授業実践記録
計算法の発達
長野県松本筑摩高等学校 通信制課程
橋爪正男
 
はじめに

2シリング硬貨
 通貨単位は10進法が大変便利であるが、かつてのイギリスでは、ミュージカル「マイ・フェア・レディー」にもあるように1ポンド=20シリング、1シリング=12ペンスで、20進法と12進法が入り交じった複雑なものだった。こんな中で、50£札で、13£14S9Pの買い物をした時のお釣りの計算はすぐ出てくるだろうか…。
 今日では計算をするときに、計算道具として電卓を用いることが多いが、もちろん簡単な計算は暗算でもでき、つい最近まで、そろばん(珠算)を使ってもいた。
 ここでは、算木による計算、中世西欧社会での計算、2進法による計算方法について紹介したい。  
 
1.算木による乗除の計算

 中国宋末、元初に発達した計算方法には天元術とよばれる、紙に碁盤目状の線を引いたものを用い、そのマス目に算木(竹や木で作った棒で、10cmから20cmぐらいの長さ、太さ3mm〜5mm)を何本か用いて計算する方法もあった。

(1)乗法 364×28 の計算
  (算木配置図)
これを、現代風に算用数字を用いて計算をする。


(上 被乗数)
(中 積)
(下 乗数)


3×2=6

3×8=24
8の上におく

乗数28を1桁下げる

6×2=12
12を2の上におく

6×8=48
48を8の上におく

乗数28を1桁下げる

4×2=8
8を2の上におく

4×8=32
32を8の上におく

(2)除法 10204÷28 の計算
   (算木配置図)数字0の部分には、算木をおかずに空けておく。
          


(上 商)
(中 被除数)
(下 除数)

1は2で割り切れないから1桁下げて除数28の最高位を被除数第2位の下におく

商3が立つ、3を2にかけて6、6を10から引く

3を8にかけて24、24を42から引く

除数28を1桁下げる

商6が立つ、6を2にかけて12、12を18から引く

6を8にかけて48、48を60から引く

除数28を1桁下げる

商4が立つ、4を2にかけて8、8を12から引く

4を8にかけて32、32を44から引いて12、これは余り
 
2.中世西欧社会での計算方法

 乗法計算に三角関数表を用いて計算をしていた時期もあった。たった1回だけの乗法計算のために、足し算と引き算を繰り返しすることの煩わしさ、また乗法はできても、除法には使えないことの不便さなどにより、この三角関数を用いた計算は、やがて対数計算に置き換わっていくことになった。
 例 5248×325

 三角関数の加法定理から導き出される、積を和に直す公式

  cos x cos y = { cos (x + y ) + cos (x - y )} を用いる。

 5248×325
  =0.5248×104×0.3250×103
  =0.5248×0.3250×107
  = cos x cos y ×107

とおくと、0.5248= cos x  x ≒1.018
     0.3250= cos y  y ≒1.240  だから
    x + y = 2.258    cos (x + y ) = -0.6344
    x - y = -0.222    cos (x - y ) =0.9755   となる。
   5248×325= cos x cos y ×107= { cos (x + y ) + cos (x - y )} ×107
        = { cos (2.258) + cos (-0.222)} ×107
        = { -0.6344 + 0.9755} ×107=0.1706×107
        =1706000

例 

    log = log 2.951-log 1.247≒0.4699-0.0958=0.3741=log 2.37

        よって 約2.37

 
3.2進法による計算

 2進法は、全ての桁の数を0と1を基にした数値で表現され、コンピュータでの演算に用いられる。この発想を利用して、35×18の計算を、次のようにすることができる。

 35の側は2で割り、余りは捨て商だけを下に書いていき、1になるまで書く。18の側は2をかけていく。そして左側の商が偶数になる行は消して、右側の残った数を合計すれば答えが得られる。
 これは

  35×18
  =(1×25+0×24+0×23+0×22+1×21+1×20)×18
  =(25+21+20)×18

を計算している。