5年
天気の変化のひみつをさぐろう     
観測活動におけるコンピュータの活用      
奈良県天理市立前栽小学校
教諭 島田 宇一郎

1.はじめに

 コンピュータ等の情報機器が社会や家庭に急速に普及する中,小学校へのコンピュータの設置が進められ,指導方法の工夫・改善や新しい学習活動を生み出す道具としての可能性に期待が寄せられている。今後,学校現場では,コンピュータをそれぞれの教科,単元でどのように活用していくかが大きな課題である。

 本校には3台のマルチメディア機能をもつコンピュータが導入されている。そこで,コンピュータの特性を生かすことにより,児童の主体的な学習活動を支援できるのではないかと考え,5年生の理科「天気の変化」の学習において,コンピュータの活用を試みた。

 指導にあたっては,気象現象について児童が見いだした問題を解決するために,継続的に観測を行ったり,必要な情報を集めたりするなど,児童の体験活動を重視したい。そして,コンピュータに対する児童の興味・関心を大切にしながら,問題解決の過程で児童が学習の道具として活用する場面と,教師が指導の道具として活用する場面を明確にし,児童が主体的に学習できるようにしたい。

2.実践の内容

 (1) 使用したハード・ソフト

コンピュータ(ウインドウズ95) 1台


デジタルカメラ 1台


テレビコンバータ 1台


たんきゅう君(富士通)


 (2)

 授業実践

1) 自分たちで天気の予想ができるか

 児童は日常生活の中で,天気が急に変わって困った経験をしており,楽しみにしている予定があると,天気のことがとても気になるようである。「天気の予想ができたらいいね。」という問いかけに,児童から,「雨が降るときは雨雲がでているよ。」「天気がわるくなると寒くなるな。」「台風が来るときは風が強いよ。」などの答えが返ってきた。そこで,雲の様子,気温,風の吹き方を詳しく調べ,天気との関係を考えることにした。

 まず,学校の屋上で雲の様子を自由に観測させた。(写真1)この日は,空に何種類かの雲が見られたので,児童は発見の喜びを感じながら雲の様子を観察し,教科書や図鑑,データベース(図1)を利用して雲と天気の関係を熱心に調べた。

写真1 屋上で雲の観測
図1 雲のデータベース

 次に,晴れ,くもり,雨の日に,それぞれ1時間おきの気温を測定した。観測データはその都度コンピュータに入力させ,観測後は,グラフ化して天気と気温の関係についてとらえることができた。(図2)また,一人一人自作した風向風力計を使い風の測定も行った。(写真2)

図2 天気と気温の変化
写真2 風向風力の観測

2)

 数時間後の天気を予測しよう

 これまでの学習で,児童は自分たちの手で天気の変化を予想できそうだという実感をつかんだ。そこで,児童の実態を考え,数時間後の天気を予想しようという課題を与え話し合ったところ,児童から,「コンピュータを使ってやりたい。」「デジタルカメラで雲の写真を撮ったらいい。」「声も入れよう。」という意見が出た。これは,以前に電子絵本を作った経験がある児童の自然な発想であろう。

 実際の観測は,比較的時間がとれる,「業前(8時45分)」「業間(10時30分)」「昼休み(12時30分)」に全員が行い,コンピュータへはグループごとに順番で記録することにした。デジタルカメラを手にした児童たちは,とてもうれしそうに運動場に飛び出し,交代でカメラを構えて空の様子を撮影した。(写真3)慣れない写真の撮影に最初は教師の助けが必要であったが,友達同士相談し合い,天気の変化や予想の根拠となるような空の様子を撮影できるようになった。

 観測結果の入力が終わると,観測結果と予想をコンピュータを使って学級のみんなに発表し,意見を交流し合ったが,児童から積極的な意見が出され,次の観測への意欲も高まった。(図3)

写真3 雲の撮影
図3 天気調べの記録
  音声の記録
 天気は晴れですが,西の空が白っぽくなってきました。西の方から風が吹き白い雲が広がってきているので,これからくもりになると思います。

3)

 より確かな天気予報をしよう

 天気調べを行う中で,「1日の内でも天気って変わるんだな。」「雲は西から東に動いてるよ。」など,天気の変化の規則性につながる意見が,児童からきかれるようになった。また,生活ノートにも天気のことを書いてくる児童が見られた。

生活ノートから

 空を見ていると,こうそう雲がありました。その他にも,すじ雲ににている雲がありました。こうして見てみると,空っておもしろいなあと思いました。そして,天気の予想も,こつがつかめたような気がしました。

 そこで,児童と話し合いながら,もう少し長期間にわたって1日1回の観測を続け,天気の変化の様子を調べることにした。

 こうして,3週間後,児童の天気調べの記録を順番にモニターに映し出し,音声を再生していった。映像や音声による記録はリアルに再現されるので,児童にとって毎日移り変わっていく天気の様子を想起しやすく,「天気は,快晴,曇り,快晴,曇り…と繰り返していたな。」「西から風の吹く日が多かったな。」「地上と空の上では風向きがちがったよ。」など,自分たちの記録を振り返ることができた。


4)

 インターネットの活用

 日本付近の天気の変化の規則性をとらえさせるため,自宅でインターネットよりダウンロードしておいた,観測期間中と雨で延期になった運動会前後の「ひまわり」「アメダス」の1時間おきの画像を,1秒間隔で提示した。(図4・図5)

 児童は,自分たちが観測してきた期間の画像に興味津々であった。特に,運動会前後の流れるように動いていく雲の様子に驚きながらも,天気は西から東へと移り変わっていくことをとらえることができた。

図4 ひまわりの画像

※1日おきのもの
図5 アメダスの画像

※3時間おきのもの

学習後の感想

 「今までは何も思わないで変わっていく天気が気になりませんでした。でも,授業で初めて天気はほとんどが西から変わるということを知りびっくりしました。パソコンで見ると,雲が最初は小さかったのにだんだんひっついて大きくなって動くことがとても不思議です。」

 「これまで学習して分かったことがあります。それは,風は西から東へと進んでいるということです。ぼくの考えは,地球と風はいっしょに動いているのではないかということです。ぼくは,だんだん理科のことが好きになってきました。これからも理科をいっぱいやっていきたいです。」

 「天気調べをするのに,気温を測りに行ったりして大変でした。でも,あとでパソコンを見ると,今までの記録が残っているので,順番に見ていくと天気の様子がすごくよく分かりました。やっぱりパソコンって便利だなと思いました。半月ほど天気調べをしていたなんて自分でもおどろきました。」

3.考察と課題

 観測という体験的な活動とマルチメディアを結びつけた取組は初めてであったが,映像や音声を取り込んだ観測記録に対する児童の反応は予想以上で,コンピュータの活用が児童の学習意欲を確実に高めることを実感した。また,コンピュータに入力した観測結果や天気の変化の予想をみんなに伝え,意見を交流し合える場を設定したことで,継続観測への意欲が持続し,より確かな目で観測しようとする気持ちも高まった。

 今回のインターネットの活用は教師主体であったが,日本付近の天気の変化の様子を視覚的にとらえることができ,児童の理解を深めることができた。最近になり,本校もようやくインターネットに接続できる環境が整った。今後は,児童の主体的な活用について考えていきたい。

 課題に対して自ら働きかけようとする児童の姿勢が高まり,わたしたちの身近な自然現象である天気の変化についての問題を,児童自ら直接観測を行ったり気象情報を活用したりして発見的に追求していくなど,コンピュータの活用は,単元のねらいにせまる上で大変効果的であった。

 しかし,学習が進むにつれ,児童のコンピュータに対する興味・関心が高まってくると,もっとコンピュータを使いたいという児童の声が聞かれた。児童の願いをかなえるためには3台のコンピュータを全て活用するなど,指導方法に工夫の余地があったのではないかと思う。

4.おわりに

 コンピュータの活用は,児童の主体的な学習につながり,授業の活性化に有効であった。また,現在の学校教育で求められている児童の表現力や思考力,問題解決能力の育成に果たす役割は大きいと考える。学校現場へのコンピュータ導入とネットワーク環境の整備がますます進められていくであろう。今後も,児童の問題解決,表現,交流の道具として,コンピュータの活用を進めていきたい。



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