化学授業実践記録
生徒に分子間力を実感させる授業作り
兵庫県立鈴蘭台高等学校
井上誠司
 
はじめに

 化学 II において『分子間力』が説明されていますが、「分子間に働くこの弱い力を分子間力という」などの説明にとどめられています。それですますことも高校のレベルでは大切だと思われますが、ここでは「極性」とからめて、できるだけ分子間力を実感できる工夫を授業に取り入れた例を紹介します。準備も簡単な実験T〜Xで構成しました。
 
【実験 I 】※実験プリント

 水をいっぱい入れたコップに、水をこぼさないで何枚10円玉がはいるかな?さあ何枚入るか競争してみよう。
《実験の目的》
 水がコップの縁より盛り上がるのを観察させます。
《説明内容》
 水の表面に並んでいる水分子は、互いに引き合っていることを実感させます。

【実験 II 】※実験プリント

 わがままな紙
《実験の目的》
 まるで自分の意思で動くように見える、小さな丸い紙の動きを観察します。
《説明内容》
 表面の水分子は互いに引き合っていますが、もっと強くコップの分子に引きつけられること、あふれるほど水の入ったコップでは、縁より上に水をひきつけるガラスの面がありませんから、水分子は互いに引き合い、水のふくらみの中心に向かって力が働くことを理解させます。

【実験 III 】※実験プリント

 寄り添う二人の仲を裂く
《実験の目的》
 水分子同士が引っぱり合う力を観察します。
《説明内容》
 洗剤が触れると、その部分の分子同士が引き合う力を壊すので、水分子は離れて、同時に、並んで浮いているマッチ棒も離れてしまいます。これは水分子が互いに引っ張り合っているために起こることを理解させます。

【実験 IV 】実験プリント

 水とアルコールの綱引き
《実験の目的》
 水とアルコールの引っ張る力の違いを見ます。
《説明内容》
 アルコールのまわりにうねができます。このうねは、水とアルコールの分子が互いに引っ張り合うので小刻みに振動することを理解させます。

【実験 V 】※実験プリント

《説明内容》
 摩擦力が、分子間力と関係があることに気づかせる。

【実験を終えてからの分子間力の説明】

「なぜ分子間力は働くのだろう?」
 ※板書事項

 このように、分子間力も瞬間的な極性であることから説明すると生徒たちにも受け入れやすいと判断しました。以下に指導書による「分子間力」の説明を載せておきます。

分子間力
 ファンデルワールス力とも呼ばれる分子間引力の起源には次のようなものがある。極性分子間の永久双極子―永久双極子相互作用に基づく引力。永久双極子が隣接した分子の中に別の双極子を誘起し、それらの間の永久双極子―誘起双極子相互作用に基づく引力。および無極性分子間の相互作用に起因する分散力と呼ばれる引力。
 分散力の理論はロンドン(1930)により量子論を用いて与えられた。希ガスのヨウ素のような無極性分子でも、ある瞬間において、揺らぎのために電子分布の対称性が破れ、電気双極子が生ずることがある。ある分子が瞬間的に電気双極子をもてば、それがつくる電場によって、隣接分子の中にも電気双極子が誘起され、両者の間に引力が生じることになる。
(略)
 教科書では、ファンデルワールス力に水素結合による力を加えたものを分子間力と定義している。

 
おわりに

 今、授業をしていて困難に感じるのは生徒たちに興味を起こさせ、授業に引き込むことが非常に難しいということです。力不足を感じるなかで、授業に遊び心をいれ、ゲームの要素も加えるなどの工夫の大切さも感じております。この「分子間力」の授業実践を、その一工夫という見方をしていただければありがたいと思っております。

参考文献
ヴァンクリーヴ先生の不思議な科学実験室(化学編) HBJ出版局
東京書籍 化学TB 指導資料 p43