5年
学ぶ楽しさを実感する算数的活動     
〜「円と円周」の学習を通して〜     
熊本市立秋津小学校
上永 秀之
1.はじめに

 新しい学習指導要領の算数科の一つのキーポイントとして「算数的活動」が上げられる。昨今,これを研究テーマとして取り上げている算数研究会も多い。

 学習指導要領解説「算数編」では,次のように述べてある。
   算数的活動を積極的に取り入れることによって,


算数の授業は,教師の説明が中心であるものから,児童の主体的な活動が中心となるものへ転換していく。


わかりやすい学習となったり,実生活での活動と算数との関連が明らかになったりする。


算数の楽しさやよさが感じられ,感動のある学習となっていく。

 そこで,このことを検証しながら,「学ぶ楽しさを実感する算数的活動」をテーマとして実践した「円と円周」の学習を全国の先生方へ発信する。

2.単元構成の意図

 (1) 事象を見つめさせ,子どもの気づきや素朴な疑問を拾い上げながら,「円周と直径,円周と半径の関係」について自ら問題を作り出せるようにする。

 (2)

 「円周が直径のおよそ3.1倍」であることを自ら発見させる。また,その活動においては複雑な計算に対して抵抗感を無くすように電卓を活用する。

 (3)

 簡易距離測定器具を作ったり測定したりして楽しむ。

 (4)

 実生活を見つめ,学んだことを生かす活動を設けて,楽しさやよさが感じられるようにする。

3.活動計画(5時間)

第1次 「円周と直径,円周と半径の関係」について自ら問題を作り,調べる。(2)

第2次

 教室に掛けられた円い時計の直径や円周を調べ,それを手掛かりに簡易距離測定器具を作り,いろいろな距離を測定する。(2)

第3次

 学んだことを実生活で生かす。(1)

4.活動の実際


活動の内容主な発問と子どもの反応
(1) 大中小のフラフープを比べる。
[問いが生まれる活動]


写真1: 大中小のフラフープを掲示
 「比べて何か気づくことはないか?」
 「どちらも円です。」
 「だんだん大きくなっている。」
 「何が大きくなっているんだ。」
 「面積」,S「直径」,S「半径」
 「円の周りの長さ」
 「同じことはないのか?」
 「半径の2倍が直径」」
 「直径の半分が半径」
 「それぞれの円には,半径,直径,周りの長さがある。半径と直径の間には関係があるのに,半径と周りの長さ,直径と周りの長さの間には関係はないのかな。」
 「何かあるかもしれない。」
(2) 一つのフラフープの周りの長さを測る方法を考える
 「このフラフープの周りの長さを測るにはどうしたらいいかな?」
 「巻き尺で測る。」
 「紐か何かを巻き付け,その長さを測る。」
(3) フラフープを1回転させて進む距離を予想する


写真2: 1回転して進む距離は?
 「こうやって1回転して調べる方法もあるぞ。 例えば,この長方形の周りを測るには・・・」
広用紙に一つのフラフープを使って円を写し取る。
 「このフラフープを1回転させるとどこまで進むだろうか?」
 「えっ,こんなに長いんだ。」
 「半径の6倍とちょっとあるぞ。」
 「直径の3倍とちょっとあるぞ。」
 「『ちょっと』をはっきりさせたい。」
問題
 円周と直径,円周と半径の関係はどうなっているのだろうか。
(4) 6種類の円の円周を班で調べる
[調べる活動]


写真3: 6種類の円
 「『円周は直径の3倍とちょっと』の『ちょっと』をはっきりするにはどうしたらよいですかな。」
 「円周を調べて,『円周÷直径』を計算すればわかります。」
 「計算は電卓を使ってもよいですよ。 割りきれない時はそのまま電卓に出た8桁の答えを記録し班で平均を出してみましょう。」
(5) 調べた結果を出し合い検討する
[探求的な活動]



写真4: 直径10pの円で円周が直径の何倍かを出した班の一例



5×3.1=およそ15.5p
6×3.1=およそ18.6p
7×3.1=およそ21.7p
8×3.1=およそ24.8p
9×3.1=およそ27.9p
10×3.1=およそ31p 

 「みんなの調べた結果を見てどう思いますか。」
 「どれも, 3.1になっているので,そこまでは信じれそうだ。」
 「『3倍とちょっと』は『およそ3.1倍』だったんだ。」
 「後は,調べ方にずれがあってはっきりしません。」
 「では,円周と直径の関係を式に表すとしたらどんな式に表されますか。」
 「『円周=直径×3.1』です。
 「では,円周と半径の関係を式に表すとしたらどんな式に表されますか。」
 「『円周=半径×2×3.1』です。」
 「円の半径や直径がわかったら,その円周が計算で求められるんだね。すごいな。
 今日使った6種類の円の円周を式で見つけるとしたら,どうなる。」
 「あっ!おもしろい!」
 「『おもしろい』って何だい?」
 「直径は1pずつ長くなっているのに,円周はおよそ 3.1pずつ長くなっていくんだ。」
 「他にもおもしろいことあるよ。」
 「ある,ある。2倍になると2倍になる。」
 「本当だ。半径が2倍になると円周も2倍だ。」
 「じゃ,3倍になると3倍なるのかな。」
(1) 教室にある円い時計について調べる
[身の回りにある物を用いた活動]


写真5: 教室の円い掛け時計



写真6: 円周1mの円
 「教室に円の形はないかな。」
 「時計があるよ。」
教室の壁にある円い掛け時計を降ろす。
 「直径はどれくらいだろう?」
 「30pくらい」
 「40pくらい」
 「直径はどうやって調べようか?」
 「時計の針を止めてるところが円の中心だから そこを通る一番長い直線を調べたらいいよ。」
 「円周はどれくらいあるのだろう?」
 「70pくらい」
 「80pくらい」
 「円周はどうやって調べるの?」
 「昨日の『直径×3.1』で計算すればいい。」
 「誰か,直径を測ってみてよ。」
 「ええと,だいたい33pくらい。」
みんな,計算をやり始める。
 「102.3p」
 「えっ!1mくらいあるんだ。すごーい。」
 「本当かな。」
 「先生,巻き尺か紙テープない?」
 「紙テープがあるよ。ほら。」
一人の子がみんなの前で測ってみる。
 「本当だ。1mくらいある。」
 「円周がちょうど1mの物を作ってみたんだ。何かに利用できないかな。」
 「1回転すると進んだ距離は1m,2回転だと2m・・・,だから長さを測れるよ。」
 「そうだ。何回廻ったかで,距離がわかる。」
 「作ってみようか。」
 「やる,やる。」
少し時間が経って
(2) 円周から直径を求めなければならない課題が生まれる
 何か困ったことが起きたみたいだな。」
 「円周がちょうど1mになる円の半径は何pにすればいいのかな?」
問題
 円周がちょうど1mの円の半径は何pでしょう
(3) 直径を求める式を作る

写真7: 長さはかりクルクルを使って廊下の長さを実測する様子


[作る活動,調べる活動]
 「3.1 でわればいいんじゃないかな。」
 「どうして?」
 「だって,円周=直径×3.1でしょ。だから, 円周÷3.1=直径だよ。そしてその半分が半径だ。」
 「確かめ算みたいなものさ。」
 「じゃ,1mは100pでしょ。だから,1m を100pにして,100÷3.1がいい。」
みんなが電卓で計算を始める。
 「わかった!およそ32p3oだ。」
 「半径は16p1oくらいでいいんだ。」
 「よし,作ろう!」
(4) 円周1mの円を工作用紙器具を作り,実測する
 名前は「長さはかりクルクル1m」と決まった。円周1mの円を作り始める。
自分の作った「長さはかりクルクル1m」で色々な距離や長さを調べる。
(1) 学んだことを実生活に生かすことを考える
[実生活に生かす活動]









[体験的な活動]
 「円の直径がわかるとその円周がわかる。また円周がわかるとその直径や半径がわかる。
 これを使って生活の中で見つけたいものはないだろうか。」
 「部活でバスケットボールの円周や直径を見つけたい。」
直径がボールの高さになっていることに気づかせ,その測り方を簡単にふれる。
 「運動場にある円形の運ていの直径からその円周を見つけたい。」
 「なるほど,いろいろありそうだね。運動会で走るトラックの長さはどれくらいかな。」
これについて,暫く話し合う場をもち,計算方法を確認し合う。
 「学校の大きなドングリの木を切らずに, その直径を求めることはできないかな。」
これについても,暫く話し合う場をもち,見通しが持てたところで。
(2) 教室の内外において,円周から直径を見つけたり,直径から円周を見つける活動をする

写真8: いろいろな円を見つけたよ


共通問題
 1) 運動場のトラック1周を求めよう。
 2) 木の周りからその直径を求めよう。

自作問題
 3) 何か探して,直径からその円周を見つけよう,また,円周からその直径を見つけよう。

自作問題として子どもが取り組んだ物
 ・一輪車の円周や直径
 ・防球ネットの支柱の直径
 ・上り棒などの棒の直径
 ・色々なボールの直径や円周
 ・自分のももやうでの直径 等

5.終わりに

 教室の内外で見つけてきた円(写真8)を黒板に描いて楽しんだ。
「先生,私の大好きな一輪車で色々な距離も測れるんだね。おもしろい。」
「部活のバスケットボールの大きさを切らずに円を描けるなんてびっくりした。」
「先生,この円が何だかわかる?僕の足のももだよ。」
 多様な体験的な活動は,学んだことを自分なりに生活の中に果敢に生かす活動に繋がった。中には予想外の発見も生まれ,指導者を驚かせた。
 今回,5時間の活動計画の中に様々な活動を盛り込んだが,その結果,児童を中心に据えた学習となり,自ら問題を追求したり活発に活動したりすることができたと思う。
 [問いが生まれる活動][調べる活動][探求的な活動][身の回りにある物を用いた活動][作る活動,調べる活動][実生活に生かす活動][体験的な活動] など,児童は『活動』そのものを楽しんでいた。毎時の授業の終わりには「算数日記」(学習を 振り返って自由に短い文章をノートに書かせたもの)を書いてもらっているが,その中にも,「楽しかった」「驚いた」「これらも生活の中に生かしたい」という言葉が数多くあった。

 「算数的活動を積極的に取り入れれば,算数の授業が児童の主体的な活動へと転換するんだ。」と強く感じる。それは,子どもたち自身が算数を創っていくような楽しい学びだ。これからも,子どもの中に輝きを見出していく算数的活動を研究しながら,感動ある算数学習を子どもたちと共に楽しんでいきたい。


前へ 次へ

閉じる