実践研究 物理
授業展開の一つの試み
久留米大学附設高等学校
栢 岡 忠 彦

はじめに

 本校は大学受験を目標にしている生徒ばかりなので物理を選択している生徒は,よく授業についてきてくれる.先生の授業研究がおろそかになっては生徒の要求に応えられず,自然と研究をせざるを得ず,よく勉強をしているというか,させられている.以下,本校で私が試みている授業の工夫の一部を紹介してみる.

1.運動量と力積の関係と仕事と運動エネルギーの関係(エネルギーの原理)をニュートンの法則の形を変えたものとして強調して指導する.

 ニュートンの運動の法則と,運動量保存の法則,力学的エネルギー保存の法則とは別のものと考えている生徒がいる.力学的エネルギー保存を考えつつ,ニュートンの運動の法則をいっしょに考えたりする生徒を見受ける.そのために互いに関連があることを印象づけるために,運動量と力積の関係と仕事と運動エネルギーの関係を,ニュートンの運動の法則と等加速度運動の式から導き出している.
 ma=Fとv=v0+atよりaを消去してFt=mv-mv0を導く.
 この式を,物体の運動量の変化量はその物体の加えられた力積に等しいと読むことになる.
 また,ma=Fとv0-v0=2axよりaを消去してFx=0mv0-0mv0を導く.
 この式を,物体の運動エネルギーの変化量はその物体に加えられた力がした仕事に等しいと読むことになる.
 導き出すのは等加速度直線運動からであるがこの考えを拡大解釈して,非等加速度運動や曲線上の運動に使うように指導している.

2.波の指導では振動が伝わる現象をサッカーやプロ野球でのウェーブという応援を参考にして説明している.

 媒質の1点を人間にたとえて媒質の振動をその場所での人間の動きにたとえている.特に人間の動きが横の人に伝わる時,その動きが忠実に伝わることと,伝わる速さが変わらないことがウェーブという応援を成立させていることに注目させる.その上で振動が伝わる速さが同じ媒質の途中で変わらないことと,振動の形が途中で変わらないこと(波の独立性)が波の特徴であることを理解させる.

3.コンデンサーの問題を回路を流れる電流で考える.

 現在の教科書では電場での導体のあとにコンデンサーの項目がある.これをオームの法則を自由電子の運動で学習したあとで,静電気力が働くマイナスの電荷(あるいはプラスの電荷)の移動で考える指導展開をしている.下の図(b1)でスイッチを閉じると,電池が導線中につくる電場で極板Bに導線中のマイナスの電荷をもつ電子が移動してきてBの上面にマイナスの電荷が現れ,Aのプラスの電荷とマイナスの電荷が等量あったところから電池が導体中につくる電場でマイナスの電荷をもつ電子が出ていき,Aの下面にプラスの電荷が現れる.このようにしてマイナスの電気が移動してAとBに異符号の等量の電荷がたまっていくことになる.
 AとBに電荷がたまると極板AB間に電場ができ電圧が生じることになる.この電圧と抵抗の両端の電圧を加えたのが電池の電圧に等しくなる.極板上の電荷が変化しなくなると回路に流れる電流が0となり抵抗の両端の電圧が0となる.故に極板間の電圧と電池の電圧が等しくなる.下の図は模式的に描いた図である.
 生徒が化学で金属結合を学んでいる時はプラスの電気(原子核が担う)は動かさずにマイナスの電気(電子が担う)を動かす方がいいと考えている.
 以上,3つの事例をあげたが,先輩の先生方から学んだもので多くの先生方が試みられていることである.できる限り,生徒たちに自分で考えられるように指導方法を工夫していき,これからも多くの先生方の物理実践研究を参考にして学んでいきたい.
 さて,平成15年度より学年進行で新課程による物理が実施されるが,学習指導要領の理科総合を含めた物理の内容をみると,現在の教科書とそんなに変わらないように思われる.また,中学校から高校へ移行される内容がかなりある.もともと,実験や課題研究がしわ寄せを受けている状況であるので,内容を削減しなければ時間数が足りないだろう.まだ,教科書ができていないのでわからないが,きちんとやろうとすれば決められた単位時間内に指導できるか危惧される.気体の分子運動,コンデンサー,インダクタンス,交流回路は簡単に済ませることになるだろう.
 大学入試がどうなるかに左右されるが,大学によっては現在の内容を削減していく方向にはないようだ.そのためには,今以上に教科書の内容を精選して完全に消化していかなければならないだろう.どこで折り合いをつけるか,これからも悩まされることであろう.

(a)スイッチを入れる直前
図a

・金属中では+の電気と−の電気は簡単に分離できる.
+-は−の電気と+の電気が等量あることを示す.

(b1)−の電気の移動で考えると
図b1
(b2)+の電気の移動で考えると
図b2
(c)(b1),(b2)で+-を書かないと
図c
数式09

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