実践研究 物理
演習問題中の実験の実践
−簡易演示実験によるイメージづくり−
福井県立藤島高等学校
上 山 康一郎

1.はじめに

 本校の大部分は大学進学を目指す生徒であり,物理は理系の選択教科となっている.教科書の探究活動で取り上げられている実験は,生徒実験・演示実験でほとんど行っているが,物理の学習内容の理解を深めるために実験観察の時間を十分確保するのは難しいのが現状である.3学年になると大学の入試問題等を利用して問題演習を行う.実験観察の経験が少ないためか,生徒の中には問題中の現象がイメージできずに,解法の糸口を見つけられない生徒が見られる.現象をイメージする力は様々な実験を数多くこなしていくうちに養われる能力であろうが,簡易的な演示実験でイメージをつくれる実験についてはその場で見せている.
 演習問題中の実験は,

    (1)生徒実験で扱う実験
    (2)身近な現象(遊園地の乗り物等の運動等)
    (3)様々な物理現象からの思考実験的なもの

に大別できる.そこで,その中から「生徒実験として取り扱える実験」と「演示実験としてイメージを持たせるための簡易実験」のいくつかを力学分野から紹介してみたい.

写真1 実験風景

2.生徒実験として取り扱える実験

 「加速度運動と張力」(力学の初期の段階で生徒実験として取り組ませている.)
<実験内容>水平な机の上に台車(補助物体をのせ質量を調整できる)を置き,その台車に糸の端をつけ,滑車を通して糸のもう一方の端におもりをつるす.その時の台車の加速度と糸の張力を測定する.静止時の張力と加速度運動中の張力を較べる実験である.

図1

    [実験データ]
    (1)おもりの質量m〔kg〕と重さmg〔N〕.

      質量m = 0.73 kg
      重さmg = 7.2 N (=静止時の張力T0

    台車と補助物体3つの合計の質量Mは,4.0 kg である.

    (2)得られた記録テープについて,任意の点を原点とし,0.1sごと(6打点ごと)の間隔を測り,台車Aの速度vと時間tの関係をグラフ用紙に書く.グラフの傾きから加速度aを求める.加速度運動中のばねばかり(ニュートンばかり)の目盛り(〔N〕)を読む.

      【実験値】
       加速度 a=1.45m/s2
       加速度運動中の張力 T=6.0N⇔T0

    (3)運動方程式から算出される加速度aと張力T

      【理論値】
       加速度  a=1.51m/s2 
       加速度運動中の張力 T=6.05N

写真2 ニュートンばかり

 加速度運動中のばねばかりの目盛りを読むことは,さほど困難なことではないのでTT0の違いは明らかにわかる.補助物体の数を増減させることで,張力の変化を観察できるので,実験のバリエーションも増やすことができる.理論的には運動方程式で加速度と張力は計算できるが,張力が変化するのを視覚的に捉えることができ,実験値と計算値が大体同じになるので生徒には好評な実験である.

3.演示実験としてイメージを持たせるための簡易実験

(1)剛体のつりあい

図2
[例題]
長さl ,質量Mの一様な2本の棒AB,CDがある.その一端Aと鉛直な壁との間,およびBとCの間をそれぞれちょうつがいでつなぎ,棒が鉛直面内で自由に回転できるようにしておく.棒の一点に鉛直上向きの力を加えて全体を水平に保った.加える力の作用点はどこか.力の大きさはいくらか.
(作用点 D点からx=2l/3 の位置.力の大きさ 3Mg/2)

 驚くことに,「ちょうつがい(蝶番)」を知らず,どのような動きをして,どのように力が加わるかをイメージできない生徒がいる.ちょうつがいの部分にどのような力が加わるかを理解させて,支える場所を変えることで2本の棒がどのような運動をするかを見せた後,力のつりあいと力のモーメントのつりあいを考えさせるとスムーズに理解できるようである.

写真3 D点からx>2l/3

写真4 つりあい

写真5 D点からx<2l/3

(2)運動量保存と重心の運動

図3
[例題]
水平な床からある高さLのところに金属の棒を水平に固定する.この棒に長さlL>l)の軽い糸をつけた質量Mの小さなリングAを通し,糸の他端に質量mの小球Bをつける.金属棒に沿って水平右向きにx軸,鉛直下向きにy軸を定める.リングAを座標(l ,0),小球Bを原点の位置に置き,リングAが金属棒に沿って自由に動くことができるようにし,AとBを同時に静かに離す.ここで,Bが最下点を通過するときのx座標とAとBの速さはいくらか.
(x座標−Ml/M+m
(Aの速さ−
(Bの速さ−

 AとBを同時に静かに離したとき,どのように2物体が運動するか,物体系の力学的エネルギーとx方向の運動量が保存されることから考えさせる問題である.摩擦がなければ,運動は繰り返し続くはずであるが,簡易の装置では2,3回で停止してしまう(リング,小球の質量比は1:1程度で,軽いものがよい).2,3回の運動でも運動量保存と重心のx方向の位置が変化しないことをイメージさせるには十分である.

写真6 離す前

写真7 運動中

4.おわりに

 演習問題中の現象・運動はシンプルなものが多いので,イメージすることは,物理の基本的原理,法則から考えていけばさほど難しいことではない.視覚的イメージの体験回数を少しでも多くすれば,現象・運動を推察する能力も伸びてくるものではないだろうか.

福井県立藤島高等学校
〒910-0017 福井市文京2-8-30
TEL 0776-24-5171 FAX 0776-24-5189
Eメール T844438@fujishima-h.ed.jp