実践研究 物理
新教科「情報」を物理の授業に生かす指導法
−学校設定科目「コンピュータ」を理数物理の授業に生かした指導を通して−
岡山県立岡山一宮高等学校
中 山 広 文

1 はじめに

 新学習指導要領では,教科「情報」が新しく加わる.この教科において学習した内容は,物理の指導に今後おおいに役立つと考えている.
 岡山一宮高等学校には理数科が各学年に2クラスずつあり,1年次には理数科全員が学校設定科目「コンピュータ」を1単位履修している.この科目においては表計算ソフトを学習するが,そこで習得した技能を2年次からの物理の指導に役立てることができる.ここでは,その実践例を紹介する.

2 表計算ソフトを利用した簡易コンピュータ計測

 Windowsのサウンドデバイスを利用するとさまざまな物理量を計測することができる.筆者は以前からWAVEファイルをExcelのVBAを使って,1バイト(8ビット)または2バイト(16ビット)ずつ並んだデータをセルに読み込み,グラフ化するマクロを組み授業で活用していた.その後,V-Fコンバータを利用したA-D変換の方法も取り入れ,幅広いコンピュータ計測を行っている.
 コンピュータ室には40台のコンピュータがあり,マイク入力端子からリード線を引き先端にクリップをつけ机上で入力できるようにしている.また,コンデンサーマイクで自作音声入力装置も作っている.


図1

(1)はねかえり係数の測定
 円錐型のプラスチックカップの底に穴を開け,コンデンサーマイクを差し込み自作集音マイクとする.ピンポン玉を約10cmの高さから落下させてガラス板との衝突音を集音マイクで集めサウンドレコーダーで録音し,はねかえり係数の測定を行うことができる.衝突音をグラフ化したものが図2である.
 マウスポインタを波形のピークに移動させると時間を読み取ることができ,この値からピンポン玉とガラス板のはねかえり係数を求める.


図2

(2)重力加速度の測定
 コイルを等間隔に数回巻いた筒の中を磁石が落下すると誘導起電力が発生することを利用して,重力加速度の測定を行うことができる.グラフ表示した後,時間を読み取り加速度を求める.


図3


図4

(3)うなりの回数の測定
 振動数の異なるおんさを鳴らし,ライン端子から入力(2チャンネル)する.Excel上で2つの音を合成することによってうなりの波形を表示し,うなりの回数を求めることができる.


図5

 うなりの学習については,Excel上でsin関数を利用して波形をつくらせると,とても理解しやすい.2つの列に位相が少しずれた値を代入し,それをsinの値に変換させる.さらに,sinの値の和をとる.これら3つの値をグラフ化すると,生徒は教科書にあるような波形を自分でつくることができたことに大きな感動を覚える.(図6


図6

(4)音速の測定
 2個のマイクを1m離してセットし,拍子木を打ってその音をライン端子から入力する.2チャンネルのデータを別々にグラフ化すると,ずれが生じていることが確認できる.ずれているところの数個のデータのみでグラフ表示すると,拡大されたグラフをつくることができる.その拡大したグラフから時間を読み取り音速を求める.


図7

(5)V-Fコンバータを使った電圧測定
 直流電圧を交流の周波数に変換し,マイク端子から入力する.その後,WAVEファイルからパルス数を読み取ることによって電圧値を求めることができる.下図は,コンデンサーの放電時の電圧変化をグラフ化したものである.


図8

 これについては,岡山県教育センターの高等学校理科指導資料作成委員の先生方によって,「情報技術(IT)を活用した生徒の主体性を高める理科の学習指導」という研究の中で計測ソフトが開発されている.

3 実験レポートについて

 これらの実験のレポートについては,ワープロソフトWordを使って作成させている.Wordについても,1年次の学校設定科目「コンピュータ」の中で基礎的な技能を習得しているので,物理の授業の中で指導することはない.グラフや表を貼りつけるなど,創意あるレポートの作成を指導の中心とする.授業時間内の完成はなかなか難しく,放課後コンピュータ室を開放して,作成に当たらせることが多い.
 しかし,生徒は創造性を発揮し,工夫を凝らしてこちらが期待していた以上のレポートを提出することが多い.

4 おわりに

 理数科の生徒は1年次,表計算ソフトExcelやワープロソフトWordの基礎的な技能を身につけている.したがって,物理の授業においては,サウンドデバイスの扱い方を説明し,それぞれのセルに代入される値がどのようなものであるかを理解させておくと,実験やまとめを容易に進めていくことができる.
 コンピュータを計測機器として用い,測定したデータを表計算ソフトで処理してレポートを作成するという方法は,「コンピュータ」という学校設定科目があるからできることである.
 しかし,今後,教科「情報」が開講されるようになると,普通科の生徒も表計算ソフトやワープロソフトの扱いが可能になるであろう.そのときには,今回紹介した指導方法が,普通科の物理の授業においても実践できると考えている.

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