授業実践記録
数学 I ・指導上の工夫
−三角比の導入と定義−
茨城県立土浦湖北高等学校
荒井豊水
 
1.はじめに

 数学嫌いが増えていると言われているなか,必修である数学TAについては指導する上で苦労が多い。本校または前任校でも,かなりの生徒が数学に苦手意識を持っていた。
 特に三角比については,中学時代には全く触れていないので,生徒はますます敬遠する傾向にあった。この分野は,覚えることも多く苦手意識をもった生徒も多かったので,なんとか理解しやすい指導方法はないかと考えていた。今回書くのはその方法のひとつであり,先生方の意見を聞いてこれからも工夫を重ねたいと思っている。
 
2.指導例

[1] 三角比の導入と定義
 教科書における三角比の導入は,次のようなものである。
 相似な三角形 OPQ と Oにおいて, となる。
 したがって, t=とおくと, t が一定であるので,この t を正接という。

 
 もうすこしインパクトがあればと思い,次のような導入にした。

 次のような図で, の値を求めよ。

 
 この値 を角θの正接といい, tanθ= と書く。


 このように説明すると,生徒も印象が強いようであった。

[2] 定義と基本的問題の解法
 教科書での三角比の定義は次のようなものである。

 , または,

 これが生徒には分かりにくい。
 特に の型で覚えてしまうと,後で学ぶ一般的な三角形ABCにおいてもこの定義を使う生徒が出てくる。したがって,余弦定理などで混乱がする生徒がいる。
 そこで,次のような定義にした。

   θ → x → 直角 → yr

 あわせて,辺の順番を覚えさせるのが重要である。

 この定義を利用すると,基本問題の解法は次のようになる。

 問題 I
 次の三角形において,2つの角α,βの三角比を求めよ。

解)
 角αの三角比については,次の順で辺を定める。
  α → x → 直角 → yr
   よって,

 他の三角比についても同様に求める。

 角βの三角比については,次の順で辺を定める。
  β → x → 直角 → y → r

   よって,

 他の三角比についても同様に求める。

 問題 II(三角比の相互関係)
  を満たす鋭角θの正弦と正接の値を求めよ。

解)
  より x=4,r=5
 三平方の定理より,x2y2r2
 これに代入計算して,y2=9
 y>0より,y=3
 よって,

 定義をしっかり覚えていれば,上記の問題も混乱することなく解ける。

 
3.最後に

 これまで書いてきたことは,もちろん新しいことでもなく,このような指導をしている先生もいるであろう。また,もっと工夫された指導方法を実践している先生方もいると思う。
 私自身,数学ができる喜びを生徒に教えてあげたいと,試行錯誤を繰り返している。そして,優れた指導方法をいろいろと知りたいと考えている。今回は先生方の意見をいろいろ聞かせていただき,そのような指導法を知るきっかけになればと思っている。
 テレビ番組の「伊東家の食卓」のような,『今まで大変だったことが,ちょっとした工夫で簡単にできるようになる』ことが,数学の授業の中にもあると思う。そういうことを,これからも勉強していきたいと思っている。