という意見。
Bは「コップのどこまで入れるかわかるよう透明なものを使う」「こぼれないよう,水を少しずつ入れる」「物差しで計る」などの意見。
Cは「計量カップは数字が書いてある」「ミリリットルと書いてある」など具体的な単位が出る。「長さにもmとかCmの単位があったので,かさにも同じようにあると思う」など。
Dは「このアイデアを使うときは,はじめに容器の重さをはかっておかないと正確にははかれない」という意見。

C:私は,同じコップを使って計ったらいいと思います。
C:私は,紙コップがいいと思います。わけは,どこにでもあるからです。

C:紙コップをたくさん使ったらいいと思います。
T:紙コップをたくさん使って最後にはどうするの?
C:コップの数が多いほど,水のかさが多いと思います。
C:反対意見があります。ぼくは,コップに入る水の量が多くなったり少なくなったりするので計れないと思います。
C:それに意見があります。まず,物差しでそこから入れるところまで計ります。つぎに,同じ高さのところに線を入れます。どうですか。
C:わたしは,透明なコップを使うといいと思います。

C:それと,少しずつ入れて(水を)こぼさないようにすればいいと思います。
T:それじゃあ,このアイデアでも実際に比べられるか試してみようね。
C:他の意見があります。僕はでっかいペットボトルにAとBの水を入れるといいと思います。
C:同じペットボトルを2つ用意しておいて入れて比べるといいと思います。
C:あふれないような大きなペットボトルがいいと思います。
T:もし,あふれたらどうしよう。
C:あふれそうなときは,もう1本に入れて,余った分(水の量)を比べたらいいと思います。
T:ほかにアイデアはありませんか。
C:重さをはかったらいいとおもいます。
C:僕は,重さをはかる前に,まず,水を出して容器の重さをはからないといけないと思います。次に水を入れてはかって,最後に,容器の重さを引きます。
C:(容器の重さがちがったら正確にはかれん)
T:たくさんアイデアが出てますね。もう,ないですか。
C:おうちでホットケーキを作るとき,お母さんが牛乳をめもりのついた容器で測っていたので,それを使うとはかれると思います。(体験からの類推)
T:こんなのかな。
C:また用意してある。
T:どうやってはかるんでしょうか。

C:前に習った長さのときのように,物差しのようなめもりがついているから,それではかると思います。
C:長さで習ったCmとかmのような単位がついていて「ミリリットル」というと思います。
T:それでは,まとめてみましょう。

【2時間目】

実際に試してみよう

Bの紙コップを使って量る。
 大きさの違った紙コップで量ったために,全部の班の数値を比較できないことが明らかになる。
Cの計量カップで量る。
 計量カップを使った活動では,誤差はあったものの,どの班も同様の結果を得ることができた。この活動を通して,自分たちが検討した方法が正しかったという体験をすることができた。

まとめる

「計量カップを使うとどんなときも水のかさをくらべることができる」ことが言えるかどうかを適用題とした。また,自分たちが出し合ったアイデアを実際に試してみて,わかったことや思ったことを一言感想として各自まとめ,発表してまとめとした。

3.成果と課題

(1)指標と結果

手立て1

@児童アンケート「算数的活動が楽しい」を80%以上に
 
「算数的活動が楽しい」が100%
A児童アンケート「算数的活動はよくわかる」を80%以上に
 
「算数的活動はよくわかる」が94%
B児童アンケート「算数的活動で力が伸びた」を70%以上に
 
「算数的活動で力が伸びた」が87%
C参観教師評価「授業評価表」4段階評価75%以上に
 
「授業評価表」が75%

手立て2

@「身につけさせたい算数ことば」を使って表現した児童の割合を80%以上に
 
「身につけさせたい算数ことば」を使って表現した児童の割合が81%
A「身につけさせたい算数ことば」を使うと自分の考えがうまく表現できるようになったと感じている児童の割合を70%以上に
 
自分の考えがうまく表現できるようになったと感じている児童が74%

手立て3

@プレテスト後,補習した児童の単元達成率平均70%以上に
 
補習した児童の単元達成の平均は77%
A確かめの場の問題の達成率の平均80%以上に
 
評価問題の達成率平均は81%
B単元末テストの達成率80%以上に
 
単元達成率は84%

(2)成果

@児童を主体的に活動させるための算数的活動は,児童が楽しく学ぶと共に児童自身が学習の理解度や伸びを自覚するために有効
A「身につけさせたい算数ことば」を使うことによって「自分自身が前よりもうまく説明できるようになった」と感じている児童が増えたことは,思考や表現の手助けに有効
B「レディネス→評価問題による形成的評価→単元末テスト」のサイクルを行ない単元の達成率80%が達成できた。この手立ては基礎・基本の定着には有効

(3)課題

@児童を主体的に活動させ理解度を高める算数的活動の工夫を行っていく。
A「身につけさせたい算数ことば」の活用方法を工夫したり,内容を吟味したりして質的向上を図る。
B評価問題を時間内にチェックし評価して,達成不十分な児童に対する補充を早く確実に行うようにする。また,個に応じた指導の工夫が必要である。

(4)今後の改善方策

@算数的活動の8つの要件を元に「算数的活動評価基準」を考え,算数的活動としての授業での有効性を数値化し評価していく。
A「身につけさせたい算数ことば」と「言語技術としてのことば」を整理し,どこで・どのように活用させていくかを工夫する。
B教師側の形成的評価だけでなく児童自身が達成できたかどうかを自己評価させるために,教師の評価基準をもとに児童にもわかりやすい「到達度チェックカード」を作る。

【参考文献】

「数学的な考え方の具体化と指導」
片桐重男 著(明治図書)


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