生物授業実践記録
手軽にできる顕微鏡観察の実習実践
−オオサンショウモ,アスパラガス,タケノコの利用−
和歌山県立日高高等学校
土永知子
 
はじめに

 生物の実験では,顕微鏡観察は欠かすことができない。細胞観察の材料として,手軽に入手できることから,教科書では動物の例としてヒトの口腔内上皮細胞,植物の例としてタマネギの鱗茎細胞が用いられることが多い。この2つの材料で基本的なことをおさえてから,もう少し何か扱いたいという場合にお薦めする材料として,シダ植物であるオオサンショウモと,単子葉類のアスパラガスやタケノコを紹介する。
 
1.オオサンショウモの毛の観察

 サンショウモやオオサンショウモは水の表面に浮き草のように広がる水生シダ植物である。在来のサンショウモ(絶滅危惧種)は本州の北から南まで自生し,山間地の水田や湿地,池など富栄養化のすすんだ水域で水面一面に群生しているのを見かけることがある。サンショウモに対して,オオサンショウモは,熱帯のシダで,かつては植物園の温室で栽培されている程度だったが,近頃は園芸品店や日曜大工店などで観賞用として売られているのを見かけることが多くなった(図1)。和歌山県南部では園芸品の逸脱が越冬し,大繁殖したこともある。この点で,実験使用後に逸脱させないように気をつけなければいけないが,寒い冬には枯れてしまうことが多いので,特定外来生物にはなっていない。

図1 オオサンショウモ 図2 葉の表面に水を弾く毛がある

準備

 オオサンショウモ,光学顕微鏡(低倍率),スライドガラス,ピンセット,
 カミソリ(あれば実体顕微鏡,ルーペ)

実習の概要

[1] 低倍率で葉の表面の毛の観察
オオサンショウモの葉を一枚取り,スライドガラスの上にのせる。
対物レンズは4倍か10倍のものを使い,少しずつピントをずらして葉の表面の毛を観察する。この時に,カバーガラスをかけない。
スケッチをし,葉の表面の毛がどのように成長するかを考えてレポートをまとめる。

実習のようす
 ルーペでも毛があるのは観察できるが,顕微鏡では容易に,低倍率で思いがけない形の細胞を見ることができ,美しいので,生徒は興味を持って取り組めた。もちろん,実体顕微鏡を用いて反射光で観察しても良い。
 スケッチの指導として,大きく書く,実線で書く,視野を囲むための枠は書かない,倍率を入れる,接眼ミクロメーターを使って細胞の大きさを測定する等の指導ができる。
 倍率が低いので,立体的に観察でき,調節ねじを回転させることによって焦点深度について具体的に学ぶことができる(図3,4,5)。

図3 毛の上に焦点をあわせる 図4 少し下に焦点をずらす 図5 葉に焦点をあわせた

 葉の毛の形は,台所用品の泡立て器のようである。
 葉の端から中央にかけて,様々な形態の多細胞の毛が見られるので,その成長の仕方について考察させて,レポートを作成させた。オオサンショウモが浮くのはなぜか,葉が水を弾くのはなぜか,根の形態や,葉の表と裏の毛を見て考察することもできる。教科書に答えがのっていないので,自分で考えをまとめるというレポート作成の体験を行うことができた。

さらに発展的な扱い
 オオサンショウモはシダ植物であるので,根,茎,葉の区別があり,胞子で繁殖を行う。よって,茎を輪切りにしてカバーガラスをかけて観察するとU字型の維管束を見ることができる(図6)。葉を薄くスライスすると葉脈の維管束を見ることもできる。水中の根のようなものは,水中葉として葉が変形したものと考える研究者もあるので,維管束の様子を詳しく観察すると発展的な学習になる。茎切片の観察中,プレパラート毛のなかに潜んでいたゾウリムシ,ワムシ,センチュウなどが時々あらわれるので,楽しい観察になる。


図6 茎の断面(維管束が見える)

 春から秋にかけて,水中に胞子嚢がついている様子を観察できる(図7)ので,そのスケッチや断面の観察で胞子を見ることもできる。
 ある歌に「花の咲かない浮き草の・・・」という歌詞があるが,本来の「ウキクサ」とは,生態分野で個体群増殖を観察する材料として扱われている高等植物で,夏に小さな花をつける。サンショウモやオオサンショウモは歌詞のとおり「花の咲かない浮き草」である。夏には胞子から前葉体が発生し,その後本葉が出る様子も観察できる。


図7 胞子嚢群

参考文献
 角野康郎.1994.日本水草図鑑p.12.文一総合出版.
 白岩卓巳.2000.絶滅危惧植物水生シダは生きる.p.35-p.36

 
2.アスパラガスやタケノコを使った組織の観察

 植物組織の維管束の観察は,時間の関係で1学期中にゆっくりとはできないことが多いが,アスパラガスやタケノコはいつでも手軽にスーパーマーケットで購入できるので,学期末などの時間調整の時にでも簡単に行える。

アスパラガス
 アスパラガスは年中出回るようになり,どこでも簡単に入手できる。茎が柔らかいので,カミソリで簡単にスライスできる。そのままスライスしたものを水に浮かべ,スライドガラスにのせ,染色して観察すると維管束が散在している様子が観察できる。アスパラガスはユリ科で,単子葉類に分類されている。

タケノコ
 同じく,スーパーマーケットではタケ(イネ科)の仲間であるモウソウチク,マダケ,ハチク,ネマガリダケなどが,水煮で売られていることが多い。これらを1cm角くらいに切り,それをカミソリで手前に引いて輪切りと縦切りで薄くスライスして水に放ち,染色して観察すると,道管にらせん紋があるのを簡単に見ることができる。タケは肥大成長することなく伸長するので,タケとタケノコの維管束の密度を比較することによってその成長を考察することもできる。わざわざ水煮を買わなくても,春に出まわるタケノコを水で煮て,酢かアルコールを加えて空きビンに入れ,冷蔵庫で保存しておけば,一年中いつでも使うことができる。

参考文献
 柴田昌三.2010.月刊たくさんのふしぎ 木?それとも草?竹は竹.福音館書店.10月号,通巻307号.