授業実践記録
一斉指導でICTを活用して動的思考を促す試み
宮城県仙台西高等学校
佐藤徳顕
 
1.はじめに−現状の捉え方について−

 教育現場における ICT の利活用は,数年前とは比べものにならないほどに活発になり,様々な使い方が実践されてきていると思います。文部科学省は,2010年10月に「教育の情報化に関する手引き」を作成し,教育現場における様々な ICT 活用について一層の充実を図り,確実な実施を求めています。これまで,算数数学教育では,幾何ソフト(GC や Cabri-Geometry 等)及び関数系グラフソフト(GRAPES や FunctionView 等)による実践,グラフ電卓を使用した実験的要素からの数学的モデリングの授業が報告されています。
 私は,これからの算数数学教育では,ICT の利活用は必須なものであると考えます。児童生徒に対して提示するためだけでなく,数学的活動を促したり,数学的な考え方を深化させたりするために児童生徒自身がICTを用いた問題解決場面の設定も,今後は必要であると考えます。
 本稿では,今後 ICT を活用することが必須になるという視点に立って,従来の一斉授業の中での活用場面・授業実践を紹介させていただきたいと思います。
 
2.私が実践で用いているICT機器について

 これまで行われてきた板書中心の授業の中で苦心した場面は,動的思考を生徒に対して説明する際に,静的な図をもとに言葉(特に指示語) を多用しなければならないことでした。これらに対して,電子黒板と PC は,動的な思考を有する場面を動的に説明可能にするという点で画期的なものです。本校で所有する電子黒板は,本体を黒板にマグネットで装着できるものであり,黒板そのものをスクリーンとして使用することができます。そのため,プロジェクターを通して映し出された PC の画面は,黒板上で動作可能であり,チョークで加筆できる状況です。実際は,アプリケ−ション上で動的な場面を連続再生させ,特徴的な場面では,直接チョークで画像を残し,振り返りなどで活用しています。また,本稿では,フリーソフトの GRAPES を使用しました。
 
3.実践場面

(1)二次関数の最大値・最小値
 二次関数の最大値・最小値の学習では,解法の際にグラフを意識させたいと考えました。『定義域を−1≦ x ≦4 としたときの,2次関数 の最大値と最小値を求めよ。』では,設定した変数の値を連続的に変化させたとき,それに対する描画を行ってくれる機能を用いて,定義域を変化させ,それに対するグラフと,値域を表示させるようにしました。定義域を変化させる操作は,電子黒板上で行っています。実際は,投影されているグラフに,定義域の端点である(−1,2)をチョークで示し,定義域を x の正の方向へ変化させていきました。その際,定義域に対するグラフをやや太く改めて描画するようにしました。加えて,その時点での y の値を示す点を y 軸上に示し,値域も明確に表示できるようにしました。定義域を変化させていく過程で,x =1までは,y の値を示す点は次第に下降していきましたが,x =1より大きくなった時点から,上昇し始めます。その後,x =4まで変化させた時点で操作を止めました。ここで改めて,生徒に対して,y 軸上に示される y の値を示す点をひとつずつ指しながら「この点の動きを見ていて」と伝え,定義域を x =−1まで,減少させました。そして,定義域を変化させながら,y の値が,下降した後上昇することを確認しながら,演示しました。結果として,ほとんどの生徒が最大値と最小値を捉えることができるようになりました。生徒からは「直線の時みたいに端っこじゃないんだ」というような発言もあり,一次関数と異なることに気づくことができるようになりました。

(2)軌跡の問題の解決場面
 『点 A(4,4)に対して,点 P が円の周上を動くとき,線分 AP の中点 M の軌跡を求めよ。』では,点A,P,Mを設定し,円周上の点 P に対応して点 M を表示するように設定しました。問題場面の理解のために,点 M を表示させずに線分 AP を表示し,点 P を円周上を動かした。そこで生徒に予想をさせておいてから,点 M を描画させました。単に式変形で考えさせると,円周上の整数座標の点のみで予想し,行き詰まる生徒も少なくないと思います。生徒にとって,なめらかに動かしながら考えることは慣れていることではなく,シミュレーションを演示することは,解決の予想を立てるのに役立っていると考えます。また,自分なりの予想を立ててから式変形による解決を行うことで,求められた解答を吟味することができている生徒も少なからずいました。
 これらの事例から,条件が変化する境界を動的に示すことは,生徒の問題解決や理解に有効であると明確になったと思います。これは,生徒にとって考えにくい場面を,ICT には視覚的に示せる利点があると捉えられると考えます。また,生徒自身が,「していることが何なのか」を実感しながらの授業になる可能性を持っていると考えます。電子黒板の使用は,これまでの板書の延長線に PC を用いたシミュレーションを付加させ,とても便利な側面を持っています。課題は残りますが,生徒の理解を助ける側面から, ICT の利活用は積極的に取り組むべきものであると考えます。

 
4.まとめと今後の課題

 必要な場面で,教師の意図する考え方を言葉でなく,視覚化することが可能になる ICT の利活用には,「見ることによる慣れ」でなく,「見ることによる個の思考実験の確認と訂正」が行われていく側面があると考えています。そのような授業を組織していくことは数学的活動を組織することの一つの側面でもあり,今後の数学教育に大きく寄与すると思います。特に教師の説明によってある程度教え込まなければならない場面では,見方考え方を提示し,その後の問題解決へつなげていかなくてはならない状況で,利活用していくことが大切だと考えます。
 また,今後は,生徒自身に電子黒板を操作させ,帰納,類推の思考場面での試行錯誤や演繹的な説明場面を組織し,数学的活動を深化させることへの活用を考えて行く必要があると考えます。

※尚,本稿は第92回全国算数・数学教育研究(新潟)大会における発表論文を加筆・修正したものです。