生物授業実践記録
文系大学の附属高校で行われている
生物実験について
(東京)専修大学附属高等学校
平木小百合・古澤輝由
 
1.はじめに

 本校は、文系大学の附属高校のため、9割の生徒は受験をせずに、内部推薦で大学へ進学してしまいます。1学年400名程度の生徒(10クラス)がおりますが、他大学受験は1割程度で、かつ、理系へ進むのは、ごくわずかな状態です。したがって、他大学進学クラスはありません。このような状況で、いかに生物に興味を持たせ、残り少ない理系進学希望者が受験に対応できるように授業を進めていくことが困難な中、どのような授業展開をしているのかをご紹介したいと思います。各学校により抱えている状況は様々だと思いますので、参考になれば幸いです。
 
2.年間授業計画

生物 I の年間予定
1学期 
第1部 細胞の構造と働き(真核生物、原核生物)
細胞の機能(膜の性質、選択透過性、細胞と酵素)
実験:顕微鏡の使い方(オオカナダモ)、ミクロメーターの使い方
生物体の構造(動物、植物の組織)

1学期中間試験
第2部 細胞の増殖と分化(体細胞分裂、減数分裂)
実験:体細胞分裂の過程観察(タマネギ)
生殖(有性生殖、無性生殖、減数分裂、被子植物の生殖、動物の配偶子形成)
発生の過程(ウニ、カエルの発生)
発生の仕組み(形成体)
実験:ウニの発生(夏休みに実験)

1学期期末試験
2学期 
第3部 遺伝の法則(メンデルの遺伝、さまざまな遺伝)
遺伝子と染色体(性染色体と性の決定、遺伝子の連鎖、組み換え)
実験:二遺伝子雑種に関する遺伝子の組み合わせ おはじきの実験
遺伝子の本体(遺伝子の本体、DNAの構造)

2学期中間試験
第4部 動物の受容と反応
刺激の受容と反応(神経細胞、興奮の発生と伝導、感覚器官 目、耳)
実験:盲斑の形と大きさまたは、目の解剖

2学期期末試験
3学期
神経系(神経系、中枢神経の働き)
実験:鶏頭の脳の解剖
第5部 体液とその恒常性
恒常性、心臓の仕組み、肝臓と腎臓の働き、ホルモンと自律神経による調節
 実験:腎臓、心臓、肺の解剖

学年末試験
冬休み中の補習 (他大学受験希望者のみ)
第6部 環境と植物反応、動物の反応と行動
(長期休み中に補習をすることで、教科書1冊を終えるようにし、生物 I で受験する生徒に対応しています。)

 附属高校であるためか、校風としてはものすごくのんびりとしていて、せっぱ詰まる雰囲気はほとんどありません。学校行事も多いため、授業数を確保するのも大変な中、10クラスが共通して実験できる内容を各学期に一度はできるように工夫をしました。ちなみに、化学・生物の理科室は1つしかない状態で、理科助手はおりません。

 
3.実験実施後の生徒の授業への取り組み変化について

 興味関心の高い生徒は、材料を揃えておくだけで、与えられた方法以外で、自分が疑問に思った点を解決するために、工夫を凝らしてくれます。が、最近本校に在学している生徒達は、受け身でいるタイプが非常に多くなり、どの教科においても積極的に取り組むことができないでいます。そこで、本校の理科(生物)では、実験をきっかけに、興味を引き出し、自ら授業に参加し、考察できるようにしていくことをモットーに、実験をすることにしています。

 生徒の取り組みの様子を感想文とともに紹介します。

[1] 体細胞分裂の過程観察
 体細胞分裂の過程は、紙面上で理解していても、やはり、実物を見ると理解度が高まります。教科書の写真よりも、苦労して、顕微鏡下で細胞を観察できた方が、生徒達も教科書と一緒だと納得してくれます。しかし、最近は、体細胞分裂の過程が見られるプレパラートを用意していても、顕微鏡下で探し出す根気が続かず、すぐにあきらめてしまう傾向にあります。そこで、どのプレパラートからも必ず間期以外の細胞が見つかることを示すために、各班の顕微鏡1台だけ、教員が分裂期が見られる箇所を探してあげる、または、パソコン画面(図1、2)に表示してあげると、残りの班員達も自分の顕微鏡でもう一度、一所懸命に探し始めます。ただ、やっと要領を得た頃に、時間がきてしまうので、実物を見られたという達成感だけの実験になってしまいます。その後は、各分裂期の時間経過の推測をするために模擬データー(視野の中に見える各期の細胞数を集計した表、または、顕微鏡写真)を与え、全体の細胞数に対する各期の細胞数の割合を求め、各期の実際の時間を推定し、レポート提出をさせています。

図1 図2

生徒感想(一例)
顕微鏡で観察したときに、いろんな分裂過程の様子がわかり、自分の目で実際の形を見て、本当にどんどん変化して分裂していくという感じがわかりました。
細胞はすごく小さいけど、一つ一つちゃんとした形で役目を果たすのだと思いました。
実験中はとにかく間期以外の状態の細胞を探すことに一所懸命だった。観察では、表皮細胞の部分まで見られ、成長点の細胞と比較すると、細胞の大きさに明らかな違いがあった。
表皮細胞は観察からもわかるように、もう分裂を終えて、分裂を行わない、つまり、老化した細胞である。そして、細胞質は細胞の老化、分裂回数に比例し大きくなっていくのではないかという推察にたどり着く。

[2] 二遺伝子雑種に関する遺伝子の組み合わせ
 メンデルの遺伝の法則を理解するには、配偶子の持つ遺伝子の組み合わせについて理解をしていないと、受精の組み合わせ方もわからないものになってしまいます。そこで、遺伝子をビー玉に置き換えて、ゲーム感覚で、遺伝子の動きをシミュレーションしたところ、非常に効果的に学習することができました。

生徒感想(一例)
手や目を使って実験したことで、遺伝子の伝わり方をより分かりやすく理解できた。さすがに48回続けるのは大変だったけれど、最後に統計を見たとき、理論値と結果はほぼ同じで驚きました。
思っていたよりも理論値に近い数字が出て、実験は大成功だったと思う。親の形質を遺伝するだけでも、いくつかのパターンがあって、全く同じものや人はできないのだと改めて実感した。
今回の実験は思ったより時間がなく、48回全て実験する事ができなかった。数値も、27:9:9:3にあまり近づかず残念だった。しかし、クラスのデーターを全て集計し、調べてみると、だんだんと理論値に近づいていくことがよくわかった。この地道な作業を生涯を通してやり遂げ、法則を見つけたメンデルはすごい人だと思った。
今回この実験をやって思ったことは「実験は楽しい」という事です。今までは、実験をやっても理解できる所と、理解できない所がありました。でもこの実験をやって、自分が理解していることを分かってから、夢中で実験を続けてしまい、48回以上行ってしまいました。この実験をきっかけに、もっと他の実験でも理解を深めていきたいです。

[3] 目、腎臓、心臓、肺の解剖
 臓器の観察を通して、自分の体の仕組みについて理解してもらうことを目的として、解剖を行いました。
 中学時代に解剖を経験している生徒はごくわずかで、臓器の名称や位置関係について理解している生徒はほとんどいない状態です。肝臓と腎臓と心臓の違いが分からない生徒がいる程です。(文系大学の附属高校なので理科を得意としていない生徒が集まっていることもありますが・・・。)解剖経験がないためか、男女問わず、実験中に手が進まず、ただ見ているだけの状態の生徒が年々増えてきています。
 このような状況のため、できる限り、本物の臓器に接することを目的としました。

生徒感想(一例)
『解剖実験に際して、考えること』
 私が、思ったことは、動物など命をうばったり、傷つけたりすることは、正直、良くないことかもしれないけど、でも私達が生きる上で、また、人以外の動物同士でも、命を助けるためにも、進化するためにも絶対に必要なことだと思います。それが、必要以上に行われたり、おかしな事に使われたりすることも多いけれど、私達がせめてできることは、それが、命であると認識することだと思います。

『解剖実験を終えて、考えたこと』
 私は、解剖をすることはもっと気持ち悪くて、とても嫌な気持ちになるものかと思っていました。でも、先生の話を聞いたことや、友人同士でやったせいか、嫌な気持ちにも、気持ち悪くもなりませんでした。私は、それが、少し驚きでした。やっていることは自分が初めて行ったすごいことで、目にしているものも、生々しいものなのに、私はそれが、どういう役割をするものなのか、それが何なのか興味を少し持ちました。楽しいというわけではないけれど、友人同士で話したり、考えていることなどが、それが、あまり気持ち悪いものではなくさせた気がします。私はだからこそ、そのことが、その時のことだけということで、何にもなく終わらせてはいけないなと思いました。きっとそういうことをしてしまうと、どんどん解剖などが必要以上に行われることなどに増えてしまうのではないかと思いました。
 また、解剖をすることが、ただ気持ち悪いものだと思っていたことが、とても恥ずかしいことだなと思いました。そう思ってしまうと、他にも考えなくてはいけないことが分からなくなってしまうなと思いました。
 
4.終わりに

 文系大学の附属高校のため、理科全般に対して消極的ではあるが、実験を通して、少しずつ生物に興味を持ち、結果として高校2年後半に理系大学受験へ進路変更しても大丈夫なように授業は進めています。実際少数ですが、理系大学へ進学し(他大学進学実績は、本校のHPをご覧下さい。)成果を上げています。附属高校なので、受験勉強を意識せずに、実験中心の授業展開を考えてもみましたが、理科室が1つしかないことや、生徒数が多すぎることなど、物理的にできない要因が多々あるため、せめて、各学期に一度は全員が参加できる実験を試みようと思い実践してきました。結果としては、実験をした方が、定期テストの得点率が上がり、授業に対する取り組みも、向上してきました。今後は、もっと生き物が実感できる実験を試していきたいと考えているところです。

Eメール;hiraki@senshu-u-h.ed.jp