化学授業実践記録
イメージ作りを重視した化学 II の授業実践
新潟県立新潟高等学校
大平和之
 
はじめに

 「化学 II 理論分野の内容は公式を覚えただけでは難関校の問題は解けない。演習問題を繰り返し解くことで『問題上でどんなことが起こっているのか』をイメージできるようになって,ようやく光が見えてきた」
 平成18年3月に卒業した生徒が語った内容である。彼は本校でも屈指の実力を持つ生徒であり,努力家でもあったが,その彼でも「問題で何が起こっているのかイメージがわかない」と最初は感じていたのである。同様の壁に当たっている生徒は多いと考えられる。そこで私は今回,金属の結晶格子,気体の状態方程式で『イメージがわく授業』を検討した。
 
1.金属結晶の単位格子

 最密構造を理解させるために以下のモデルを準備した。
<準備するもの>

空き缶(缶コーヒー) Φ 5.2cm×10.3cm 21本
缶を入れる箱 21cm×27.5cm(段ボール製)
発泡スチロール球 Φ 6cm(中村理科製)50個
アクリル製箱 縦24cm×横24cm×高さ20cm
(実験室にあった「充填型結晶模型(ダイヤモンド単位格子模型)」の外箱を利用。中村理科製)

 まず4×5=20本の缶を段ボール箱に詰めておく。ほぼ隙間なく入る。

発問 「ここに20本の缶を詰めた箱があります。この箱の中にもう1本缶を入れたい。どうすればいいでしょうか。」

 生徒1名を教卓に呼び,実験させる。遅い生徒でも1分,はやい生徒は缶を持ってすぐに「最密構造」を作った。

20本 21本

 次に16×3=48個の発泡スチロール球をアクリル箱に詰めておく。

発問 「では今度は3次元で行います。ここに球が16×3=48個あります。ここにさらに2つ球を入れたい。どうすればいいでしょうか。」
48個
50個

 先ほどとは別の生徒に充填作業をさせている間に,以下の説明を行う。

説明
「最初は缶4個で隙間を作っていましたが,これを缶3個で作れば隙間が小さくでき,その分余計に缶を入れられます。最密構造とは隙間を小さくし,たくさんの粒子を入れた詰め方のことです。
 なぜ金属が最密構造をとるのか? それは金属結合が
  [1] 結合に方向性がなく,全方位に及ぶ
  [2] 結合に距離の制限がなく,遠くまで届く
からです。そのためできるだけ周りの多くの原子と結びつこうとし,密に集まろうとします。最密構造では74%という体積占有率(充填率)ですが,ある数学者の研究では74%こそが最高の充填率であると証明されたとのことです。金属はそれを自分で行うのです。」
 「では質問。50個の球が入ったこの詰め方はどの単位格子でしょうか?教科書にある3種類のいずれかです。」

 多くの生徒が,見た目から「体心立方格子」と答えるのだが,正解は「面心立方格子」。切り口を変えると見えてくる。「立体的見方は一つでない」ことの面白さ,また自分で簡単に最密構造を作れた驚き、そして最密構造のイメージを実感できたと思われる。


(左:50個の球を詰めた最密充填モデル,右:面心立方格子の模型)

(余談だが,この球50個のモデルを使うと,「4配位隙間」や「6配位隙間」の説明もできる。)
 ちなみにダイヤモンドの充填率を計算させるとびっくり,34%しかない。この充填率の小ささは,金属結合やイオン結合と違い,共有結合には方向と距離に制限があるからであろう。

 
2.気体の状態方程式
  p, v, n, T のイメージ作り

 本校では2学年の物理 I でボイル・シャルルの法則は学習済み。そこで3学年化学 II ではまず気体のイメージから状態方程式を作り,ボイル・シャルルの法則に戻ることにする。
 まずモデルの前に,比例と反比例の関係を式で表す復習を行う。

 xy は比例 ⇔ y = kx ⇔ (一定) x y は商の関係
 xy は反比例 ⇔  ⇔ xy = k(一定) x y は積の関係

 これを簡単な演習問題で再確認してから,以下の気体モデルに入る。

実験 アクリル箱の中にBB弾を200個入れる。この箱を振ると音が鳴る。

発問 「これは気体のモデルです。気体分子が壁に衝突することで圧力が生じます。圧力が大きいことを,このモデルでは「衝突音が大きい」と置きかえます。ではこの音の大きさを2倍に大きくするにはどうすればよいですか。」


生徒の答え
[1] 振る速度を増す,激しく振る→運動エネルギーが2倍で圧力2倍→運動エネルギーは絶対温度に比例→圧力 p は絶対温度 T に比例
[2] BB弾を2倍に増やす→衝突回数2倍→圧力 p は物質量 n に比例
[3] 箱の体積を半分にする→衝突までに必要な移動距離が半分に→同じ時間で衝突回数2倍に→圧力 p は体積 v に反比例
[4] BB弾1個の重さを2倍にする→・・・ここがマクロの世界とミクロの世界の異なるところ。分子量 M 増加でも圧力 p は変化なし
(v, n, T 一定の場合)

(一定の場合)
  [1] 〜 [3] を比例,反比例の関係で表すと,(一定)この k R と書き換えると,pv = nRT となる。
 ここから一定である数値を右に,変数を左に置くと,ボイル,シャルル,アボガドロの各法則が導かれる。
(たとえば物質量と絶対温度が一定なら,n, R, T を右辺に,残りの p, v を左辺にまとめると,pv = k (一定)となる。つまりボイルの法則。)
 このようにモデルからスタートし,「2つの状態で何が変化していない(一定である)のか」を捉えさせ, p, v, n, T の間の比例・反比例の関係をイメージさせる。
 また分圧の法則も同様に,v, T 一定で気体ごとに分けることに気づかせれば,状態方程式の変形で説明できる。(一定)より分圧比=モル比。

 
3.授業アンケートの結果

 以上3つの「イメージ作り」について,授業後にアンケートをとった。

<集計結果> 
 n=36
  

<生徒の意見>

1.について
印象が強くなるので忘れにくくなり,良かったです。
イメージがつかめて良かった。
見た目でパッとわかるので,この内容の取っ掛かりとしてとても良かった。
球をつめる実験をやりたかった。
カラフルな球を使って,遠くからでも層の区別がはっきりとつくようにして欲しかった。
授業だけでは時間がなくて理解できないので,家などでも使える模型が欲しい。(筆者補足:「3種類の単位格子模型」のことだと考えられる。)
2.について
理解をする際に手助けになった。
音の違いが聞き分けにくかった。
大体わかっていたので,あえて使わなくても自分は理解できた。

<考察>
 1. 2.どちらのモデルでも,学習内容のイメージを持てたと答えた生徒が多数を占めた。さらに化学 II 他分野でも生徒がイメージしやすいモデルを検討していきたい。
 2.のコメントで,色を層ごとに変えるという意見は面白い。また2.のコメントでは音の違いがわかりにくいというコメントがあり,今後再考していく。
 なお,2.のモデルは定量的な議論に立ち入らず,あくまでイメージを持たせるための方法である。高校での化学は全体像を捉えるための第一段階とみなしている。「物理量の関係を数式化する」トレーニングである。
 「議論が荒すぎる」との指摘があるかと思われるが,どうかご容赦いただきたい。

参考文献
大川貴史,『高校化学とっておき勉強法−「なぜそうなるか?」がわかる本』,講談社ブルーバックス,P.210