3年
6年生「大地の変化」につながる土の学習
          〜 地域性を生かした教材の開発と授業実践 〜          
兵庫県赤穂市立塩屋小学校
入潮 令子
1.はじめに

 平成21年度より移行措置に入る新しい小学校学習指導要領理科では,6年生において地震は火山との選択ではなく必修の内容となる。地球科学分野の学習を通して,児童は地球環境を見つめる感性,自然科学への興味・関心,及び自然災害に対する防災意識等,小学校理科の目標以外にも生きていく上で必要な様々な資質を身に付けることができる

 本実践では自分が住む地域を足下の地面に目を向けて見つめ,地形図を用いた社会科的な学習とも関連させた横断的・総合的な学習として,6年生「大地の変化(地震学習)」につながる土の学習を教材化した。授業実践校は,千種川河口地帯に位置し,校区の南側は瀬戸内海に面している。昔からの塩田跡地を埋め立てた住宅街が校区の大半を占めており,大正時代の地形図によれば授業実践校自体も昔の塩田に位置している。したがって,もしも地震による強振動が生じれば地盤が軟らかいために液状化現象等が発生することが懸念される。また,海に面していることから津波に襲われる可能性も考えられる。諸調査の結果から,理科で学習したことが役に立つと考える児童が少ないことが日本の理科教育の課題とされているが,このような地域の特性に目を向けて学習することで,自らの生活と密着した学習ができると考えた。


2.授業実践の概要(ねらい)

(1) 土を調べよう

校内の色々な場所の土を採集し,観察を通して土には様々な物が含まれていることを知る。
土は色々な大きさの粒から構成されていることに気づき,粒の大きさで分類できる。
簡単な実験を通して,粒度が異なると性質が異なることに気づく。


(2) ふるさと発見 −校区の昔と今−

地形図から地域の地形は埋め立てによって変化してきたことを知り,自分が住んでいる浅い地面の下の様子を想像できる。
浅い地面の下の土を観察し,地震が起きた時の地面の変化(災害)を想定する。


3.授業の実際

(1) 土を調べよう

学校の中のいろいろな場所の土を集めて観察しよう

土について調べたいことを話し合い,採集場所を決める。
採集した土を観察し,気づきを発見カードにまとめる。

クリックすると画像が拡大されます。 クリックすると画像が拡大されます。 クリックすると画像が拡大されます。


場所による土の違いを比べてみよう

運動場 砂場 学級園 学校田 溝の近く ビオトープ
茶色
ざらざら
石がある
にぎるとつぶれる
ぱさぱさ
ざらざら
さらさら
小さな粒
かたまりにくい
黒い
ふわふわ
におい
植物の根
かたまりやすい
黒い
やわらかい

べとべと,粘土

重たい,水
くさい
かたまりやすい
ぱらぱら
ざらざら
石がある

植物の根

くさい
ざらざら
ぱらぱら
ころころ
くさい
根,ミミズ
小さな粒


運動場の土でどろだんごを作るにはどうしたらよいだろう

運場の土をふるいにかけて,粒の大きさで分類する。
班ごとにふるい(園芸用ふるい,調理用ふるい)にかける。
ふるいにかけた土を比較し,分かったことをまとめる。
粒の大きさが違う土のひみつを調べよう

実験の答えを予想し,確かめる。

1

どの大きさの粒の入ったロート(ペットボトル製)から, 水が1番早く落ちてくるだろう。

2 水を含ませると,どの大きさの粒が固まりやすいだろう。
3

水の入った円筒のパイプ( 10 × 80 p)に土を落とすと,どの大きさの粒が1番早く沈むだろう。


まとめ:土とはどんなものだろう

土について教師の説明を聞く。
土は,粒の大きさによって,礫,砂,どろ(ねんど)に分けられ,植物の根や生き物を含むものもあることを知る。
水をしみこませると様子が変わることを知る。

もしも地域で大きな地震が起きたらどうなるのだろう

地面の下の図を見る。

振動実験器(砂を入れて水を含ませたタッパー,自作簡易振動台,模型のビル)による演示実験を見る。


(2) ふるさと発見 −校区の昔と今−

校区がどのように変わってきたかを地形図で調べよう。 (DIG)

昔と今の地形図(国土地理院の H.P. から購入)にビニールクロス(ホームセンターで購入)を重ね,カラーマジックで色分けする。
(例えば,塩田:オレンジ,住宅:赤,田畑:緑など)
年代順にシートを並べ,土地の変化の様子を考える。


学校の地面の下の土を観察しよう。

昔と今のシートを重ね,埋め立てた地面の下を想像する。
地形図に合わせて地面の下の浅い部分の土を観察する。
(ボーリングコア試料がなかったため近所のスーパーから提供を受ける。簡易ボーリングマシン SCSC でも採集。)


もしも校区で大地震が起きたらどうなるのか予想しよう。

この地域で起きる災害について教師の話を聞く。
振動実験の結果を想起し,災害による土地の変化を想定する。


4.評価と課題

(1) 「授業はよく分かりましたか」の問いに, 92 %の児童が肯定的な回答であった。
(2) 「授業は楽しかったですか」の問いに, 100 %の児童が肯定的な回答であった。
(3) 「この学習は生活に役立つか」の問いに, 98 %の児童が肯定的な回答であった。

土のことがいろいろ分かって楽しかった。なんでも実験すると,よく分かる。

地震がなぜ起きるのか調べてみたい。マグニチュードいくらまであるの?校区で大きな地震があるのかな?



5.まとめ

 土や砂の採集や五感を使った観察,ふるい分け,泥団子作り,粒度毎の性質を調べる実験などの体験活動を通して,土と親しみ実験の楽しさを味わうとともに土を見る視点を深め, 6年生 以後の地震の学習へとつながる科学的な見方や考え方の素地,関心・意欲を育むことができた。また,小学校 3年生であっても振動実験器を使用した液状化実験は児童の感性を揺さぶり,自分が住んでいる地域の地盤への興味・関心を高めた。さらに, 3年生では地図の読み方を学習しているため,昔と今の地形図を比較して DIG へと発展させる学習は,地面の下の簡易ボーリング資料を観察する学習と併せて,目で見ることができない地面の下の様子を想像する方法として有効であった。今回の学習では,専門的な粒度分析用ふるいや理科備品用振動実験器等を用いずに,安価に手に入る身近な機材や手作りの実験器具で効果的に学習することを試みた。今後は,これらの体験学習と自己の課題意識に基づく主体的な学習との一体化を図る指導方法を探ることが課題である。


<参考文献> 「流水・地層・岩石の授業」 森本信也編著 地人書館
<研究協力者> 桜美林大学リベラルアーツ学群 準教授 根本泰雄氏
尾崎小自主研究部会(研究代表者 入潮令子)

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