授業実践記録
三角比の利用
〜正接を用いて校舎の高さを測ろう〜
東海大学付属仰星高等学校
鞆安孝郎
 
1.はじめに

 「三角比」の単元は、時間が進んでいくにつれ、公式の暗記とそれを利用した式の変形に終始してしまう傾向がある。授業では、三角比が考え出された背景を常に念頭において話を進めていく必要があると考える。ここで示す授業案は、三角比の有用性を実際の体験を通して理解してもらうことを目的にしたものである。
 
2.活動の要領

(1) 活動
簡易測定器(後述)を使い、さらにその計測値を利用し、計算によって建物の高さを算出する。その際、[1] 縮図を使うグループ [2] 三角比を使うグループに大きく分けておく。
(2) 準備するもの
分度器(できるだけ大きいもの;班に1つ)、糸、五円玉、ティッシュ、物差し、白紙、三角比の表、メジャー(20m)など
 
3.実際の活動例

(1) 事前準備
校舎(どんな建築物でもよい)から、5m、10m、15mのところに複数のポイント取っておく。(図1)


図1

 分度器に五円玉を結んだ糸をつけた簡易計測器(図3)を用意しておく。
(2) 計測
[1] 縮図利用グループ(5m、10m、15m)
簡易測定器により角度を測定 → 縮図を作成 → 縮図上での長さを計測 → 実際の高さに換算
[2] 三角比利用グループ(5m、10m、15m)
簡易測定器により角度を測定 → 三角比の表の正接を使って高さを算出。

  tanα=  より y = tanαx

  * いずれの測定も目の高さhを加えるのを忘れないようにする。


図2


分度器の90°とおもりのひもとで作る角は
90°ーα°
実際に見上げた角はやはり
90°ーα°
となるので、分度器の90°とおもりのひもとで作る角の大きさを読み取ればよい。

図3

(3) 結果と考察
 縮図を利用したグループに比べ、三角比を利用したグループの方が、早く 値を算出できる。縮図の有用性もさることながら、角度と対象物までの距離で高さを瞬時に算出できる三角比の有用性を実感できる。
(4) 余談と豆知識
 さて、先程は道具を使って測定をしたが、道具を全く持ち合わせていない 時に高さを測ることは可能だろうか? ティッシュを二等辺三角形に折って斜辺と建物の先端が一致するところに立つ。そうすると建物までの距離と建物の高さが等しいので、高さがわかる。建物までの距離は? これは歩幅で測る。自分の足のサイズは知っているので、おおよその歩幅は分かる。この方法は「塵劫記」(吉田光由;1627年)という我が国最初の算術書に登場している。(図4)


木の高さを「はなかみ」にてつもる事
「塵劫記」より

図4

 
4.おわりに

 数学は、日常とはかけ離れ、およそ生活とは無縁のものととられがちで、特に高等学校の数学に対してはその思いを持つ生徒も多い。「役に立たないから勉強しない」という姿勢に対しては、「役に立つことばかりしていては、人生つまらない。文化や学問の発展は役に立たないことへの探求によるところが多い。」という話をするが、「やはりこういうところで役に立っているぞ!」ということを示すことも大事であろう。授業に際しては、こんな場面で数学が使われているということをできるだけ話し、できる単元については、体験授業を取り入れるよう心がけている。実践例などがあれば、ご紹介いただけると幸いである。

(参考文献・引用文献)
・高等学校「数学 I 」  啓林館
・「塵劫記」  和算研究所