実践研究 生物
探究学習の効果的な展開を考える
“自作VTR教材”“探究学習素材映像集”の製作と活用
静岡県立長泉高等学校
小 林 設 郎

1.研究の背景

 現行の高等学校理科学習指導要領では,探究学習の重要性が指摘されている.しかし,教科書に掲載されている探究学習の項目は従来の教科書の実験項目が改良されて載せられているものが多く,次のような点で改善が求められる.
 ◆探究学習のテーマに,従来の実験テーマを改良して利用しているため,結果が簡単に予想されてしまう.創造性の育まれるテーマが望まれる.◆探究内容が,教科書の指導内容と深い関係をもつ過去の有名な研究の再試行的なものが多い.生徒側の興味,意欲を得られるものにしたい.◆テーマを身近なものにしようとする意図はわかるが,もう少し探究過程に工夫・アイデアを取り込めるものにしたい.◆実験の準備から始めるものが多いので,授業時間内でデータの分析,考察を中心に学習できるものにしたい.

2.研究の目的

 上記のような探究学習の改善をすすめるために,

    1探究学習テーマの考察,
    2探究学習を支援するための自作視聴覚教材の製作と活用,
    3効果的な指導展開の工夫,

以上の点に着目して研究を行った.

◇目的1:授業で多くの時間を,探究学習に費やすことが難しいので,“研究的な実習を生徒が放課後や休日の時間を使って行えるようなシステム”を考えた.
そのための方法として,生徒と行った実験の記録をビデオテープに録画し,それをダビングして生徒に与え,その映像を研究対象とする展開方法を考案した.
ここでは,単なる録画映像では,観察や分析を行いにくいので,映像に様々な処理,加工を行い,生徒が分析しやすくなるような配慮をした.
具体的には,

    [1]「タイムラプス機能(間欠コマ撮り)の利用」
    [2]「ハイスピードシャッターによる撮影とスロー再生映像の提示」
    [3]「1/30秒単位の時間のスーパーインポーズ」
    [4]「ノイズレス早送り」

などの撮影,再生技術を利用した.また,生徒の家庭でのVHSビデオデッキの普及率が100%であることも考慮した.

◇目的2:探究テーマの設定については,考案したテーマを,授業での応用に際して,事前に生物部の研究として扱った.そして,その研究過程をVTRで教材化したものを利用し探究学習の模範例として生徒に提示した.

3.探究学習の展開例

(1)実施規模
◆対象:3年生物U(理系生物2単位)女子26名◆実施期間:平成9年9月〜11月
(2)授業における展開内容
◇第1段階
:探究模範例として自作視聴覚教材ビデオ『プラナリアの再生』,『動く植物〜屈光性の不思議〜』を見せ,その内容について簡単に説明を加える.そして,生徒に「その研究の過程で見られる工夫・アイデアと思われる点」をレポートとして提出させる.
留意点:特に作品の着眼点,目的,実験方法,分析方法,結果,結論,考察の方法,自分が感じた点などをレポートとしてまとめさせる.
〜提示教材の内容の概略〜
☆『プラナリアの再生』(14分)の内容:プラナリアについて様々な切断を行い,その再生過程を紹介し,探究内容としてプラナリアが先天的に持つ負の走光性と頭部の再生過程を関連づけた.

→映像の一部 注)このファイルはWMV形式で保存されています。再生にはWindows Media Player等のソフトウェアが必要です。再生がうまくいかない場合は、リンクを右クリックし、インターネットエクスプローラの場合は「対象をファイルに保存」を、ネットスケープの場合は「リンクを名前を付けて保存」をクリックし、ダウンロード後お試し下さい


写真1 教材「プラナリアの再生」

☆『動く植物〜屈光性の不思議〜』(14分):屈光性を顕著に示すヒマワリを材料として見つけだし,その屈光性の様子を示すとともに,屈光性に影響を与える条件の割り出しや,茎の屈曲の分析方法の考案を探究的に扱った.

→映像の一部 注)このファイルはWMV形式で保存されています。再生にはWindows Media Player等のソフトウェアが必要です。再生がうまくいかない場合は、リンクを右クリックし、インターネットエクスプローラの場合は「対象をファイルに保存」を、ネットスケープの場合は「リンクを名前を付けて保存」をクリックし、ダウンロード後お試し下さい


写真2 教材「動く植物」

◇第2段階:生徒と共に,実験する.生徒の目の前で魚を大きなたらいで泳がせ,観察させる.さらに,静止した水,流水中の魚の姿を生徒に観察させる.また,それらの現象をビデオで記録する.
◇第3段階:生徒にあらかじめ編集しておいた

    [1]「魚の群れ行動」
    [2]「魚の泳ぎ方」
    [3]「ヒマワリの屈地性」

の素材映像(全部で23分位)を見せる.
その上で,生徒に素材映像をダビングしたテープを貸し与える.そして,その映像を元に,

    [1] 興味を引いた箇所,
    [2] 素材映像の中で研究対象にしたいところ,
    [3] 自分なりの分析方法の工夫点,

を考えさせレポートで提出させる.(3日後に提出).
◇第4段階:探究活動の前に各自の研究計画を簡単に(一人2分位)発表させる.
留意点:ここで生徒は他の人の着眼や工夫点を知り,自己の考えを改良する.
◇第5段階:2週間の探究期間を用意し,その中で生徒は放課後や家庭での時間を使い,自主的な研究活動を行う.その結果は,B4用紙1枚にまとめさせ提出させるとともに全員分を印刷し授業において一人5分間で発表させた.

4.授業における教育上の成果

 探究学習後の生徒のアンケートから,利用した自作教材や素材映像が,生徒に大きな学習上の興味をいだかせたことを確信した.特に,驚いたことは,当初は“実際に実験を行わせるよりも,実験のデータをビデオ映像として与え,それを分析させた方が時間的に,より効率の良い探究学習になる”と考えていたが,生徒が素材映像を分析し始めたころから,“実際に生物を使った実験をしてみたい”という要望が出てきたことだ.そこで,金魚やメダカを多数買って来て自由に利用させたところ,昼休みや放課後自分たちでいろいろな実験を始めた.ここで行われた実験は,教師が事前に提示した基本的な実験を踏まえた後の,生徒自らの工夫を凝らしたものが多く,筆者が見ていても楽しいものだった.
 さらに驚いたことは,実験をする者が現れると,連鎖的にその数が増えていったことだ.これはまるで“実験をしないと損だ”というような雰囲気であった.後から実験を始めた者は,前者の実験の内容を見ているので,さらに工夫を凝らした実験を試みる傾向が見られた.
(本研究の詳細は,日本生物教育会編『生物研究』1999, vol38, No.1を参照されたい.また,ビデオ教材や素材映像は希望があればダビングして配布している.)

素材映像「ヒマワリの屈地性の過程」
素材映像「静止水,流水中のメダカ」
素材映像「1/15秒間隔のメダカの動き」
注)これらのファイルはWMV形式で保存されています。再生にはWindows Media Player等のソフトウェアが必要です。再生がうまくいかない場合は、リンクを右クリックし、インターネットエクスプローラの場合は「対象をファイルに保存」を、ネットスケープの場合は「リンクを名前を付けて保存」をクリックし、ダウンロード後お試し下さい

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