生物授業実践記録
偏斜照明法の使用による生物顕微鏡の改良について
奈良県立西の京高等学校
濱本昌文
 
1.はじめに

 最近の教科書や図版では、ウニやアメーバの写真撮影に、微分干渉顕微鏡がよく使用されています。長所は透明な資料でも染色せずに、しかも生きたまま観察できるところで、立体感もあります。短所は高価なことで、O社で1セット200〜300万円ぐらいします。照明法を工夫することで微分干渉顕微鏡に近い効果を得ることができましたので、ここに紹介します。
 
2.偏斜照明法とは

 通常の照明法(クリチカル照明法、ケーラー照明法)では顕微鏡の光軸と光源は平行ですが、わざと光軸をずらし、光をプレパラートの斜め下から入れることにより、立体感を出すとともに解像力を約2倍にすることができます。これが偏斜照明法と呼ばれる方法で、古いN社製の顕微鏡には、ステージの下に装着されていました。現在では、教師用の生物顕微鏡にも装着されていませんので、手作りすることになります。必要なのは光源、遮光装置、電源装置などです。
 
3.簡易型 I

 顕微鏡に光源装置が付属している場合は、その光源に遮光装置を取り付ければ完成です。アルミフォイルを二重にして、中心を外して直径5mmぐらいの穴を開け、光源に乗せれば完成です。過熱する危険がありますので、アルミフォイルをお勧めします。顕微鏡の光源の性能(明るさ)により、穴の位置や直径は加減してください。大変安価にできますが、穴の大きさを小さくしすぎると暗くなりすぎます。
簡易型 I の全景です。
簡易型 I 光源部を拡大しました。
 
4.簡易型U

 顕微鏡に光源装置がなく、ミラーが付属しており、取り外しが可能なら、光源装置を作りましょう。ダイソーという100円均一ショップに状差しがあります。紙を押さえる部分がプラスチックで、直径約5mmの穴が空いているタイプを購入し、その穴に、ゴム管に挿して光の幅を絞った高輝度のLED(白色)を挿して接着剤で固めます。電源につなげば完成です。支柱が長い場合は金ノコやペンチで短くしてください。LEDには、秋月電商から購入した「チャンピオン」という白色LED(100円ぐらい)を使用しています。10cdで定格3.7Vですので電圧降下を考えて電源は4.5Vの乾電池(単三×3)にしています。1年間に数時間使用するだけなら、単五の電池ホルダーにボタン電池を3個(セロテープで側面を巻いてから、3個1組にして挿入すると、楽に入ります)入れて状差し上に接着すると使いやすいです。1.5V電池白色LED投光キット(500円ぐらい〔秋月電商〕)を利用すると上記の状差し、接着剤だけで完成します。ただし、LEDの光軸を顕微鏡の光軸と一致させると、明るすぎるので、目を痛めるかも知れません。生徒実験の際には注意が必要です。調光装置をつけると安心ですが、単純にボリュームを直列に挿入すると、ボリュームが焼損することがあります。(実はいくつかのボリュームから雲の細くたなびきたる・・・にしてしまいました。)
ダイソーの状差しです。
製作途中です。調光装置付きなので6Vになっています。

 
5.少し高級な顕微鏡では

 日頃はO社のEC型を使用しています。3眼鏡筒ですので、顕微鏡写真(デジカメ〔アダプタは自作〕、銀塩〔アダプタはビクセン製〕)も撮影できます。デジカメはF社のM603だと本体からビデオ信号が出ているので、パソコンのビデオキャプチャーボードを経由してパソコンに取り込んだり、ビデオレコーダに取り込んだり、直接テレビに映すことができます。その際には、簡易型Tでは光量が足りませんし、簡易型Uでは光量調節ができませんので、調光装置が必要になります。光源装置は、フィルタ枠にフイルムケースのキャップがちょうど入りますので、キャップの中心に白色LEDを固定して使用しています。ただ、この光源装置は枠の上から乗せる構造ですので、ビデオケーブルを切断して配線材とし、切り口側にオスピンがくるように作成します。調光装置もオスピンで出し、中継器で接続します。(ビデオケーブル、中継器ともダイソーにあります。)電源にはACアダプタを使用し、可変三端子レギュレータで電圧を変えています。本当は電流を制御するべきですが、電流制御は大がかりになるので電圧制御にしています。100Ωは突入電流防止用のつもりです。なくてもいいかも知れませんが、おまじないみたいなものです。
 調整ですが、光の位置はフィルタ枠の出し入れで調整します。外側に出すほど立体感は出ますが、暗くなります。また、黄色がハローのように出てきます。これは使用した白色LEDの特徴で、青色LEDに黄色をたして白色にしているみたいです。光の幅は枠の上昇、下降で調節します。通常は最上部よりほんの少し下に置いて、微調整に使用しています。対物レンズ40倍で調節が完了した時、そのまま、対物レンズを10倍に切り替えると暗視野照明法になります。(対物レンズ40倍で暗視野照明法にするのは難しいです。)
 これで、かなり微分干渉顕微鏡に近くなりました。ケイソウのプレパラートを観察すると感動しますよ。口腔内の細胞も染色せずに、核の観察も可能ですし、普通のタマネギの原形質流動も観察できます。皆さんも是非お試し下さい。
照明装置です。
 非常に明るいです。
通常の照明法 クチビルケイソウ 600倍
偏斜照明法 クチビルケイソウ 600倍
(立体感が出ています。)
電源装置 黒いボリュームで光量を調節します。