授業実践記録
作図を利用した「平面図形」の指導について
岡山高等学校
久保光章
 
1.はじめに

 平面図形の授業の導入として,作図を用いた授業展開を紹介する。特に三角形の五心に関する理解を定着させることや,九点円・シムソンの定理などを紹介して数学に対する興味を持たせることは,図形への苦手意識の排除に効果的であると考える。また,中高一貫校では,中学1年の幾何の作図の授業に、指導可能な範囲で作図を用いて,後の高校での指導にリンクさせるのもよいと思われる。
 
2.展開

(1)三角形の五心・オイラー線

[1] 内心・傍心の作図
 三角形ABCを用意する。授業展開としては,一部の生徒に,鈍角三角形などで挑戦させてもよい。内心・傍心は,角の二等分線の作図のみで可能である。ただし、内接円・傍接円の作図に関しては、垂線の作図が必要である。傍接円は,3つの円の存在と,例えば,角Bと角Cの外角を用いた場合は,角Aの角の二等分線が傍心を通ることを確認する。

[2] 外心・重心・垂心の作図,オイラー線の確認
 1つの三角形ABCを用意する(やや大きめがよい)。外心は,外接円も描き,内接円との違いを強調しておく。重心は,3つの中線を2:1に内分していることを確認させる。さらに,外心O,重心G,垂心Hが一直線上にあり(この直線を「オイラー線」という),OG:GH=1:2であることを確認させる。証明は,ヒントを与えて,生徒の宿題などとしてもよい。

[3] その他の確認内容

ア. 正三角形の場合は,内心・外心・重心・垂心が一致する。
イ. 外心は,三角形の3辺の中点を結んでできる三角形の垂心と一致する。
ウ. 三角形ABCにおいて,角Aの二等分線と外接円の交点を A' とする。同様にB',C' をとる。三角形ABCの内心と三角形A'B'C' の垂心は一致する。

(2)シムソンの定理を作図で確認

シムソンの定理
三角形ABCの外接円の周上に点Pをとり,Pから,直線AB,BC,CAにひいた垂線の足をそれぞれD,E,Fとする。3点D,E,Fは一直線上にある。(この直線を「シムソン線」という)。

 点Pの位置は任意でよいので,生徒にそれぞれ好きな位置にPを取らせてよい。証明は,円周角の定理,円に内接する四角形の性質を利用する。(参考までに,シムソンの定理は逆も成り立つ。)

(3)九点円の作図

[1] 九点円の紹介
 三角形ABCの頂点A,B,Cからその対辺へおろした垂線の足を,それぞれD,E,Fとし,辺BC,CA,ABの中点をそれぞれL,M,Nとする。三角形ABCの垂心をHとし,線分AH,BH,CHの中点をそれぞれP,Q,Rとする。このとき,9点D,E,F,L,M,N,P,Q,Rは同一円周上にある。

[2] 九点円の作図
 作図には,中心が必要である。中心Kは線分PLの中点である(線分QMの中点,線分RNの中点でもよい)。そもそも作図自体が手作業ということもあり,きれいに九点を通る九点円ができる生徒は意外と少ない。

[3] その他の確認内容

ア. 九点円の中心Kは,三角形ABCの外心O,垂心Hの中点でもある。
イ. 九点円の中心Kは,オイラー線上にある。
ウ. OG:GK:KH=2:1:3である。(ア.イ.の内容から理解できる)
エ. 九点円は,三角形ABCの内接円と傍接円に接する。(フォイエルバッハの定理)

 
3.おわりに

 「体で覚えたことは忘れにくい」とよく言われますが,まさに作図とは,自分でその作業を行い,体で覚えるシステムである。特に,数学に苦手意識をもつ生徒が,九点円をうまく描けたときの表情は爽やかである。作図の指導が,因数分解や2次関数でつまずいた生徒に,図形の面白さを教え,数学の苦手意識を排除するきっかけになればと期待する。また,上記には載せなかったが,正五角形の作図から,黄金比・作図可能な正多角形などの話題への誘導も興味深い。