授業実践記録
生徒の入試数学力UPへの取り組み
(愛知)中京大学附属中京高等学校
木下金助
 
1.はじめに

 難関大学入試合格に必要な数学力をどのように生徒に定着させるのか。これまでいろいろと考え,実践(深夜徹底学習会や難関大学入試問題解説等)し,そこで分かってきたことは単発的な講義や家庭学習を多くやらせるだけでは学力は思うように身につかないことです。そこで今回は次に述べるような取り組みをしてみました。1年間,実践してみて担任指導では感じられないような生徒との交流があり思いがけない人間関係が生まれました。拙い実践ですが紹介します。
 
2.「大学入試合格数学勉強会
 塾」について

 授業後の補習の多くは1週間に1回(1科目)程度行われます。生徒にとっては居残り学習の感覚になり,教える側にとってもあまり多くのことは期待できません。また出席率も悪くなります。そこで今回は毎日講義を行うことにしました。習慣化してしまえば体が自然と教室に向くと考えたからです。(講義はひたすら私が解説します。自習ではありません)
 講義開始時間は7時間目授業・補習終了後,4時30分より終了時間は6時40分です。月曜日から金曜日まで(ただし木曜日は会議日ですので20分のみ)実施します。行事日(例えば校外学習や体育祭・文化祭等)にも行事終了後,実施し定期考査前も考査中も行いました。また,会の名前も「塾(私の名前の一部をとりました)」とし,塾生として意識づけをさせ,さらに夏季休業中も毎日ではありません(生徒も学校の補習もありますので)が朝9時から午後4時まで6時間数学の問題を解き続けました。おそらく2年生の3月から3年生の1月のセンター試験前まで延べ全講義時間が400時間を越えると思います。

対象生徒 は私が1年生の担任でしたので2年生に対して3月に理系クラスの生徒に呼びかけました。(授業では教えた生徒はいませんでした)最終的には少し入れ替わりましたが8名の生徒が最後まで学習会に参加しました。

8名の進路先(全員が第一希望の大学ではありませんが)

 名古屋大学理学部 1名(女),静岡大学理学部 2名(男・女),
 名古屋市立大学看護 1名(女),帯広畜産大学 1名(女),
 信州大学理学部 1名(男),法政大学 1名(男),
 南山大学 1名(女)
の8名(8大学)。

どのような教材をどのように教えていたか。

(1) 3月中旬から9月中旬まで

「大学入試演習数学 I A II B」の問題集を解説・解答した。
全部で369題あります。
(各単元の前半は除いて後半の問題は全て解答した)

(2) 9月中旬から10月中旬まで

生徒の志望大学の入試問題を解説・解答する。
岩手大学,名古屋大学,東北大学,福井大学,信州大学,三重大学,愛知教育大学,愛知県立大学,防衛大学3ヵ年,名古屋工業大学,豊橋技術科学大学
の計11大学

(3) 10月中旬から11中旬まで

強化した単元。
積分の技法(数学 II から数学 III の範囲すべて),簡単な微分方程式,数列の漸化式全パターン,整数問題(格子点),最大値・最小値,不等式の証明 等々

(4) 11月中旬から12月末まで

全教科センター試験対策も実施した。
市販のテキストを使いテスト形式で行う。

問題集の指導例

[類 関西学院大] 2次の行列式を教える。

連立方程式 がただひとつの解を持つのは a ≠3 かつ a ≠□ のときである。

[福岡大] コーシー・シュワルツの不等式を教える。

2x y =2 を満たす正の実数 xy に対して の最小値とそのときの xy の値を求めよ。
応用例が多くある。

[神戸大] 三次関数の特性・等間隔性を教える。

a > 0 とする。関数 f (x)=| x3−3a2x | の −1≦ x ≦1 における最大値を M (a) とするとき
(1) M (a) をa を用いて表せ。
(2) M (a) を最小にするa の値を求めよ。
重要項目 変曲点も示す。

[工学院大] 面積公式を全て教える。

2つの放物線 C1y x2−5x+7,C2y x2+3x−1 の両方に接する直線を l とする。
(1) 直線 l の方程式を求めよ。
(2) 放物線 C1C2 と直線 l とで囲まれた図形の面積を求めよ。

[06 大分大] 外積について教える。三次の行列式を教える。

空間内に4点 A(0,0,0),B(2,1,1),C(−2,2,−4),D(1,2,−4) がある。
(1) ∠BAC = θとおくとき, cosθ の値と△ABC の面積を求めよ。
(2) の両方に垂直なベクトルを1つ求めよ。
(3) 点 D から,3点 A,B,C を含む平面に垂直な直線を引き,その交点を E とするとき,線分 DE の長さを求めよ。
(4) 四面体 ABCD の体積を求めよ。
三角形の面積の求め方にはいろいろな解法があることを示す。

(前期:教育学部) 問8 放物線と長方形の面積比について教える。

α>0,β>0とする。2つの曲線 y αx2x βy2 の交点のうち,原点でないほうを P とする。
(1) 2つの曲線によって囲まれる図形の面積を求めよ。
(2) (1) の面積が定数 k に等しいようにαβが変化するとき,点P の軌跡を図示せよ。
積分を使わないで求めることができるので有効な手段である。

 まだいろいろありますが紙面の制約で割愛します。

 
3.最後に

 8名の生徒の中で皆勤の生徒は1名いましたが,やはりよい結果を出しております。偏差値では5月の河合塾模試で48の生徒が11月の模試では68まで上げました(1名・全科目平均)。
 生徒の様子は毎日,授業後教室に集まり勉強することでどんどん意欲が湧き,お互いが励まし合うことによって連帯感も生まれました。数学に対してどんな問題にもチャレンジする意欲も生まれ,数学を解く楽しさも出てきました。特に受験前の焦燥感も出なかったのが幸いでした。講義中どの生徒もあくび一つ出さず,熱心に聞いてくれ,このまま「朝まで頑張れる」とか,答えの最終形に関しては「先生の解答が100パーセント正しい」と言い切る生徒も出てきました。
 現3年生も続けて実施しておりますが,この生徒たちは非常に強い絆が生まれてきております。教える側も教えがいがあり,負担になると感じたことはありませんでした。確かに教えすぎに疑問を抱くかもしれませんが生徒の学ぶ意欲には驚かされます。教師はもっと学習に対して高い要求を求めることも大事だと感じております。
 今後もできる限り続けて数学の面白さを伝えたいと思います。