授業実践記録
基礎学力の定着を図る
静岡県立清水東高等学校
足立和則
 
1 はじめに

 学力低下が問題になり出してから久しいですが、新学習指導要領が実施されるに及び、ますますその傾向に拍車がかかってきたように思われます。小、中学校における学習内容の削減、授業時間の減少により、数学経験(訓練)のほとんどないまま生徒は高校数学に立ち向かうこととなり、そのギャップは生徒にとっても我々教師にとっても重くのしかかってきています。
 進学校と目され、それなりのレベルの生徒が集まってきているはずの本校でも、今までの指導方針では機能しなくなり、何らかの変革を余儀なくされる状況となってしまい、ここ数年、試行錯誤を繰り返しているのが現状です。行ってきたことがベストのものだとはとても言い切れませんが、3年間取り組んできた本校の試みについて紹介してみたいと思います。
 
2 従来の指導方法と問題点

 ほぼ全員が国立大学を志望しているため、達成目標を“入試に対処出来るレベル”において指導してきました。そのため教科書はあっさり流す程度にして、即問題演習に入るというのが授業パターンであり、1年の時から単元毎にその範囲の内容については標準的レベルの入試問題まで、出来るだけ多様な問題を扱うようにしてきました。3年では入試問題演習中心の授業を行いたいため、2年終了時点、遅くても3年1学期の半ばまでには教科書を終了させていました。以前ですと、この授業スピードと、演習レベルでも生徒は充分対処でき、本校の指導方法も上手く機能していたのですが、ここ数年来ついてこられない生徒が多くなり、1年次よりせっせと演習を行ってきたにもかかわらず、3年でいよいよ入試準備にかかったとき教科書の基本的内容すら頭に入っていない生徒もかなりな数でだしました。
 いくらいろいろな問題をやったところでひとつも身に付いていなければ意味がありません。入試準備を考えると授業進度を遅らすことには不安があります。となると、行う演習問題の多様性を犠牲にして基本となる問題の定着を図るほかありません。100の問題を教えてもほとんど身に付かないのなら、10の問題を10回繰り返した方が良いのではないか、そのような考えに指導方針を切り替えたのが、今の3年生が入学した年です。
 
3 指導方法

 では、具体的に何を行ったか。別にたいしたことではありません。「とにかく、繰り返す」。これのみです。今まで数学に馴染んでこなかった者にとって、新しい事柄を2,3回繰り返したところでなかなかマスター出来るものではありません。言語の習得と同じで、“習うより慣れろ”だと思います。機会を見つけては、繰り返すようにしました。
 教科書で一通りのことを教えた後は課題で復習。現在復習に利用している課題は下記のものです。

・「平常の課題」 その日の授業進度に対し教科書傍用問題集から毎回10題前後を課題とし、次回の授業で解答解説。日々の勉強のベースになる課題である。
・「補助プリント」 毎授業開始時に実施。1,2題程度を短時間でやらせ解答を配布しその場で生徒にチェックさせる。主に前日の授業で行った内容の復習。
・「演習プリント」 必要に応じて平常の課題にプラスして課す。授業進度に沿った内容で傍用問題集の量的、質的補充を目的とする。
・「1日1題」 期間限定で行う。期間は2週間〜1か月目安。1日につき1、2題を宿題とし翌日回収。採点して返却。そろそろ忘れてきたかな、と思われる頃に分野限定で復習させる。

・「週末課題」

毎週末プリント1,2枚分の課題を与え、週明けに確認テスト実施。合格しない者に対しては補習を行う。授業進度とは関係なく既習範囲からの復習としている。量的にも多く、メインとなる復習課題である。
 
4 実施結果と今後の課題

 同じ内容を繰り返すことは、基礎学力の定着という面から見れば確かに以前より効果が上がったと思います。特に1年では学習内容もそれ程多くはないため復習も比較的容易で効果が大きいと思います。ただ2年ともなると復習すべき範囲が累積されていき、復習するといってもなかなか大変です。生徒が忘れる前に何とか復習したいと思っても、あれもやりたいこれもやりたいで、結局のところ充分なだけのやり直しが出来たかというと自信はありません。また、出来る生徒、既に内容をマスターしてしまった生徒にとっては、いつまでも同じような問題ばかりやらされ効率が悪い面もあります。上位層を伸ばすという観点からは、今まで通り出来るだけいろいろな問題を経験させた方が良いでしょう。改善すべき点は多々ありますが、全体的に見れば以前の方法論より効果的であることは確かであり、当分、今のやり方をもとに試行錯誤していくつもりです。
 考えてみればこのような指導方法は、学力が低く数学指導が大変な高校で行われている方法だと思います。そうした方法が進学校で上手く機能してしまうところに今日の学力低下の問題の底深さを感じます。