授業実践記録
極値が存在する3次関数のグラフのかき方
−5点プロット方式−
長野県立長野吉田高等学校
平塚和行
 
1.はじめに

 通常,「数学 II 」において,極値が存在する3次関数のグラフをかく際,まず増減表を作成し,極大値と極小値を明示しながら,増減表に基づいてグラフをかくことを指導している。ここでは,[1] 極大値 [2] 極小値 [3] 極大値と極小値の中点(変曲点) [4] y 座標が極大値と等しい点 [5] y 座標が極小値と等しい点 の5点を意識してグラフをかく,いわゆる「5点プロット方式」を用いたグラフのかき方を紹介する。
 この手法を用いるメリットとしては,以下の点が挙げられる。

(1) y 座標が極値と等しい点をかくことによって,より正確な3次関数のグラフをかくことができる。(例1)
(2) 以下の応用例題等に対応しやすい。
定義域 0≦ x ≦ a (a > 0) であるときの最大値・最小値問題,いわゆる「片扉」問題 (例2)
定義域 -a ≦x ≦ a (a > 0)であるときの最大値・最小値問題,いわゆる「両扉」問題 (例3)
(3) 変曲点を意識することによって,上に凸,下に凸が意識できる。
(4) グラフが変曲点で点対称であることを利用して問題解法に応用することができる。(例4)

 しかしながら,変曲点についての内容は,「数学 III 」の「曲線の凹凸の第2次導関数 f'' (x) 」の分野であり,文系にとっては履修範囲外であるため,導入については慎重でなければならない。またグラフ上で「 y 座標が極値と一致する点」の証明については,導入前に簡単に触れておく必要があると思われる。実践では,それらを簡単にまとめたプリントを配布し,冒頭で簡単に触れるに留めている。
 なお,y 座標が極値と一致する点については,最後に証明するが,極大値と極小値をとる点のx 座標の値の差を d =| β - α | とおくとき,x 座標上でそれぞれ変曲点から x 軸方向に ±d 離れた点となる。

 
2.展開1

例1 y = x3 - 3x + 1 のグラフをかけ。
 増減表は下の表である。

x -1 1
f'' (x) + 0 - 0 +
f (x) 3 -1

[1] 極大値 (- 1,3)
[2] 極小値 (1,- 1)
[3] 極大値と極小値の中点 (0,1)
[4] y 座標が極大値と等しい点 (2,3)
[5] y 座標が極小値と等しい点 (- 2,- 1)

注1:

極小値を与える x = β = 1,極大値を与える x = α = - 1 とする。
d = β - α=1- (-1) = 2 ,さらに変曲点を与える
y 座標が極大値と等しい点を与える点の
y 座標が極小値と等しい点を与える点の

注2:

変曲点(x = 0)でグラフの凹凸が変わる。すなわち,x < 0で上に凸 x > 0で下に凸となる。また変曲点でグラフは点対称となる。

 
3.展開2

例2 y = x3 - 3x2 + 1 の 0≦ xa における最大値・最小値を求めよ。ただし a > 0 とする。
〔解〕増減表は下の表である。

x 0 2
f'' (x) + 0 - 0 +
f (x) 1 - 3

[1] 極大値 (0,1)
[2] 極小値 (2,- 3)
[3] 極大値と極小値の中点 (1,- 1)
[4] y 座標が極大値と等しい点 (3,1)
[5] y 座標が極小値と等しい点 ( - 1,- 3)

〔答〕

(i) 0 < a < 2 のとき,
最大値 f (0) = 1,最小値 f (a) = a3 - 3a2 + 1

(ii) 2 ≦ a < 3 のとき,
最大値 f (0) = 1,最小値 f (2) = - 3

(iii) a = 3 のとき,
最大値 f (0) = f (3) = 1,最小値 f (2) = - 3

(iv) a > 3 のとき,f (a) = a3 - 3a2 - 9 a
最大値 f (a) = a3 - 3a2 + 1,最小値 f (2) = - 3

注: このように,極大値と等しい y の値となる x の値を求めなくても済む。
 
4.展開3

例3 y = x3 - 3x2 - 9x の - a ≦ x ≦ a における最大値を求めよ。ただし,a > 0 とする。
〔解〕増減表は下の表である。 

x -1 3
f'' (x) + 0 - 0 +
f (x) 5 -27

[1] 極大値 (- 1,5)
[2] 極小値 (3,- 27)
[3] 極大値と極小値の中点 (1,- 11)
[4] y 座標が極大値と等しい点 (5,5)
[5] y 座標が極小値と等しい点 (- 3,- 27)

〔答〕

(i) 0 < a < 5 のとき,f (-a) = - a3 - 3a2 + 9a
(ii) 1 ≦ a < 5 のとき,f (-1) = 5
(iii) a = 5 のとき,f (-1) = f (5) = 5
(iv) a > 5 のとき, f (a) = a3 - 3a2 - 9a

注: 同様に,極大値と等しい y の値となる x の値を求めなくても済む。
 
5.展開4

例4 曲線 C : y = -x3 + 6x2 上の点(- 1,7)における接線を とする。この曲線 C 上の接線で,接線 と平行な接線 m の接点の座標を求めよ。

〔解1〕

y' = f' (x) = - 3x2 + 12x より
傾き= f' (-1) = - 3(-1)2 + 12(-1)
   = -15 

接線 m の接点の x 座標を a とすると
f' (a) = - 3a2 + 12a = -15

これを解いて,a = - 1,5
a ≠ - 1 より,a = 5
f (5) = - 53 + 6・52 = 25 よって求める接点は(5,25)である。

〔解2〕増減表は下の表である 

x -1 4
f'' (x) + 0 - 0 +
f (x) 5 32

[1] 極大値 (4,32)
[2] 極小値 (0,0)
[3] 極大値と極小値の中点 (2,16)
[4] y 座標が極大値と等しい点 (- 2,32)
[5] y 座標が極小値と等しい点 (6,0)


y = f (x) のグラフは,変曲点(2,16)について対称であるから
求める点(pq)は,変曲点(2,16)に関して点(- 1,7)と対称だから

  より

 ∴ p = 5,q = 25
  よって求める接点は(5,25)

 
6.証明

y 座標が極値と等しくなる点の証明〕
 下のグラフで
  および
  を示す。

〔証〕a > 0 とする。
  f' (x) = a (x -α)(x -β) だから
  f' (x) = a {x2 - (α+β)x +αβ}

 ∴

      とおく。 ここで である。

 

 

 同様に

〔終〕

 
7.おわりに

 いわゆる「5点プロット方式」を授業で導入して以来,より正確な3次関数のグラフの指導が可能になった。しかしながら,特に文系の生徒についてはやや「天下り」的なテクニックの押し付けの感が拭い切れないことも事実である。この点についても,今後研究して行きたいと思う。また,この方式を用いた応用問題の例を,3題掲げさせていただいたが,まだまだ応用できる問題があると思われる。特に数多く存在する大学入試問題について解析し,その可能性の発見に努めて行きたい。

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