2年
子どもの課題意識が連続・発展する単元の構想と実際        
〜2年「1000までの数」の学習で思考力を育てるために〜        
愛媛大学教育学部附属小学校
玉井 啓二

1.はじめに

 本主題の中にある「課題意識」とは,「子ども一人一人が,出合った対象に対して抱いた疑問を解決しようとする意識」のことである。この課題意識をもつことによって,子どもは思考する。つまり,子どもが思考する前提として,課題意識は必要不可欠である。逆に言えば,子どもが課題意識をもち得ていないとき,十分に思考することはないのである。このように考えると,子ども一人一人の思考力の育成を図るためには,課題意識をいかにもたせるかということに着目することが重要であるといえる。

 そこで,2年「1000までの数」の単元において思考力を高めるために,子どもの課題意識が連続・発展するように単元を構想・実施し,その課題意識に対応していかなる「数学的な考え」が表れるのか明らかにしたいと考えた。


2.単元名 「1000までの数」


3.単元の目標

1000までの数について,十や百を単位として数の相対的な大きさをとらえることができるという十進位取り記数法のよさを味わう。
【関心・意欲・態度】
1000までの数の範囲で,数の表し方や数の大小・順序について,自分と友達の考えの違いや共通することを見つける。
【関心・意欲・態度】
1000までの数の範囲で,十進位取り記数法による数の表し方や数の大小・順序について考える。
【数学的な考え方】
1000までの数の範囲で,加法や減法の計算が的確にできる。
【表現・処理】
1000までの数の範囲で,十進位取り記数法による数の表し方や数の大小・順序が分かる。
【知識・理解】


4.単元の計画

学習課題 主な学習活動 時間
ストローのつかみとりゲームをしよう
自分が取ったストローの数を自分なりの考えや数え方で数える。
自分と友達の考えや数え方を比較して,効率よく正確に数える方法について話し合う。
 
10のまとまりや100のまとまりを作って数えることのよさを実感する。
100までの数の構成とその表し方について考え,分かる。
自分や友達が取ったストローの数の大小を相対的にとらえて,比較する。
10をもとに考えよう
10を単位とする簡単なたし算やひき算の問題を作り,友達と解き合う。




5.授業の実際(第1次の1〜6時について掲載)
主な学習の流れ   ○教師の指導
子どもの様子(下線部は課題意識の表れ)
数学的な考えに関する評価
〔事前(朝の時間)〕
事前の準備として,右の写真のように教室中央にストロー(通常のストローを4等分の長さに切ったもの)を山積みにし,机と椅子はその周辺に配置しておいた。
〔第1次(1〜3時間)〕
ストロー取りゲームをする
ストロー取りゲームを行うことを教師が告げ,子どもたちの質問に答えながら,次のルールの共通了解を図った。
  ストロー取りゲームのルール  
   
先生とのジャンケンに勝った人は,ストローを3回だけ片手でつかみ,ビニル袋の中に入れる。
ビニル袋からこぼれたストローは入れてはいけない。
席が隣の子と比べて,ビニル袋に入っているストローの数の多い人が勝ち。
ストローの数を数える
 
全員がストローを取り終わった後,席が隣の者同士でビニル袋の中のストローを見比べて,どちらが多く取っているか予想をするように促した。
「見ただけでは,どちらが多いのかよく分からないな」「数えてみないと分からないよ」という声が多数挙がった。
「勝敗をはっきりさせるために,自分のストローの数を数えよう」と投げかけた。
 
始めのうちは1本ずつ数える子どもがほとんどであったが,すぐに「途中で分からなくなった」「いい数え方はないかな」という反応が見られるようになった。
   やがて,次々と輪ゴムを要求するようになり,輪ゴムを使って,次のようなストローの束を作る子どもの姿が見られた。
10本ずつの束を作る。
50本ずつの束を作る。
100本ずつの束を作る。
さまざまな本数の束を作る。
これらの姿は,構成要素(単位)の大きさや関係に着目する【単位の考え】の表れであるといえる。
ストロー取りゲームの勝敗を決するため席が隣の子どもと取った本数を比べるよう促した。
ストローの数え方について話し合う
自分の取ったストローの本数を数えた子どもたちは,席が隣の子どもと互いの数え方を教え合いながら取った本数を比較した。
子どもたちに発表させて,上のような様々な数え方を明らかにした。
自分とは異なる数え方で数えてみるとともに,様々な数え方について話し合う場面を設定した。
子どもたちから,「いろいろな数え方があるな」「どの数え方がいいのかな」という発言があった。
ここでは,次のような反応があった。
束を作っていないと,本当に何本あるのか分かりにくいよ。
いろいろな数の束を作ってしまうと,数えるときがたいへんだった。
1本ずつ数えて50本や100本の束を作るのはたいへん。
50本や100本の束と言っているけど間違いなく50本や100本になっているの分かりにくいな。
はじめに10本の束を作っておき,次に10本の束を10個束ねて100本を作るというのが簡単だ。
10本の束を10個束ねて100本を作っておくと,友達と比べるときに100本の束や10本の束がどちらが多いかが分かりやすいよ。
このような子どもたちの反応を踏まえ,10をもとにして数えることのよさを確認した。そして,この時点で,ひとまず席が隣の者同士でストローの数を確認し,どちらがゲームに勝ったかを決定させた。
〔第1次(4時間目)〕
ストローの数を数字で表す
このような反応は,先述の【単位の考え】とともに,操作の意味を明らかにしながら考えようとする【操作の考え】が表れているといえる。
「今度は,自分の取った本数を数字で表して,隣の人と比べよう」と投げかけた。
子どもたちが表記した数字には正しいものも多くあったが,例えば「20083(実際は283)」や「300507(実際は357)」のような誤りも見られた。
様々に表記された数字を子どもたちに提示した。
「どのように表せばよいのだろう」という思いや「どの表し方が正しいのだろう」という思いをもつことになった。さらに,誤った表記に対しては,「100までの数字の書き方(表し方)と違うよ」「83だったら10が8個だけど,その0は書かないよ」「だから,357も100が3つだけど,00は書かないと思うよ」という発言があった。
このような姿は,子どもたちは前学年で学習した十進位取り記数法の意味にもとづいて考えており,先述の【単位の考え】とともに,表現の基本原理にもとづいて考えようとする【表現の考え】の表れであるといえる。
子どもたちの発言を踏まえ,「10が10こで100,100が10こで1000」という十進位取り記数法にもとづいて,1000までの範囲で数の表記について説明した。
〔第1次(5〜6時間目)〕
ストローの数の大小を比較する
教師の説明を受けて,子どもたちは自分の取ったストローの本数をプリントに数字で表記し,それを隣の席の子どもと確認し合った。
前時に一人ひとりが記入した数字をもとに,数の大小を比較する場面を設定した。はじめに,隣の席の子ども同士や4人のグループ内で互いに数字を見せ合い,「誰の数が多いか。どうしてそう言えるのか」ということを話し合うようにした。
子どもたちは,まず,「誰が一番たくさん取っていたのかな」という思いから,興味深く友達の数字を見ながら自分の数字と比較していた。さらに,「誰の比べ方がよく分かるかな」という思いから,数の大小を決定した根拠を聞き比べていた。
数字で数の大小をどのように比較すればよいか話し合った。
次のような考えが認められた。
A子さんは358本で,ぼくは414本。百の位の数を比べると,ぼくの方が100本の束が1つ多いから,ぼくの勝ち。
B子さんは281本で,私は263本。百の位の数は同じだけど,十の位の数はB子さんの方が大きいから,B子さんの勝ち。
以上のような子どもたちの考えは,100・10・1という構成要素の大きさや関係に着目する【単位の考え】であり,表現の基本原理にもとづいて考えようとする【表現の考え】であるといえる。
子どもたちの考えをもとに,数の大小を比較する際,まず,百の位の数の大小を比較し,百の位の数が等しい場合は十の位の数の大小を比較し,百の位も十の位も数が等しい場合は一の位の数の大小を比較すればよいことの共通了解を図った。
右の写真のように,教室の背面に全員のプリントを掲示し,百の位から順に数字に着目して「ストロー取りチャンピオン」を探した。


8.おわりに

 課題意識の連続・発展を保障する単元を構想するためには,学習内容の配列を工夫する必要がある。下の図は,本単元の学習内容の配列を,本研究で構想・実践した単元と教科書(啓林館)とで比較したものである。このように,教科書の学習内容の配列を柔軟にとらえる姿勢も重要である。

本研究の内容の配列
  3位数の記数法
  1000という数の意味
  3位数の大小比較
  数の系列や順序
  10を単位とした数の構成
  10を単位とするたし算・ひき算

教科書の内容の配列
  3位数の記数法
  10を単位とした数の構成
  3位数の大小比較
  1000という数の意味
  数の系列や順序
  10を単位とするたし算・ひき算

【 参考文献 】『数学的な考え方の具体化』明治図書1998

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