実践研究 生物
身近にあるヒントでオリジナル実験
神奈川県立足柄高等学校
池 田 博 明

はじめに

 1999年度の一年間に,私は神奈川県立山北高校で,2年生の『生物IB』(4単位)と3年生の『生物IB・U』(5単位),『理科実験』(2単位)を合わせて,約百テーマの生物実験を行った.実験レポートには必ず感想を書き加えてもらい,生徒の関心度を把握した.実験内容は私のホームページで簡単に紹介している.
 生徒にもっとも好評だった実験は「ウニの人工受精と発生」(2年生,総計3時間)であった.材料はバフンウニで,「ウニの観察と採卵・採精,人工受精」で1時間,「卵割と遊泳胞胚の観察」で1時間,「原腸胚とプルテウス幼生の観察」で1時間.卵割(2細胞・4細胞・8細胞をホルマリン固定)以外はすべて時計皿で生きた状態を観察させ,スケッチさせた.工夫としては受精卵を冷蔵庫に入れて発生を遅く調整したことで,生きた原腸胚を室温で発生させたプルテウスと同時に観察させることができた.生きた生物にまさる教材は無い.生徒の感想は「ウニをじっくり見たのが良かった」「感動した」「最高に面白い実験だった」というものだった.実験室で,生徒が身を乗り出してくるのが分かるほど,好評であった.
 3年生の1学期末には実験の人気投票を行った.第1位は「ウミホタルの発光」,第2位は「味覚(甘味)の閾値を探る・ギムネマ茶の効果」であった.2学期には「ピーターコーンの遺伝」や「イカの解剖」「エビの解剖」など,後片付けで材料を食べてしまう実験が好評だった.3年生に評価の高い実験は,2年時に実施した実験(2年時には12テーマを実施している)のやり直しのもの(「原形質分離」「発酵」「ペークロ」等),動く生物を用いたもの(「ハエトリグモの行動」「プラナリアの再生」),自分の体に関連したり(「血液」「腎臓」「眼球」),味わったりするもの,工作や手作業を伴うもの(「タンパク質の二次構造」「DNAの立体構造」)という特徴があった.また,実験前の意識作りをおろそかにすると,実験目的を把握できないため,取り組みが悪かった.
 私は素晴らしくてもコストのかかる実験を二,三種類やるよりも,たくさんの生き物観察をやった方がよいという考えなので,オリジナルな工夫をした実験は少ない.上記の実験もほとんど市販の実験書に出ているものだ.私がした工夫はキャベツや自分の握った手やオナモミの実をスケッチさせる場合に,進化という単元で扱うといった,見せ方を考える程度である.
 ただし,今回紹介する2種類の実験は,おそらく先例の無いものである.

1. 実験方法を立案する:大根おろしの酵素の研究を例にして

 課題の提示:次のような小学生の研究例がある.「大根おろしには消化酵素アミラーゼが含まれていてデンプンを分解する」「根の先の方はからい」「ヨウ素デンプン反応」.この3種の知識を得たある小学6年生は,仮説「大根の先と元では酵素の反応の強さが異なる」を立てて検証し,県の科学作文コンクールで賞を得た.この仮説を検証する方法を立案してみよう.立案した方法で実際に検証した後,実験の結果を考察し,自分の方法を改良しなさい.以上の過程をレポートして,提出しなさい.
 材料と用具:大根,包丁,シャーレ,ピンセット,デンプン,水,アルコールランプ,試験管,試験管立て,薬サジ,ろ紙,ビーカー,ガーゼ,おろし金,ヨウ素液
 結果:生徒は各自各様の方法で実験を工夫した.大根の切り方や,デンプンを粉のまま使用する者や溶かして使用する者,ヨウ素液の使い方や量など千差万別だった.通常,生徒実験は手順を教員が決めて指示することが多い.自分で最初から最後まで工夫するのは生徒にとって初めてだったので,新鮮な経験だったという意見があった.
 解説と評価:各自のレポートに朱を入れた後で,小学生の方法を解説した.
 小学生は次のように計画した.彼はヨウ素デンプン反応の紫色が消える速度が早いほど,酵素の反応が強いと考え,ヨウ素デンプン反応の色が消えるまでの時間を調べた.しかし,実際に試してみると,大根そのものを使ったのでは何秒で色が消えるかがわかりにくかった.そこで,大根をおろした後,ガーゼでろ過し,そのろ液を使用した.
 手順は大根の先の方と元の方で同量を切り出す,それぞれを大根おろしでおろす,ガーゼでこしてろ液を取る,ろ液を同じ量にする(先をA,元をBとする).デンプンをお湯で溶かし,いったん冷やす.これにヨウ素液を加えて紫色にする.紫色の液をAとBに同量入れ,色が消えるまでの時間を測定する.早く色が消えた方が酵素の反応が強いと判断した.
 ところで,大根のからさ(辛味成分はアリルイソチオシアネート)はアミラーゼとはまったく別の酵素の働きなので,アミラーゼの強さ弱さとは関係がないことが,現在では分かっている.

2.適応の例:ベルグマンの法則

目的:ベルグマンの法則(同種類の恒温動物では寒冷地のものほど体が大きい)の理由を考察する実験
用具:粘土,ばねばかり,方眼紙
手順:1)粘土で小グマを作る(形は自由),2)小グマの体長を2倍にした大グマも作る,3)小グマと大グマの体重をはかりで測定する,4)大グマ/小グマの体重比を出す.
考察:体重比が8前後ならクマは正確に2倍に作ることができている.その理由は縦・横・高さが2倍になれば体積は8倍になるからである.
結果:クマの形は自由なので,楽しくできる.生徒の作品は体重比が5前後が多かった.つまり大グマのサイズが2倍になっていないのであった.それでも2倍になったように錯覚してしまう.その意外さに気付かせることもねらいである.
手順:5)方眼紙で大グマと小グマを包んで体表面積を測定する,6)大グマ/小グマの体表面積比を出す,7)体表面積比と体重比を比べる.サイズが正しく作れなかった場合でも,体重比の方が大きいはずである.
考察:体重に応じて熱発生量が増え,体表面積に応じて熱放散量が増える.寒冷地では熱放散量が大きいので,体を大きくして熱発生量の割合を大きくしている.

おわりに

 取り上げ方次第で実験として生きるヒントは沢山あるだろう.例えば「空き缶とマキで御飯を炊く」とか,「燻製作り」といった食へのこだわりも十分生物実験となるだろうし,NHKのテレビ番組『ためしてガッテン』や仮説社の『ものづくりハンドブック』(1〜5)にも,多くのヒントがあるように思う.
 現在あまり開発されていない演示実験や投げ込み実験も,工夫していければよいと思う.

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