5年
基礎的基本的な力を身につける理科学習を目指して           
〜てんびんとてこの実践〜          
神奈川県川崎市立殿町小学校
小野 薫

1.はじめに

 前任校である川崎市立浅田小学校は,川崎市の最南部に位置する学校です。すぐそばに首都高羽田線が通り,工業地帯の煙突が何本も見えます。学校の周りには大きな商店街があり,下町の雰囲気を残した環境です。

 私は理科の授業を通じて,子どもたちに「理科の基礎基本」を身につけて欲しいと願っております。私が考える理科の基礎基本は「科学概念の獲得」と「探究の技法の習得」です。観察や実験のやり方をしっかりと学び,操作的定義から正しい科学の概念を得ることが大事だと思います。そして,何よりも子どもたちに理科が好きになって欲しいと思います。

 教員になったときは,理科をどう教えたら良いのか分からず,理科はあまり好きではありませんでした。しかし,授業実践を重ねていくうちに,少しずつ押さえるべき大切なポイントが分かるようになってきました。

 その中で,てんびんとてこの実践を紹介したいと思います。


2.児童の実態ときっかけ

 虫や花の飼育が好きな児童が多く,元気な子どもたちです。理科に関するアンケート結果から,理科が好きだと感じている児童は主に実験活動がおもしろいからと回答しました。逆に,好きではないと感じている児童は,観察が面倒くさいと感じている児童が多いという結果が出ました。内容によって,好き嫌いがある児童も約4割と多いため,いかに興味を持たせて授業を行っていくかがポイントだと言えます。

 てんびんとてこの単元は,市販の教材キットを用いることが多いのですが,今回は子どもたちの興味を引き出し持続させるために,自作のてんびんを作ることにしました。


3.自作てんびんの作成

 2リットルのペットボトルに水を入れて,支えにします。
 キャップの部分にねじで固定し,目玉クリップで支点を作ります。
 うでには平らな木材を使用し,両端には牛乳パックをつるします。
 精度も高く,子どもたちは自分で作ったてんびんにとても興味を持ったようでした。
 また,学習を通じて壊れることも少なく,1人1台で活動を進めることができました。

意外と精度は高いです 子どもにも操作しやすいです



4.授業経過

 1時間の授業の中で,身につけさせたい力を明確にするために,ワークシートを用いて学習を進めました。

 これは重さくらべや重さを測ってみる活動です。前時に,どんな活動をしてみたいかを考えさせました。

 選択の活動だったのですが,ほとんどの子どもたちが両方とも活動していました。これらの活動を通して,子どもたちは「つり合っている」という概念を,持ち始めました。

 しかし,手作りのてんびんでは正確に重さが測れないという意見から,上皿てんびんを紹介しました。上皿てんびんの使い方は,ここでしっかり学んでおくことが大事なので,活動時間を確保しました。


重さを測るのに1円玉を活用しました 真剣な表情で,実験に取り組んでいます

 これは,てこがつり合うときの規則性を調べたワークシートです。左のうでは動かさずに,右のうでとつり合う場所を探しました。

 つり合わない箇所があることから,こどもたちはなぜつり合わないのだろうと考えていました。

 しかし,重さ×支点からの距離の数字が30のときに,つり合うことを発見しました。

 このことから,ちがう重さのものでもつり合うことができるてこはすごい,と実感したようでした。

 この後,身の回りにてこが生かされている道具を探しました。はさみやくぎ抜き,ペンチ,ホチキス・・など,たくさんの道具を見つけることができました。そして,どこが力点でどこが作用点なのかを考えました。その中で,小さな力で大きな力をもたらすものだけでなく,ピンセットのようにその逆の道具があることに驚いたようでした。


5.終わりに

 なかなか学習に集中できなかった子どもたちでも,自分で作ったてんびんには最後まで興味を持ち,1人1人が遊ぶことなく学習に取り組んでいました。ものづくりという観点からも,自作することは有用であると思いました。

 また,ワークシートについてもポイントをしぼることで,子どもたちは何のために学習をしているのかがはっきりと分かり,熱心に書きこんでいる姿が見られました。このてんびんとてこの学習を通じて,科学概念の一つである「平行概念」をしっかり学んだのではないかと思います。

 ただ,反省すべき点は,友だち同士の積極的な意見交流が見られなかったことです。それだけ集中して活動していた裏返しなのかもしれませんが,もう少し考えを交流する時間をとることも大事かなと思いました。

 これからも,単元ごとに押さえなければならないポイントや科学概念をしっかりと学んで,理科好きな子どもを育てていきたいです。

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