実践研究 化学
晴花さんと1年K組の生徒達
−わがまま教師の教科書への感想−
群馬県伊勢崎市立伊勢崎高等学校
大 貫 正 雄

 晴花さん(仮名)は,ピアノの上手なかわいい女の子です.
 そして1年K組は,お茶目で元気な男子19名,女子21名.

どうして私だけ飛ばないの

 <ボイルの法則>の授業です.
 一番前に座る晴花さん.「何で?」と言いながら焦っています.手元を見ると片方だけスポンジを詰めて,一生懸命に空気鉄砲を飛ばそうとしています.机の下で恥ずかしそうに….
 気体は閉じこめてやらないと“バネ”にはならないという最大のポイントに彼女は取り組んでくれています.なんていい子なんでしょう!さっそくK組のみんなにスポンジを両端につけることの意味を説明できてしまう.
 続いて,ストローとクリップで作った浮沈子の実験をやります.先の細いガラス瓶に水をいっぱいに入れて,上から手を押しつけていく.ストローの中の空気が縮んで浮沈子が沈んでいく.手をゆるめると浮かび上がってくる.
 ここで私がいたずらをしてから,晴花さんへバトンタッチ.彼女がやっても沈んでいかない.私がほんの少しだけ水をすくい取ってしまって“すき間”ができている.種あかしをして,水を足してから再挑戦するとうまくいく.
「先生,少しいじわるだよ.私は気がつかなかったよ.」 
 このとき,R子さんより,
「晴花さんは,頭いいんだよ.小学校の理科の教科書を見ると星形のマーク(☆)があるでしょう.私はずっと本物の星の形だと信じていたんだ.晴花さんが『違うよ』と教えてくれたんだ.先生,どうしてあのマーク使うの?」 
 困ったぞ.いつもと同じく脱線です.交通整理をして,反比例のグラフを書き公式を導いてチャイムが鳴る.


<生徒が書いてくれた図>

 取り上げた実験は,「空気鉄砲」「注射器にゴム栓をして水と空気を閉じこめる」「浮沈子」の3セット.
 そして休み時間になり,2年生が生物の授業を受けるためにやってきます.
 昨年は大型の空気鉄砲はなかったのでT君が喜んでやってみます.大きな音が出て快調そのものでしたが,突然にボコッと音がして筒の横の水鉄砲部分のプラスチックが壊れてしまう.
 また,Y君がゴム栓をした注射器を押すとバリッとガラスが割れてしまう.あわてて片づけようとして,私は指先をけがして血が止まらなくなりました.
 げに,気体は恐ろしい.押し縮めても壊れないし,バネのようです.まわりの物体を壊してしまう.
 
 ここで啓林館「標準化学TB改訂版」(p.82)への感想を一言.
 平成6年度用は,水面下10mのダイバーの絵が出ていましたが,改訂版では,注射器にかかる圧力を台秤で測定する絵に変更されています.潜水病についての説明ができる利点もありましたが,はじめて学ぶ生徒には,やはり注射器にかかる圧力の方がイメージは湧きやすいので,理解しやすくなったと思います.

気体の体積はうんとふえるぞ

 <シャルルの法則>の授業です.
 目の前で水を沸かし,沸騰した水を使います.
 空気だけの入った丸底フラスコに沸騰した水をかけると,注射器のピストンが飛び上がってきます.
 空気と水の入った丸底フラスコのガラス管の先を指でふさぎます.熱水をたっぷりかけてから,指をパッとはなすと噴水が激しく出ます.


<生徒が書いてくれた図>

 後者の実験については,噴水は空気の体積膨張によるだけではなく水滴による水蒸気圧も大きな要因になっているので,正確にいえば適当な実験とは言えないかもしれません.しかし,生徒が驚く面白い実験ですので,捨て切れません.2分間も水が勢いよく出るのはすごいことです.
 「この水,そんなに熱くないよ.」 晴花さん,ありがとう.
 おかげで水がそれほど温まっていないこと,すなわち,水が膨らんでいないことを説明できます.この後,正比例のグラフを書いて授業を終えます.
 次の時間は,ゴミ袋の熱気球を飛ばしてから教科書の問題をやろう.
 放課後,自動車に乗り込んだら,ダッシュボードの上に置いてあった透明ボールペンからインクがしみ出ています.気泡が入り込んで,冬の日射しで膨張したのかな?

 ここでも教科書への感想を一言.
 気体の膨張について,“ドライヤーであたためると気体が膨張して,ピストンが上がる”という実験が取り上げられています(「標準化学TB改訂版」p.84).
 これは気体の膨張をよくとらえた実験だと思いますが,生徒は驚くような実験に飛びつきます.
 私がしている実験は,確かに生徒は喜びますが,注射器のピストンが飛び上がってくる実験は,注射器に水を入れなくてはなりません.水の噴水実験は水蒸気圧を無視した視点になりがちです.また,ゴミ袋の熱気球の実験は,温かくなった空気が気球の外へ放出されたときに浮力を生じているのでシャルルの法則とはダイレクトに結びつきません.
 生徒をあっと言わせる面白い実験は他にないものでしょうか.

そして‘神風’が……

 例年,ボイル−シャルルの法則,気体の状態方程式までいくと息切れしてしまうのです.
 ところが,今年は合唱会が‘神風’として吹いてきます.A先生率いるK組は声の出なかった男子を女子がサンドイッチ態勢で脅かして(?)猛特訓し,見事全校2位に輝く.晴花さんは,最優秀伴奏者賞を獲得します.同じクラスのSさんが,最優秀指揮者賞.
 この頃の授業風景は普段とは一変して真剣そのものです.気体定数Rや気体の分子量などは難所なはずですが,「分からないなりにしっかりやるぞ!」というクラスの雰囲気に助けられて乗り切れてしまったのです.

最後に

 晴花さんやK組の生徒達と楽しんでいる場面を,2カット報告しました.
 教科書は,生徒達と私の“架け橋”です.感想や意見を言うことで,私の浅くて軽い内容の授業を少しでも見直すチャンスをもらえたと感じています.
 閉話休題.

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