6年
学ぶ喜びを感じとれる子どもの育成                  
−「水溶液の性質」の学習を通して−                           
滋賀県大津市立青山小学校
澤 洋一
研究主題
   確かな力をもって,学び続ける子どもの育成
 〜自ら学ぼうとする子どもを育てる学習のあり方〜
期待する子ども像
 ・  学ぶ喜びを感じとれる子ども(探求する力・応用する力)

1.はじめに

 理科は覚える学問ではない。 時に知識を基に考えを組み立てる場合もあるが,知識はあくまでも結果としてついてくる。

 小学校では「なぜ,どうして?」という考え方を大切にしたい。本校では塾で知識を先におぼえている子もいるが,実験・観察を楽しみにしている児童も多い。

 結果だけにこだわらず,学習の過程を大切にするために,授業があり,指導があることを忘れないようにしたい。このことは上記校内研究テ−マにつながっていくと思う。

 理科ではこれまで「ものの燃えかたと空気」「動物のからだのはたらき」「植物のからだのはたらき」を学習してきている。この中でも,子どもたちの探究する力,応用する力を引き出すよう指導を心掛けた。

 「ものの燃えかたと空気」では,二酸化炭素の存在をろうそくや石灰水を使って確かめたり,酸素の中でわりばしやスチールウールを燃やしたりした。実験用酸素ボンベも使ったが,多く使うと高くつくので,教師卓で酸素を発生させ,グループの代表に水上置換での集気を手伝わせた。ボンベを使うより,いかにも実験らしい装置に児童は興味をひかれたようである。

 「動物のからだのはたらき」では,唾液ででんぷんを分解する実験をした。実験方法をノートに書いた後「実験がうまくいかない時は,どんな原因が考えられる?」と,失敗する原因を3つほど予想させた。実験がうまくいかなかった場合も「あーぁ,失敗してしてしまった」だけで終わらないように配慮したつもりである。一つの班は,でんぷんが残って発色してしまったが,原因が温度管理にあることに気づき,納得した様子であった。

 「植物のからだのはたらき」では,児童はろ紙に葉をはさんで実験し,担任はアルコールを使った。幸い両方ともでんぷんがヨウ素液に反応して,結果がよくわかる実験となった。少し色がついたろ紙も時間がたつと薄い色に変わっていくことに興味を示した児童もいた。

 本事例は「水溶液の性質」の単元を通して,校内研究テ−マ「確かな力をもって,学び続ける子どもの育成」にせまった。

2.「水溶液の性質」で大切にしたい学び

 (1)  単元のねらい

 本単元では,水溶液の性質(気体がとけているものがあること,酸性,中性,アルカリ性のものがあること,金属を変化させるものがあること)をとらえるとともに,日常生活に見られる水溶液を興味・関心をもって見直す態度を育てることがねらいである。

 この単元での基礎的な学習事項(●)と基礎的技能(★)は以下である。

 ● 気体がとけている水溶液や固体がとけている水溶液の区別ができる
 ★ においのかぎ方  ★スポイトの使い方  ★蒸発による確かめ方

 ● 酸性・中性・アルカリ性の区別ができる
 ★ リトマス紙の使い方

 ● 金属を変化させる水溶液があることを知り,変化を確かめることができる
 ★ 蒸発皿の使い方

 基礎的技能(★)の指導は「○○するのですよ」だけでなく,理由も述べながら指導していきたい。その論理の積み重ねから学習事項(●)が導かれるものと考える。また,日常生活での興味・関心も学習のたいせつなねらいであることがわかる。

 (2)  指導の手だて

校内研究のテーマにせまるために,次の方針をとることにした。

 1.  ★印の基礎的技能を修得するために,児童一人ひとりに器具を与え,実験を繰り返し,個別指導を行う。

 2.  ●印の学習事項の定着のためにプリントを効率的に使い,ノートの書き方も合わせて指導する。

 3.  日常生活でも興味・関心をもてるように,理科室の特別な薬品や道具を使わなくても,家でできる実験を通してねらいにせまる。

 4.  担任がそろって事前実験をし,器具・薬品の準備,指導の徹底を図る。

基礎・基本を大切に

 理科も他教科と同じく,基礎・基本は大切である。実験や観察の時間はそれぞれに意味があり,遊びではなく,学習である。「この時間に○○のやり方がわかった」「この前よりも上手にできるようになった」というようなステップを大切にしたい。

 また,身に付いた基礎・基本を忘れないようにしたい。児童の様子を見て,繰り返しほめたり,注意を喚起したりすることが大切と考える。

新しい発見を感じるられる題材を

 本単元では「コーラで作るレモンスカッシュ」「花のリトマス」を取り入れた。塾で習っている児童も,そうでない児童も同じ土俵にたって学習できる題材である。

 コーラは炭酸を取り出すためだけに使う。もったいない気もするが,色がついてある飲料から透明炭酸飲料を作ることに意義がある。取り出した気体を,違う液体に戻す。「見えないガスを操作した」という思いを大切にしたい。

 リトマス紙はリトマス苔の色素が原料であるが,大抵の植物色素は酸・アルカリに反応する。身近な植物を題材にすることで,日常生活でも理科への目を開きたい。また,多くの花を調べることで,誰もがきれいに発色する試験紙(花のリトマス紙)を見つけだすことができるのである。

 がんばれば発見できるという可能性と,なぜ色が変わるのだろうという不思議が,この教材に期待できる。これを機会に自然の中のいろいろな花へ興味を広げる児童もでるかもしれない。

3.単元の目標

 (1)  水溶液には何が溶けているかに問題を持ち,水溶液には気体や固体が溶けているものがあることを調べる。

 (2)  リトマス紙を使うと水溶液を酸性・中性・アルカリ性に仲間分けできることをとらえることができるようにする。

 (3)  身の回りの水溶液と金属の資料などから,水溶液は金属を変化させるかに問題を持ち,多面的に追求していく中で,金属が水溶液によって質的に変化していることをとらえることができるようにする。

4.単元の評価規準

 (関心・意欲・態度)

  ・   水溶液には何が溶けているかに問題を持ち,進んで調べる方法を考えて試そうとする。

  ・   雨水の影響や身の回りの水溶液と金属の資料などから,金属に水溶液を注ぐと変化するかどうかに興味を持ち,進んで変化の様子を観察しようとする。

 (技能・表現)

  ・   水溶液を蒸発させて,とけている物が気体か固体かを見分け,記録することができる。

  ・   リトマス紙を正しく扱い,水溶液を付けて調べ,色の変化の様子を的確に整理して,記録することができる。

 (思考)

  ・   水溶液を,リトマス紙の色の変化によって酸性・中性・アルカリ性に判別し,水溶液の性質で3つに仲間分けできると考えることができる。

  ・   金属が溶けた液を蒸発させて出てきた物が水に溶けることから,金属は水溶液によって別の物に変化したと考えることができる。

 (知識・理解)

  ・   水溶液には,気体や固体がとけている物があることを理解する。

  ・   水溶液には,酸性・中性・アルカリ性の物があり,リトマス紙で判別することができることを理解する。

  ・   水溶液には,金属を変化させるものがあることを理解する。

5.授業の実際 (全14時間)

 1次 水溶液には何が溶けているか (5時間)

  1〜2時  薬品を扱うときに気を付けることを聞く。

 薬品の処理のしかた・においのかぎ方,ビーカーや試験管の扱い方(試験管立てから落下して割れるケースの説明)

 塩酸,炭酸水,食塩水,石灰水,アンモニア水には,どんなものがとけているか,蒸発させて出てくるものを調べる。液には,気体や固体が水に溶けているものがあることをまとめる。

  3   時  炭酸水に溶けている気体は何か,調べる方法を考える。

 グループで方法を考えて,個人ノートに書き,代表が画用紙にまとめる(提示用)
 新しい案が出てきたらほめる。既習事項の復習になる。

▼ろうそくで実験
▼注射器で吸い取って,石灰水
▼袋をかぶせて,石灰水

  4   時  自分たちが考えた方法で,炭酸水の気体が二酸化炭素であることを調べる。コーラの泡が二酸化炭素であることを見つけよう。

▼水上置換で集めるグループ
▼ろうそくを使うグループ
▼石灰水を使うグループ

  5   時  取り出した二酸化炭素を使って,炭酸ジュースを作る。

 黒いコーラから薄い色のレモンスカッシュを作ることに,意外性がある。使うペットボトルは四角い茶のものに限る(薄く作ってあり,へこみやすい炭酸飲料のペットボトルは使わないこと)

▼レモンスカッシュ
製造装置
▼振るとCO2が
溶けてへこむ
▼乾杯

 2次 水溶液にはどんな仲間があるか (4時間)

  1   時  水溶液は,溶けているもの以外に,どのような性質で分けることができるか,いろいろな水溶液をリトマス紙につけて調べる。

  2〜3時  水溶液は,リトマス紙の変化で,酸性・中性・アルカリ性の水溶液に仲間分けできることをまとめる。

  4   時  身近な花を材料にして,リトマス紙の代わりになるものを作る。花の豊富な時期にすることが望ましい。
 花の表面は保護層があるので,そのままでは酸・アルカリに反応しにくい。紙・画用紙などに花の汁をしみこませてリトマス紙の代用にする。

 <準備物>

 ろ紙,あらかじめ作っておいた花のリトマス紙,花の写真,花壇の立て札,0.1Nの酸・アルカリ水溶液,ガラス棒・フラスコ・はさみ・ビーカー・ピンセットなどの器具

学習活動 教師の支援・留意点 評価の観点
 1.  身近な花がリトマス紙の代わりになることを知る。

 ・  グループに数枚のサンプルを 準備する。

 ・  薬品の扱いについて再度注意をうながす。

 ・  試験紙や器具の扱いが正しくできたか

 2.  今日の課題を知る。

自分のリトマス紙を作ってみよう

 ・  作り方を教師卓で提示する。

 
 3.  花壇の花を材料にして試験紙を作り,発色をためす。

 ・  発表の際の区別のため,花壇の花々の写真を提示しておく。

 ・  たくさんの種類を試し,良い試験紙ができるようがんばったか







 4.  結果を発表しあい,よりよい試験紙を作ろうとする。
 ・  家庭でのやり方を説明し,ろ紙を希望者に配る。
 ・  自分の集めたもの,友達のあつめたものなどと比較して発表できたか

 ・  家でもやってみようという意欲が見られたか

 3次 金属を水溶液に入れるとどうなるか (5時間)

  1   時  水溶液には,金属を変化させる働きがあるかを調べる。

  2〜3時  塩酸にアルミニウムはくが溶けた液を蒸発させて,何か出てくるかを調べる。また,出てきたものがアルミニウムはくと同じ金属かどうかを調べる。

  4   時  水溶液には,金属を変化させるものがあることをまとめる。

  5   時  「かんがえよう」について考えをまとめる。学習の整理を行い,水溶液の性質と働きについてまとめる。

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