授業実践記録
予習形式の授業の実施
鹿児島県立加治木高等学校
小橋口 俊
 
1.はじめに

 本校の数学科では,全学年において予習形式の授業を行っている。前もって次の授業範囲を指示しておき,予習をさせてから授業に臨ませるのである。その目的としては,主に次の2つが挙げられる。

[1] 授業を効率的に進め,進度を確保するため。
[2] 生徒に自学自習の習慣を確立させるため。

 [1] に関しては,進度を早くすることで演習の時間を多くとることができる。教科書の例題レベルの問題は解くことができても,応用問題には手が出ない生徒も少なくない。演習をしっかり積んで,入試問題に対応した実力を養成するためである。
 また,数学の学習は,特に不得手な者にとっては,何から手をつけてよいかわからず敬遠しがちである。毎日予習をすることが学習法のひとつの指針となり,[2] の学習習慣の確立につながる。

 
2.学習のサイクル

 本校の数学の学習は,次のサイクルで行われる。

(1) 予習 → (2)授業 → (3)日々題・休日課題

 その他に,各単元終了時に行う確認考査(授業時間で実施)や,不定期に開設する特別講座(0限目・放課後)などがある。

(1) 予習
 前もって次の授業範囲を指示しておき,予習をさせる。予習内容は,[1] 教科書を読み込むこと  [2] 設問をノートに解いてくること。特に [2] の「問題を自分で解いてみること」を重視し,予習の段階で「どこまで理解できたか」「どこでつまずいたか」を明らかにしてから授業に臨むように指導している。

(2) 授業
 あらかじめ指示をしておき,休み時間のうちに生徒に授業範囲の設問の解答(予習で自分でつくった解答)を板書させておく。生徒の予習の結果が黒板に記されることになる。
 授業開始後5分程度で机間指導をしながら予習状況をチェックする。板書した生徒以外の予習での理解度を確認することが目的である。
 授業は,板書の解答を添削しながら,演習形式で行う。ここが教員にとっても生徒にとっても,勝負の時間となる。
 教員は,板書と予習チェックを活かし,そのときの生徒の実態に即して授業を行う。例えば,用語や定義の確認からしっかり授業しなければならないこともあるだろうし,反対に理解がよかった問題は簡単に済ませて応用的な内容に移れる場合もある。予習形式によって,より一層クラスの理解度に応じた授業を行うことができるのである。
 また,生徒は自分が予習でわからなかったところを意識しながら授業を受けるので,高い学習効果がある。さらに予習で理解ができたところは,授業を受けることが復習につながる。

(3) 日々題・休日課題
 基本的に毎日,日々題を課す。(週末は休日課題。)内容は授業で行っている単元の復習問題である。(できる限りその日の授業で扱った問題を,無理な場合もなるべく授業に即して出題する。)
 教員は日々題を添削することで,生徒の理解度・定着度を把握する。

 
3.指導における留意点

 指導の中で,次のような問題が起こりうるので注意が必要である。

(1) 予習過多による復習量の減少
 予習チェックなどの指導が入ることにより,予習にばかり力が入ってしまい,日々題など復習への取り組みが疎かになってしまう生徒がいる。「予習・授業・日々題」の1セットで学習が成り立っていることを指導していかねばならない。

(2) 数学が苦手な生徒へのフォロー
 授業のスピードが速くなるため,数学を苦手にしている生徒の中には「授業についていくのが精一杯」という者もいる。予習チェックと日々題添削をしっかり行い,そのような生徒を見逃さないようにしなければならない。
 フォローの仕方としては,声かけなどして個別に指導を行うほか,特別講座を開設して,基本事項の確認を行うこともある。

 
4.個人的に気をつけていること

(1)予習チェック
 その日の授業でどこに重点を置くかに関わるので,しっかり行うよう特に気をつけている。また,生徒がどのような宅習をし,どのようにノートをとっているのか把握することで,指導に役立てることができる。

(2)目標の提示
 「本時の目標」を始業時に掲げるようにしている。小学校などの授業では必ず「今日のめあて」として目標が提示されていると思うが,学年があがるにつれて軽視しがちではないだろうか。授業のスピードが速く,学習内容が多い高校だからこそ,教員が上手く到達目標を示してあげることが大切だと思う。さらに,生徒が予習でまとめた要点と教員が示した要点を比べてそこから学ぶことも,数学の勉強では大事なことではないだろうか。

 
5.まとめ

 予習形式の授業を行うことによって,第1項にあげた [1] [2] の目的は達することができた。その結果として演習時間を確保することができたし,学習のスタイルが確立することで生徒の自信にもつながったようである。特に,予習の段階における「自分の頭で考えて,解答をつくる」作業が,生徒の学習に対する姿勢に与える影響は大きいと考える。
 ただ,あくまでも最終目標は生徒が受験に向けた力をつけることである。そのためには,ただルーティンワークとしてこなすだけではなく,何よりも生徒自身が予習を活かして,授業の効果があがるよう指導に努めなければならない。