授業実践記録
宿題プリントと確認テストを用いた指導
−学習の正しい姿勢を身に付けさせる−
(福岡)福岡大学附属大濠高等学校
常安幸俊
 
1. はじめに

  宿題として、教科書や副教材の問題をノートに解かせたり、プリントを配布して提出させたりするということは教師の多くが行っていることであろう。また、その中には、提出前に生徒に自分で答え合わせをさせる場合も多いであろう。自分もそのような指導法をとることがあるが、その中で、次のような疑問を持った。
 まず、実態として、

[1] 生徒の中には、提出したプリントには丸が付いている問題が多いのに、その割にテストの成績はあまり良くないという者がいる。
[2] このような宿題を出したときに、「丸付けしてから出すんですよね」などと質問する生徒がいる。

 この実態から、次の様な疑問が生じた。
 まず、[2] について述べると、筆者は「丸付け」という言葉が気になる。教師が宿題を出す意図は、生徒たちに、できるだけ解答を見ずに自力で解いてもらい、もし正解できなければ、そのことを正直に宿題(提出物)に表現して、間違ったところを赤ペンで添削するなどの勉強をし、最終的には自力で解けるようにして欲しいということである。「丸付け」とは言っても、丸を付けるだけが目的ではないし(もちろん、丸が付けられる状態が望ましいのであるが)、生徒各人の実力や問題の難易度によって、実態として三角(△)やバツ(×)が付くことも当然あるはずである。しかし、生徒の中には、丸を付けることが目的であるかのように捉え、平常点稼ぎのために、あるいは、叱られないために、とりあえず解答を写して丸を付けて出す、という者もいるように思われる。それが良いことだとは思っていないであろうが、そういう行為をする者がいると思われる。筆者には「丸付け」という言葉に、そのように導く性質があるのではないかとも思える。
 次に、[1] に戻る。[2] について述べたことと関連があるが、[1] の実態から言えるのは、せっかく宿題をさせても、教師の意図通りに取り組んでいない生徒がいるということであろう。単なる「丸付け」でなく、添削するなどして、自力で解く力を付ければ [1] のようなことはもっと少ないはずである。

 以上のような実態と疑問から、筆者は次のようなことを考えた。第一に宿題の取り組み方の実態を把握し、第二に把握した実態をもとに宿題の取り組み方を指導し、第三に指導の前後で生徒の取り組み方がどのように変化したかを見る、ということである。具体的には以下で述べる。

 
2. 実態の把握

 前述のような観点から、生徒が課題に取り組む姿勢の実態について数値的に把握すべきだと思い、そのために次の方法を採用した。
 課題プリントを、問題と解答を同時に配布し、数日後にそれを提出させるとともに、提出日と同じ日に、プリントと同じ(あるいは同じような)問題で「確認テスト」を行なう。さらに、テストだけでなく、回収したプリントもテストと同様の採点基準で採点して、その得点を問題ごとに比較する。もし、きちんと学習して、課題で学力を付けていれば、

  (テストの得点)>(課題の得点) ・・・ [1]
  (テストの得点)=(課題の得点) ・・・ [2]

となることが多いはずである。(学力がもともと十分にあって、課題が自力解答で満点である場合は [1] は起こりえず、 [2] のみとなる)。もし、いい加減な取り組み方をしていれば、

  (テストの得点)<(課題の得点) ・・・ [3]

となることが多いはずだと考えられる。(ただし、例えばプリントを白紙で提出したような場合は課題の得点が0点だから、 [3] は起こりえない。)
 筆者は、特に上記 [3] 式を満たす問題の割合を生徒一人ひとりについて調べて、その百分率で各生徒の取り組みの状態を把握することにした。
 なお、この実践は前期・後期の2つに大きく分かれるが、そのうち、前期は実態を把握する期間である。したがって、このような比較をしていることを生徒に知られてはいけないので、プリントは返却せずに筆者の手元に保管した。また、取り組み方の指導は敢えて行わなかった。

 
3. 指導

 実践前期の最終回では、それまでと異なり、テストだけでなくプリントも同時に返却し、テストとプリントの得点比較について公表した。また、筆者が保管しておいた、前回までのプリントも合わせて返却した。このとき、テストの採点結果とプリントの採点結果を問題ごとに比較したものを個人成績表の形式で全員に配布した。その表には、 [1] 式、 [2] 式、 [3] 式のそれぞれを満たす問題が、全問題の中で占める割合、つまり占有率を示した。もちろん、 [3] 式を満たす問題の比率が高い生徒は、プリントに対する学習姿勢が悪いと考えられるのである。生徒には、そのような数値の意味や、このような比較を行う趣旨(各自で自分の学習姿勢を把握して反省して欲しいということ)などについて十分に説明し、さらに、アンケートを取った。アンケートの結果によれば、このような実践はおおむね好評であった。

 
4. 生徒の変化の確認

 実践の後期は、指導によって生徒がどのように変化したかを確認する期間である。したがって、後期でも前期と同様のデータを取り続けた。このようなデータを指導の前後で比較すれば、生徒の状態や変化を客観的につかむことができると考えたからである。
 指導によって、前に記した [3] 式を満たす問題の占有率が多くの生徒で低下することを期待していたのであるが、残念ながら、全体的には期待していたような傾向はあまり見られなかった。
 その理由はいくつか考えられるが、その1つは、前期は数学 III の極限を求めたり導関数を求めたりという計算問題が多かったが、後期に入ると「微分の応用」が主体で、計算だけでは済まない内容になったという、問題の性質の違いによるものである。(この実践を行ったのは、3年生の理系のクラスである)。他に、学校行事などの影響も考えられる。
 それでも、中には前期よりもプリントの提出状況が良くなった者もあり、指導によって生徒の課題プリントに取り組む姿勢が向上したと言える部分もある。
 なお、後期の最後にも、前期の最後と同様に、個人成績表を配布して、データを生徒に還元した。
 
5. まとめ

 今まで述べたような実践を行うに当たって大変であったのは、次の3つである。
 1つ目は、テストだけでなく課題プリントも採点したために、採点の量が増えたことである。
 2つ目は、採点結果を問題ごとに、しかもテストだけでなく課題プリントの結果までパソコンに入力しなければならなかったので、入力の手間が増えたことである。
 3つ目は、前期・後期それぞれ1回ずつではあるが、個人成績表を作成したことである。普段扱い慣れていないデータベースソフトを使うのに、特に1回目(つまり、前期の終わりのとき)には長時間を費やした。
 このように、テスト実施後の作業量が増えたために、答案を返却するのが遅くなり、生徒にとっては間延びして、かえって学習しづらくなるという悪い一面も出た。

 以上に述べた「実態の把握」、「指導」、「指導前後の比較」という3段階の作業は、他の指導にも使えるであろうし、また、その結果、生徒の一層の伸長や成長が確認できれば教師として喜ばしいことである。この取り組みが皆様のご参考になれば幸いである。