2年

かけ算を活用する力を高める    
〜九九の表〜    
香川大学教育学部附属高松小学校
T教諭

1.かけ算の学習で育てたい力

 児童は2年生になって,新しい計算方法「かけ算」を学習した。かけ算の学習というと,九九を繰り返し唱え,暗記するということが中心と考えがちだが,私は「かけ算」の学習を通して次のような力を育成したいと思っている。1つ目は,九九の暗記することを通して『コツコツがんばる力』を育成してほしい。何回も練習し,つまっていた九九が言えるようになるがんばりと,そのときの達成感を味わってほしい。2つ目は『くふうして考える力』を付けることである。7×4の九九を忘れてしまったとき,7×3に7をたせばよいとか,4×7も同じ答えだから28だというように,答えをを様々な角度から導き,くふうして考える力を養ってほしい。そして3つ目に『学んだことを活用する力』の育成である。かけ算を単なる計算と思うのではなく,身の回りにかけ算を利用できる場面がたくさんあり,そのことを使うと処理がもっと簡単になることを感じてほしい。

 本単元では,まず九九の表からきまりを見つける学習を,数とアレイ図を関連させながら学習する。そして,九九表をアレイ図や実生活の場面を結びつけ,「これから,かけ算をどんどん使っていこう」と最終段階で思えるように単元を構成した。


2.単元の目標

九九表の数の並びから,きまりや特徴を見つけようとする。また,生活の中の問題に,かけ算の学習で身につけたことを生かそうとする。
九九表からいろいろなきまりを考えることができる。また,分割や補足をして乗法を適応できるように考えることができる。
九九表をつくったり,九九表を使って同じ答えのかけ算を見つけたりすることができる。
乗法に関して成り立つ性質(乗数と積の関係・交換法則)が分かる。


3.単元構想(全8時間)

第1次 九九表をつくってきまりを見つけよう  
九九表をつくってきまりを見つけよう
・・・・・ 1時間
第2次 きまりを使ってゲームをしよう。  
答えがどのようにならんでいるか調べよう(九九表パズル)
同じ答えがいくつあるか調べよう(九九表ビンゴ)
同じ答えになるかけ算を見つけよう(アレイ図めくり)
・・・・・ 2時間
・・・・・ 2時間
・・・・・ 2時間
第3次 くふうして数えよう
・・・・・ 1時間(本時)



4.かけ算の活用範囲を広げるために

 前単元「かけ算(2)」で,児童は9の段までのかけ算について学習してきた。また,単元の最終段階では,生活の中からかけ算を見つける学習をした。デジタルカメラを持たせ,学校の中にあるかけ算を探しに行かせた。「靴箱や棚の数」「窓の数」「電灯の数」などは見つけてくるだろうと予想をしていた。しかし,実際はそれ以上にたくさんのものを見つけてきた。「トイレの前に並んでいたスリッパの数」「学校の電話のプッシュボタン」「電灯のスイッチ」などである。子どもがかけ算が活用できることを見抜く鋭い感覚をもっていることが分かった。

 そこで,冬休みの間に,自分の家のまわりにもかけ算が使える場面を探して,写真に撮ってくることを宿題に出した。「薬の数」「回転寿司のお皿」「ブロックの出っ張りの数」など,実生活の中で様々なかけ算に触れていることがよく分かる。


学校の授業の中で見つけたかけ算

【トイレの前のスリッパの数】 【電話のプッシュボタン】 【電灯のスイッチ】
2×5 4×3 2×2


冬休み中に見つけたかけ算

【薬の数】 【回転寿司のお皿の数】 【ブロックの出っ張りの数】


5.様々な場面でかけ算を活用できるために

 子どもたちが探してきたものは均等に並んでいる場合を,かけ算ととらえたものである。かけ算の形に並んでいるものは,かけ算で求めることができるが,実生活でかけ算を使うときは,均等に並んでいない場合の方が多い。そんなときでも「かけ算が使えそうだ」と考えさせたい。そのためには,かけ算にする考え方を学ばなければならない。そこで本時のような牛乳ビンの本数を求める場面を設定し,かけ算を求めるアイディアを学ばせようと考えた。

【分割】 【補充】 【変形】


 学習材を牛乳ビンにしたわけは,
 
牛乳ビンは毎日の学校生活で触れているとこと。
上から見たらアレイ図に見えること。
牛乳でクラスの本数(たとえばクラス38本)をとるときに,「40本から2本ひく」という「補充」の考え方を知らず知らずのうちに使っていること。

 もう一つ,この学習で「活用する力」を育成するために大切なことがある。それは,アレイ図のように均等なものは見たままをかけ算にするので,児童にとって受け身であるが,今回取り扱う牛乳ビンの本数は,一見かけ算は使えそうにないと思うものを,かけ算を使える形に変形する必要がある。そこには積極性がはたらいている。一見かけ算に見えそうでないものを自らかけ算を使える形に変形させることは,児童の能動性をはたらかせることにつながる。このように積極的にかけ算を使っていこうとする態度が活用する力の育成につながると考えた。


6.本時の学習指導

学習活動 自己実現に向かう児童の変容 教師の支援と評価
本時の課題をつかむ。
「同じ数のかたまりがいくつかある」とき,かけ算で表すことができたよ。
     
【問題1】ケースに牛乳ビンが右のように入っています。牛乳ビンの本数は全部で何本でしょう。
     
  牛乳ビンの数をくふうして求めよう。  
「牛乳の本数を数える」という問題場面にすることで,生活経験とつないで考えられるようにする。
牛乳ビンとアレイ図をつなぎやすくするため,写真を上から撮ったものを提示する。また,「全体から引く」というアイディアを表出しやすくするために牛乳ビンは箱に入った形で提示する。
かけ算を使えるようにするアイディアを交流する。
1本ずつ数えるのは面倒だ。かけ算が使るようにできないかな。
             
         

5×4=20
3×4=12
20+12=32

5×8=40
2×4=8
40−8=32

4×8=32
             
         
それぞれの方法に名前をつけよう。
         
分ける たしてひく 引っ越し
             
         
いろいろな方法がある。ぼくは○○の方法は思いつかなかった。
1つの方法ができた児童には,「別の方法でもできないか」と助言する。
(1) 自力解決をする。
考えを児童に発表させるのではなく,ヒントを出し,どう考えたかをほかの児童に予想させるようにする。
(2) 考え方を交流する。
「たしてひく」という考え方が理解しにくい児童もいると思われるので,牛乳ビンの実物を使って補足説明をする
(3) 方法に名前をつける。
それぞれの方法に名前をつけることで,考え方をイメージしやすくする。
他の場面でも使えるか考える。
こんなときはどうすればよいだろう
「分ける」「たしてひく」などを考えて,はやいほうをしよう。
     
問題によって,はやいほうほうはかわる。
このときは,「たしてひく」のがはやいなあ。
2年生の段階ではどの児童にも「分ける」と「たしてひく」方法が理解できればよいと考える。「たしてひく」方法で解く問題を出すことで,たしてひく方法の定着をはかる。
活用する場面の問題を解く。
【問題2】2年生は緑組,白組,赤組の3クラスあります。では,附属小学校全部では何クラスになるでしょう。
     
2年〜6年は3クラス,1年は4クラスだから

3×6+1=19 19クラス など

場面をイメージできない児童には,クラス名を○シールに書いたカードを渡す。
評: かけ算を活用する力をルーブリックに基づいて評価する
本時の学習を振り返る。
かけ算が使えないように思う場面でも「同じ数のかたまり」にすれば,かけ算が使えるよ。
「わかったこと」「わからなかったこと」「先生に質問したいこと」の3つの観点から書くように助言する。


7.実践を振り返って

 「活用する力」の育成には,児童が活用したくなるような状況をつくることが大切だと感じた。学んだことを活用する状況づくりにおいては,児童が本気になるような課題が望ましい。自分のもっている力を総動員して何とか課題を解決したいと児童が思ったとき,自分がもっている知識・技能を活用しようとする。活用する力と意欲は密接に関係していると感じた。

 本時の授業は,4年生のL字型の面積を求める授業と同じである。2年生でアレイ図を使って,半具体物でかけ算を学んだ経験が,4年生の面積の学習につながってほしいと願っている。

 本時の授業では【分割】【補充】【変形】の説明をさせるとき,前に出た児童には操作をさせるだけで,考え方はフロアーで説明を聞いている児童にさせた。4年生なら,一人の児童に説明も操作もさせてもよいが,2年生では,友達の説明を聞かせるためには手立てが必要である。


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