生物授業実践記録
DNAモデル
―1枚の紙で,短時間にDNAモデルを折りあげる―
東京都立青井高等学校
小泉重雄
 
1.はじめに

 DNAを理解するのにモデルが有効なことは,ワトソンとクリックのモデルからもあきらかなことである。しかし,生徒一人ひとりがモデルを持つことは難しい。いくつかの実践例はあるが,作製に時間がかかったり,その後に応用が効かなかったり,いくつか問題点がある。そこで,新しいタイプとして1枚の紙のみで短時間に作れ,その後の応用にも利用できるDNAモデルを考案した。
 
2.折り紙によるDNAモデル

(1)以下のような塩基・糖・リン酸が印刷してあるA4サイズのプリントを用意する。

DNAモデルプリント

[1] アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の塩基を四色に塗り分ける。
[2] 塩基の水素結合を着色しながら確認する。
[3] 糖・リン酸骨格の方向を確認しながら二本とも着色する。


塩基の水素結合


糖・リン酸骨格の方向性

(2)作製方法のプリントに沿って折っていく。

DNAモデルの作製方法

(3)完成


(写真のモデルは2つをつなぎ合わせたもの)

 
3.応用例

(1)半保存的複製
 下図は複製中のDNAの様子を表したものであるが,複製はこの図の下の方から順に上の方へと進行中であることを示している。
 DNAの複製がはじまるときには,まず,二重らせんの内側の塩基対の水素結合が切れて,二重らせんがほどける。
 このときモデルの水素結合の部分をはさみで切っていくことで,図の様子を立体的に確認できる。
 ほどけたときに,一時的に相手を失った塩基が,すぐに新しい,しかもまったく同じ相手と結びつくため,できあがったDNAはもちろん,もとと同じ塩基配列をもっている。そして,同じ塩基配列ならば,遺伝子としての遺伝暗号も完全に写し取られている。


複製の様子(啓林館の教科書より)

(2)二重らせんの大きな溝と小さな溝の確認
 DNAの二重らせんには主溝・副溝と呼ばれる大きな溝と小さな溝があり,タンパク質が塩基配列を読み取るのは主溝の部分である。そして,必要な塩基配列を見つけ,DNAをほどき,m-RNAに転写するのである。このモデルでは,主溝の部分で塩基配列を見ることができる。

(3)ヒトゲノムの大きさのイメージ
 DNAの幅は1/50万mm,ヒトゲノムDNAの長さは1m。今回の大きさのDNAモデルは幅約6cm,すなわち60mmになる。よって,幅は3千万倍に拡大されたモデルである。すると,このモデルの太さでヒトゲノムの長さを考えると3万kmということになる。地球一周約4万kmであるから,いかにDNAが細長い物質であることがわかる。

 
4.参考文献

布施智子(1992)『らせんを折ろう』筑摩書房
桃谷好英(2001)『折り紙で広がる化学の世界』化学同人