授業実践記録
立体模型で合成関数の最大・最小問題を解く
富山県立水橋高等学校
川西嘉之
 
1.はじめに

 いわゆる進学校に勤務して20数年になる。数 I や数 II の単元で、2次関数の応用問題として、関数の最大・最小問題(置き換えをすると2次関数に帰着できる問題)や点の軌跡の問題がある。
 代表的な例としては

  問題1. y = - x2 - 2ax - a +1 のとき、y の最大値の最小値を求める。
  問題2. y = x2+2ax+2a2 - a +1 のとき、y の最小値の最小値を求める。
  問題3. y = (2x)2 - 2x +1 の最小値を求める。
  問題4. y = sin2x - sinx +1 の最大値と最小値を求める。( ただし 0x <360 )
  問題5. x = - my = m2 + m +1 のとき、点( x , y )の軌跡を求めるなどである。

 これらの問題については、生徒は何回か練習することによってだんだん「解ける」ようにはなるが、どの程度「わかっている」かは、疑問であると思われる。
 そこで、より深く「わかる」(ああ、そういうことだったのか!と納得する)ためには、変数が動くイメージを豊かにしたらよいのではないかと考え、後に示すような棒グラフによる立体模型を作って指導してきた。

 
2.入試問題の一般的な解法

 問題1の解答例としては「最大値をm (a)とすると y = - (x + a)2+ a2 - a +1 となり、x = - a のとき y の最大値 m (a)=a2 - a +1 となる。ここで、この m (a) は a の関数なので、 と変形でき、 のとき、最小値 をとる」と論理的に「解ける」。

 ここでは、生徒の中では、文字 x は変数、文字 a は係数として区別して捉えられているとしよう(ここもずいぶんあやしい生徒が多いと思われるのだが)。
 そこで、 m (a)=a2 - a +1 となった後、この文字 a が動く(変わる)ことが、生徒には求められる(つまり係数で固定されていた文字 a が変数となる)。ここで、求めている最大値は与式の頂点の y 座標の値であるが、実際の授業では上記の解答(文字 a による変形)で済まされ、いくつかの a の値を入れたグラフがかかれないままで説明が終わることが多い。たとえグラフがかかれても xy 平面上に a の値を添えてかかれるだけである。このところをもう少し「ていねいに、しかも変数 a によるグラフなども含めて、全体も見えるものにできないか」と思い、次のような棒グラフを用いた立体模型を作り、指導してみた。

 
3.立体模型で考える

〈立体模型の作り方〉
 a =1のときの y の最大値を示す棒を立てる。同様に、いくつかの a の値に対して、y の最大値を示す棒を立てる。 

(ア)立体模型の構成
  

(イ)xy 平面
  
(ウ)ay 平面
   

 (ア)を、xy 平面を正面にして見ると(イ)で、a 軸が消えたように見えるグラフである。また、ay 平面を正面にして見ると(ウ)で、これが m (a)=a2 - a +1 のグラフになっている。

 問題2は略

 問題3については、数学のアイディアの1つとして「置き換え」があり、それを用いたものである。
 3の解答例としては、 t = 2x とおくと t > 0で  となり のとき y の最小値は 、このとき  より、x = -1と解ける。

〈立体模型の作り方〉
 xt 平面上で、曲線 t = 2x 上に y の値を表す棒を立てる。

 この2つのグラフをつないで、次のような立体模型で考えてみる。

(ア)全体
  
(イ)ty 平面
  
(ウ)xy 平面
  

  t = 2x は単調増加関数なので、最小となる x の値は1つしかないこともわかる。

 問題4の解答例としては、t = sinx とおくと 0x <360 より
 -1≦ t ≦1、 となり、-1≦ t ≦1より  のとき、最小値は 、このとき x =30 、150 。 また、t = -1 のとき最大値は 3 で、x = 270 と解ける。

 これも2つのグラフをつなぎ、立体模型で考えてみると

(ア)全体
 
(イ)ty 平面
 
(ウ)xy 平面
 

 本来は(ウ)の xy 平面から見るべきものを、(イ)の ty 平面から見て解いている。また、t = sinx は周期関数なので、t の値に対して x の値は複数あることもわかる。

 問題5は「図形と方程式」にある点の軌跡の問題である。解法のテクニックとしては「パラメーターの文字を消去」することで解けるのだが、「パラメーターの文字を消去する」とはどんなことかも考えてみる。

 x = - m より m = - x これを y = m2+ m +1 に代入すると、y = x2-x+1

 これで生徒はわかったことになるのだろうか。相当疑問である。生徒たちにわかっているのは、1つの m の値に対して xy の値が1つずつ定まるということである。

  つまり m = - 1 のとき x =1、y =3  m =0 のとき x =0、y =1

m =1 のとき x = - 1、y =1  m =2 のとき x = - 2、y =3

 ここで、m の値を連続して動かしたいとき、棒を多く立てればよく、mxy を含めた全体の様子(ア)が、よくわかる。xy 平面を正面から見ると(イ)のグラフになり、この棒グラフがまるで xy 平面に正射影されているように見える。実はこれが「パラメーターの文字を消去」したことになっているのである。

(ア)全体の様子
  
(イ)xy 平面
  

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