生物授業実践記録
高校実験『原形質流動の観察』、中学実験『皮膚感覚の測定』の実践例
―中・高一貫カリキュラム、オリジナル実験書で「生命」を指導する―
学校法人平安学園     
平安高等学校 鈴木寛司
平安中学校 牧野正明
 
はじめに

 平安学園は、親鸞聖人のひらかれた浄土真宗本願寺派(西本願寺)の設立した学園です。本学園の宗教的情操教育を柱とした教育の観点から、生物という教科の中でも『生命(いのち)を大切に』をテーマに掲げています。科学的な側面と情操的な側面から、自然全体の中での生命の連続性、生命のあり方、生命の尊厳を学習することを目的としています。
 本学園では、30年以上の独自の蓄積と改訂を重ねたオリジナルの実験書を使いながら、生命はテキストだけでは学習できないという考え方と、「自ら考え、自ら行動する」ことを重視する観点から、実験主体のスタイル(年間約20種類)で授業を進めています。生徒は、実験での体験・経験を通じて「手で考える」ことや「協力と連携の大切さ」を学習することになります。また、その中で教科書にはない生物化学の内容や方法論についても学習できるよう配慮してあります。
 また、本学園では平安中学校〜平安高等学校の中・高六ヵ年を通じたカリキュラムにより、中学校の授業で生徒の理解度に応じて高校の内容まで踏み込んだり、意図的に中学と高校で同様の内容の実験授業を繰り返し配置したり、チームティーチングを取り入れたりする等、内容をフレキシブルに調節しながら授業を展開しています。
 今回はその中で、高校「生物T」の「細胞の構造」に関連した『原形質流動の観察』実験と、中学理科第2分野の「ヒトのからだ」で実施している『皮膚感覚の測定』の実験について紹介します。
 
高校実験『原形質流動の観察』の紹介
(鈴木 寛司)

本時の目標について
 生物Tの教科書では、オオカナダモの連続写真などを用いてはいますが、原形質流動を言葉として覚える状態にとどまるように思われます。しかし、実際にプレパラートを作製して観察すると、時には原形質流動が見られない場合も生じます。本実験は、生きたもの、変化するものに関心を向けさせる実験として設定しています。また、生徒一人ひとりの計測データを班データとしてまとめ、さらにクラスデータとしてその速度を計算させることで、簡単なデータ処理の方法も学びます。

準備について
 シャジクモ植物の培養
 スポイト、スライドガラス、カバーガラス、顕微鏡、ストップウオッチ

方法と順序
 シャジクモ植物の節間細胞を傷つけないように注意してプレパラートを作製します。このときカバーガラスが持ち上がるくらいに水を置く必要があります。しばらくの後、10×10の倍率で原形質流動が観察できます。また、顕微鏡の視野直径をあらかじめ計測しておき、この区間の流動の時間(3〜5回)を計測させ、秒速・時速への計算を行います。

実験上の注意点
 原形質流動は、プレパラートの作製後、遅くとも1分後には見ることができます。流動が見られない場合は、カバーガラスとスライドガラスの間に水が少ない、または節間細胞が傷つけられているなどの原因が考えられます。
 実際の計測時間から秒速や時速に換算して、普段の私たちの世界での速さとの比較を考えさせます。
 計測時には節間細胞の中央部分を用いますが、スケッチをするときには、先端や枝分かれをしている節の部分が適していると思います。

生徒の反応とまとめの指導
 実際にプレパラートを作製して観察すると、生徒の中には原形質流動が見られない場合も出てきますが、その原因は、プレパラートの作製方法の誤りのほかに、顕微鏡の調節が不適切なことが多いようです。
 また、ほんの少しのこと(温度変化、振動など)で流動が停止するのを実際に観察できるのも、生徒は実験の楽しさと感じているようです。単純ではないその動きに関心・興味を持つ生徒も現れます。
 さらに、複数回の計測によって、測定値から算出する値が真の値に近づくことを教えます。平均値の有効数字についても指導します。

 
「皮膚感覚の測定実験」の紹介
(牧野 正明)

本時の目標について
 この単元では、ヒトの身体の主な部分とその働きを学びますが、教科書は受容器については目・耳・鼻・皮膚のしくみを簡単に扱うにとどまっています。その中で本実験は、クローズアップされることの少ない皮膚感覚を調べる作業を通じて、自分自身の身体ついて興味・関心を持ち、普段意識していない身体各部の感覚の違いを体験することを目的としています。また、クラス全体の測定値を扱うことで、データ処理の初歩的な方法についても学びます。

準備について
 クラス人数分の竹串または木製の細い棒、定規
(測定に金属製のものや先の鋭いもの〈コンパスやピンセットなど〉を用いると、危険性もあり、冷点や痛点を刺激するので測定値が小さくなることが多く、適しません。)

方法と順序
 以下の手順にそって実験を進めます。
(1)「測定する人」と「検査を受ける人」の2人1組で実験する。
(2)検査を受ける人は眼を閉じ、測定する人はあらかじめ間隔を測っておいた2本の竹串の先で検査を受ける人の皮膚に同時に軽く触れ、検査を受ける人が2点と区別できるか、1点と感じるかを答えさせる。
(3)はじめから2点を区別できるときには、次第に竹串の先の間隔を狭くして1点と感じる距離を求める。また、はじめから2点を区別できないときは、これとは逆に間隔を少しずつ大きくして、はじめて2点と感じたときの距離を求める。
(4) 下の表にある各部分について測定し、測定が終わったら、測定する人と検査を受ける人を交代する。
(5)各自の測定値、班(2ペア;4名分)およびクラスの平均値を下の表にまとめる。(単位はmm、小数第1位を四捨五入)
測定する部分
ひたい
首筋
前腕
指先
手の甲
手のひら
すね
自分の測定値

各班平均値
1班
2班
3班
4班
5班
6班
7班
8班
9班
10班
クラス平均値

実験上の注意点
 測定具は先のとがったものを用いるので、棒は小さな角度で触れるよう、強く押さないよう、けがのないように充分注意します。また、測定具は必ず同時に皮膚に触れること、1点と2点の区別のつきにくいときは、あらかじめ1点と2点の感覚の違いを確認させるよう指示します。

生徒の反応とまとめの指導
 この実験は、教室でも手軽にできる一方で、普段意識していない自分のからだの部分による感覚の違いが実感できる(指先は1mmでもわかるのに他の部分では1cm以上でもわからない)ので、生徒は驚きとともに非常に興味を持って取り組みます。また、こういう簡単な方法ではかなり個人差がでる(棒の角度や触れる強さ、個人の感じ方による)ため、クラス全員のデータを集計することで、その誤差を小さくできるのを理解させます。
 クラス全員のデータの集計から、からだの各部分の感じ方の違いを説明しますが、生徒の理解度に応じて、からだの各部分1cm2当たりの圧点(触点)の個数を求めさせる場合もあります。
 さらに、圧点以外にも温点や冷点があることや、からだの各部分によって刺激を感じる点の分布に差があるのはなぜかを考えさせると、いろいろな意見が出て面白いです。

 
最後に

 本校でも、カリキュラム改訂による授業時数や内容の削減、実験費用の節約など、実験授業の確保が少しずつ難しくなる要因が増えてきています。また最近は、子どもの頃の経験不足のためか、作業や工夫の苦手な生徒が増えてきているように感じています。しかし、やはり理科の学習の基本は実際に体験・経験することだと思いますので、今回紹介したような、手軽で生徒が興味を持って取り組める実験をさらに工夫していきたいと考えています。