実践研究 生物
自分と環境の関わりを知り地域への発信者を目指す
大阪府立八尾高等学校
澄 川 冬 彦

1.はじめに

 本校は府立第三尋常中学校を前身とする,創立106年目を迎える生徒数960 名の共学校で,1995年に戦前の校舎の全面改築を終えました.これを機会に一昨年には「教育環境基本構想」を定め,全校的に(1)緑化環境(2)自然環境(3)生活環境の整備を進めることになりました.
 その後,現在までに「太陽光併用風力発電装置の設置」「野鳥を呼べる結実性樹木を含む千数百本の植樹」「花鉢・花壇の設置」「建物の緑被」「雨水再利用のための貯水槽の設置」「ゴミの分別」「ペットボトルの地域回収拠点」などの対策を実施し,新たな整備も検討中です.

2.特色ある生物実験

 本校の生物の教育課程は1年生で生物IBが必修,2年生で文理選択を行い,文型の生物選択者は2・3年生でさらにIBとIIを継続履修していきます.年度により多少の変動はありますが,平均して文型5 クラスのうち4クラスが生物選択者になります.
 この余裕のある文型の教育課程の特徴を生かして,2年生からはIBとIIを融合し,2年間トータルで生物体としての「自分を知る」ことができるように授業や実験を組んでいます.

(1)生きた生物を使う実験

 我々の頃とは違い,最近の都市部の子供は動物であれ植物であれ,身近で生物と接した経験が少なく,生物から与えられる感動といってももっぱらビデオ等の映像によるものが主体になっています.
 そこで,できる限り生きた生物から生徒が何かを得られるように次のような特色のある実験を組んでいます.
 [1]ムラサキウニの初期発生:長期間の飼育が可能になったので,生徒一人ひとりによるホールスライドガラス上での受精から,プルテウス幼生ないし六腕幼生までの初期発生を観察する.
 [2]事前指導を十分に行った上で,大型のウシガエルを使い,あえて生徒の前で頭部を切り落とし,脊髄反射や筋反射を供覧する.その後,数個体のカエルを用いて内蔵の解剖観察と組織観察までを班単位で行う.
 [3]また,生きてはいないがそれに近いものとして,ミートプラントから分けていただいたウシの眼球と脳の解剖観察を行う,等を各々2〜3時間ずつかけて実施し,どの実験も生徒の評価は非常に高くなっています.
 感想も,単なる驚きの表現以外に「たった数時間で様々な形に変化するエネルギーが卵だけでまかなわれているとは信じられない」「脳のないカエルがあんなにも激しく動き,一定の反応をするのを見て,生物の命を奪う実験の意味・重大さを改めて考えさせられた」「開腹状態で9時間も動き続け,拍動のたびに赤白赤白と常に変わる心臓を観察して得たものは非常に大きい」等,私達が襟を正して受け止めねばならない声も多くあります.



図1 「頭部・顔の形状と脳容量」の実習プリント例,
「生物アイデア授業」大阪府高等学校生物教育研究会編,1991年,改変

(2)「自分を知る」実験

 「細胞」「分裂」「遺伝」「物質交代」「生態」「進化・系統」と,基礎的学習を終えた生徒は,3年生になって「発生」から「神経・恒常性」へと「自分=ヒトの体」の仕組みを知る学習に入ります.ここではできる限り自身の体を利用した次のような実験を取り入れ,興味を持ちながらより深い生物学を理解させるよう努めています.
 [1]盲斑と近点測定,[2]回転覚の特徴,[3]自身の学習曲線,[4]錯視,[5]アルコールパッチテスト,[6]体の遺伝形質,[7]顔・頭部の形状と脳容量計測,等これらの実験も生徒からは高い評価を得ています.
 ここでも,「広顔・広鼻はちょっとつらいが,これから生きていく中で知っていてよかったと思うことがきっとたくさんあるだろう」「見かけと全然違う正確な顔の形,本当のことを目の当たりにできる実験は貴重」等,前向きな感想に出会います.

3.教育環境基本構想と生物授業

 前述しましたように,本校では一昨年教育環境基本構想を定め,さらに昨年末には新教育課程に向けた教育指針を定めました.その中の<教育環境>の項目中に次の記述があります.
 −「教育環境基本構想」に基づき,本校を「緑化・自然・生活環境の発信拠点として位置づけ、 地域や小中学校との交流を推進して「環境起点『八尾高校』」の拡充を目指す.−
 環境教育に生物学の正確な知識が不可欠であることは論をまちませんが,私達生物の教員もこの指針に基づく教科指導を工夫することとし,昨年より次のような実習を取り入れています.

    (1)2年生での生態学履修にあわせて,校内の樹木相を調査させ,本校の植生の特徴を理解させる.
    (2)「総合的な学習の時間」を利用して本校を訪れる小中学生の案内役に生徒を指名し,本校の植生や環境設備・取り組みなどを紹介する.

 「こんなにたくさんの種類の樹木があったとは驚いた」「はじめて学校の中を隅々まで歩いて,いろいろなことを知った」「小学校4年生に,『何でこんなに建物がいっぱいあるの?』とか風力発電装置の仕組みを聞かれて苦労した」等生徒にも好評な実習になりましたが,はじめたばかりの実習であるため失敗も多々あり,改良を重ねていく必要のある実習でもあります.
 また,本年度現在までに本校を訪れた小中学校は数校に上りますが,学年全体・クラス・クラブ等その単位も様々ですので,授業の一環としてどのように対応していくかということも課題の一つです.


写真1 校内樹木相の調査実習風景


写真2 地元小学生との交流風景

4.おわりに

 「自分を知る」ことをテーマに掲げた本校の生物授業にも工夫改良の余地は多くあると思います.とはいえ,その上にこの恵まれた教育環境を利用した環境学習や地域との交流を組み込んでいくことで,高等学校での「総合的な学習の時間」も視野に入れた,より幅の広い生物学習が展開できるようになるはずだと思います.
 そして,本校で生物学習を終えた生徒自身が将来,自然・環境・郷土に対する自己のあり方を考え,その「発信者」となる資質を養っていってくれればと思っています.

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