化学授業実践記録
イージーセンス測定装置を用いた中和滴定実験
栃木県立宇都宮高等学校
高野龍太郎
はじめに

 本校は平成15年度に文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けた。研究開発の課題として、「科学する心」を育み、創造性・独創性に富む科学技術系の人材を育成するための、大学や研究機関と連携した講座の開設および自主的に研究する態度を養うカリキュラム開発と指導方法の研究を掲げて実践している。その研究内容の一環として、授業での実験・観察・分析・探究活動を推進するための設備の充実を図るため、化学実験用イージーセンス測定装置とデータ解析用ノートパソコンを生徒実験テーブル分(15台)整備することとなった。そのことにより、各テーブルにおいて実験データの解析およびグラフ作成等が可能となり、実験の質的・技術的向上、理論の本質的構築に大きく貢献することとなった。以下に、この装置を用いた授業実践例を示す。なお、掲載している写真は平成15年12月19日(金)の文部科学省実地調査時における研究授業のものである。

展開例
 実験 二段滴定(Na2CO3 と NaHCO3 および NaOH の混合物の定量)

目 的:炭酸ナトリウム水溶液が塩酸と2段階の中和反応をすることを利用して、イージーセンス測定装置を用いて混合物中の炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを定量する。

実験操作

[1] X、Y、Zのいずれかの試料を各班で選び、100mlビーカーに試料溶液をホールピペットを用いて20.0ml とり、フェノールフタレイン 溶液を2,3滴加える。
[2] ビュレットに0.10mol/l 塩酸を入れ、目盛りが0.00ml になるよう調整する。
[3] ビーカーに撹拌子を入れた後、下図のような装置を組む。
[4] pHセンサーとイージーセンス測定器およびパソコンを接続する。
[5] パソコンおよびイージーセンス測定器の電源を入れ、パソコンはデータ解析用ソフトを起動させ、イージーセンス測定器はスナップショットモードに切り替える。
[6] マグネチックスターラーを作動させ撹拌速度を調節する。
[7] 滴定開始前の pH を測定し、パソコンに値を入力(入力方法については演示で説明)する。その後、塩酸をビュレットより1.0ml ずつ滴下するごとに pH を測定し、値を入力していく。

 滴下の途中でフェノールフタレイン溶液の色の変化が起こったときは、いったん滴定を中止し、そのときの滴下量をビュレットから読みとり結果を記入する。ただし、その時の値はパソコンに入力しない。
[8] メチルオレンジを2,3滴加えて、再び滴定と計測および入力を開始する。指示薬の変化が見られたら、[7] と同様の操作を行う。
[9] pH が2.5以下になったところで滴定を終了する。
[10] パソコンに入力されたデータから滴定曲線グラフを作成する。

[11] グラフをフロッピーディスクに保存した後、教卓上のパソコンでグラフを再現し、プリンターでグラフを印刷する。
[12] 印刷した滴定曲線の形状から試薬に含まれていた物質を特定し、また第1・第2中和点を求め、物質の濃度(mol/l )を決定する。

実施結果:準備した3種類の水溶液(X:水酸化ナトリウム+炭酸ナトリウム、Y:炭酸ナトリウム+炭酸水素ナトリウム、Z:炭酸ナトリウム)は、全てのグループで特定することができた。どのグループともほぼ理想通りのグラフが得られ、基本原理の構築に大いに役立つこととなった。また初めてパソコンを実験に導入したにも関わらず、生徒は予想以上に操作慣れしており、今後イージーセンス測定装置およびパソコンを用いた実験(凝固点降下の測定、中和熱の測定等)の可能性に期待が持てる結果となった。ただし、50分という時間的な制約から全ての班が濃度を決定するまでには至らず、さらなる効率的な実験方法等の研究が必要である。

生徒の感想
・初めてパソコンを用いた実験で緊張した。
・緊張感をもって取り組めたので、良い実験結果が得られた。
・時間が足りなかったので、二時間連続の授業にすればさらに良い結果が得られたと思う。
・自分でグラフを作るより簡単にきれいなものができ、分かりやすかった。
・今までの実験より班全員で積極的に取り組めた。
・パソコンを使用することにより実験がうまくいき、二段滴定をよく理解できたと思う。
・グラフから試料に何が含まれているかを読み取るのが少し難しかった。
・実験が楽しかったので、機会があったら是非またやりたいです。
・パソコンを用いた実験は新鮮だった。
・授業だけでは分かりにくいことも、実験をすることにより理解できると思う。