生物授業実践記録
滅菌を要しない手軽な微生物実験
愛媛県立松山南高等学校
中川和倫
 
1.はじめに

 微生物を利用した生徒実験は、酵母菌以外にはあまり行われていない。その理由として、高校に滅菌装置が不備であることが多くコンタミ(微生物汚染)を防げないこと、微生物実験に不慣れな教師が多いこと、有害微生物への感染の恐れなどがあげられる。本校では平成14年度のSSH指定以来、理数科1年生に発酵と分解者の働きを確認させる基礎実験を導入している。また、理数科2年生の課題研究のテーマに極限環境微生物を扱ってきた。極限環境微生物とは、高アルカリ性、高温、高塩分濃度など、通常の微生物が死滅するような特殊な環境で生育できる微生物である。
 滅菌を用いない微生物実験には大きく3つの方法がある。それは、@コンタミなど気にしない、A選択培地を用いる、B極限環境微生物を利用する、である。いずれも、使い捨てのプラスチックシャーレを用い、ビニールテープで密封したまま培養、観察を行うことによって、悪臭を遮断し、有害微生物による感染の危険性を防止する。
 
2.コンタミなんて気にしない
  〜分解者の働き〜

 土壌微生物による分解者の働きを観察する実験は、菌の種類や数が非常に多く、培養から観察までを短時間で終えることができるため、滅菌しなくても特に問題はない。培地の調製というと実験書の記述に沿って難しく考えがちだが、即席だしの素でもラーメンスープでも醤油を希釈しただけでも、養分さえあれば構わない。また、実験書の培地組成は19世紀に設定された医療用や食品用のものなので、土壌細菌にはそのままでは高濃度すぎるため、10〜50倍に希釈した方が培養に適している。寒天培地を調製する際には、スキムミルクや可溶性デンプンを1%程度加えておくと、プロテアーゼやアミラーゼによる分解作用も確認できる。方法は、土壌懸濁液を水で希釈して寒天培地に塗布し、37℃で1日培養して観察する。プロテアーゼが働けばコロニー周囲のミルク由来の白い培地が分解されて透明になり、アミラーゼが働けばコロニー周囲にヨウ素反応で反応しない透明帯ができる。透明帯の幅を測定すれば、酵素活性の程度も比較できる。
 
3.選択培地の利用
  〜大腸菌の検出〜

 デスオキシコレート培地は、その組成から大腸菌以外の細菌が生えないようになっている。このような培地を選択培地という。調製済みの培地として発売されているので、手軽に扱うことができる。大腸菌の採取は生活排水でもよいが安全性に不安があるので、家庭の風呂の残り湯を用いると危険が少なくてよい。試料水の採取には弁当用の醤油入れが簡便だが、検尿容器の余りを保健室でもらっておくと便利である。培地上に試料水を1滴たらして塗り広げ、37℃で1日培養する。1滴の体積を求め、生じたコロニー数から試料水1mlあたりの細菌数に換算する。
 
4.極限環境微生物の活用

 極限環境微生物は特殊な環境だけでなく、身近な環境にも存在する。通常の環境では増殖し難いだけである。極限環境の培地にすると通常の微生物の増殖が抑制され、極限環境微生物が増殖する。つまり、極限環境微生物の培養には滅菌の必要性がない。

(1) 好アルカリ性細菌の利用
 好アルカリ性細菌の培養には、普通培地に炭酸ナトリウムを1%加えてpH10にした培地を用いる。同じ土壌を用いた場合、中性培地にできるコロニー数に対してアルカリ性培地では数%の割合のコロニーしか生じないが、そのために土壌の希釈段階をあまり気にせずに実験することができる。また、2.の方法でアルカリ耐性酵素の測定もできる。ちなみにアルカリ耐性酵素は洗剤などに配合されている。

(2) 好熱性細菌の利用
 コンポストの土壌からは、60〜80℃で生育できる好熱性細菌が培養できる。普通培地を用い、高温で培養する。通常のインキュベータは50℃程度までしか設定できないため、乾熱滅菌器を低めの温度設定にしてインキュベータとして用いる。また、2.の方法で耐熱性酵素の測定もできる。ちなみに、耐熱性酵素はPCRなどに利用されている。

(3) 好塩性細菌の利用
 海水は貧栄養環境で微生物の密度も低いため、海水から好塩性細菌を直接培養することは難しい。塩化ナトリウム濃度を10%程度にした培地(栄養分は希釈した方がよい)に海岸土壌を加え、25℃で数日間培養する。身近に利用されている好塩性微生物(酵母・細菌)利用食品には、漬物、味噌・醤油があり、醸造食品からそれらの微生物を培養することもできる。また、自然食品店で岩塩や非加熱の天日塩を購入し、培地に飽和するまで溶解させて培養すると、試料の塩中に休眠していた高度好塩性古細菌や広域耐塩性細菌が増殖することがある。
 
5.おわりに

 この数年間、微生物を利用したさまざまな種類の生徒実験に取り組んできたが、生徒の反応はとてもよい。いずれも、滅菌等の事前準備を省略することによって手軽に取り組めるとともに、顕微鏡を使わず肉眼で見てわかりやすい結果が得られることに意味がある。現在は、低濃度のゾル状寒天を利用して細菌の化学走性を肉眼で観察できる実験を開発中である。今後も新しい微生物実験に挑戦していきたい。
土壌細菌のコロニー プロテアーゼ活性の測定
好熱性細菌のプロテアーゼの最適温度:2種