物理授業実践記録
おんさの質量変化と振動数の関係について
愛媛県立松山北高等学校
井門盛由
 
はじめに

 物理のある問題集にこのような問題があった。

問 2つのおんさAとBがある。おんさAの振動数は400Hzである。おんさAとおんさBを同時に鳴らすとうなりが毎秒4回聞こえた。次に,おんさBに輪ゴムを巻いて,AとBを同時に鳴らすと,うなりは聞こえなかった。おんさBの振動数を求めよ。

 答えは当然404Hzであるし,その原因は,輪ゴムを付けたことによりおんさの質量が変化し,振動数に影響を及ぼしたことにあると容易に想像できる。しかし,そのことを定量的に確かめようとすると,まずは,精度良く振動数を測定できる計測システムを必要とするため,なかなか容易なことではない。そこで,使いやすく精度の高いソフトを探していたところ,啓林館のHP上の「物理授業実践記録」(2004)にあった[Webソフトを用いた音波と交流の授業−JST「理科ねっとわーく」の利用−](神奈川県立厚木高等学校 水上慶文先生)の中で紹介されているWebソフト「振駆郎」(提供元:科学技術振興機構 理科ねっとわーく)を見つけ,生徒実験および課題研究に利用することにした。
 1は,おんさにおもり(板マグネット)を取り付けた場合の,おもりの重さと振動数の関係を調べた探究活動実践例である。また,2は,おんさの振動数とうなりの関係についての生徒実験実践例である。今回の実験が,物理の授業に何らかの形でお役に立てれば幸いである。 

 
1 課題研究
おんさの振動数とおもりの質量の関係

おんさの振動数とおもりの質量の関係

【目 的】 (1) おんさに取り付けたおもりの場所と振動数の関係を調べる
(2) おんさの質量変化と振動数の関係を調べる。
(3) おんさに取り付けたおもりの先端からの位置と振動数の関係を調べる。
【準 備】 440Hzのおんさ2個 おもり7個(マグネット板 1枚約1g) パソコン 計測システム「振駆郎」 マイク 

【実験装置】

【実 験】

I  おもりを付ける場所と振動数の関係

 同じおもりを付けた場合,おもりを付ける場所によって振動数がどう変化するかを調べるために,以下のような位置に,2個のおもりを付けた場合の振動数を測定した。

 【結 果】

マグネットの場所 振動数の測定結果  [Hz] 平均値 [Hz]
1回目 2回目 3回目
外外 432.4 432.0 432.0 =432.1
外内 432.1 432.2 432.0 =432.1
一方外内 431.9 432.0 432.1 =432.0
一方外外 432.0 432.0 432.1 =432.0
一方内内 431.9 431.9 432.1 =432.0

【考 察】

 おもりを付けたときのおんさの振動数は,おんさの先端からの位置を同じにすると,上の4つのパターンにおいては変化がなかった。このことから,おんさの先端からのおもりの位置が変わらなければ,おもりをつける場所と振動数は無関係であることがわかった。

II  おんさの振動数とおもりの質量の関係

(1) おんさの振動数 を計測システムを用いて測定する。
(2)  マグネットを1枚おんさの先端に貼り付け,振動数 を測定する。
(3) 2の状態に,2枚,3枚・・とマグネットを付けていき,その都度振動数 ・・・を測定する。

マグネット1枚を付けた状態 マグネット4枚を付けた状態

 【結 果】



【考 察】

 実験結果からは,今回のおもりの質量程度の場合,おんさの振動数はおもりの質量に比例して減少することがわかった。ただし,今回実験で使ったおもりの質量は1〜7gであったが,おんさの質量は約200gある。よって,おもりの質量をさらに大きくしていくと,振動数の変化の仕方が変わってくるかもしれない。今後,継続して研究を行っていきたい。

III おんさにつけたおもりの位置と振動数の関係

 おんさにつけたおもり(2g)の位置を,先端から0.5cmずつずらしていき,それぞれの位置での振動数を測定する。

おもりのマグネットを下へずらしているところ

 【結 果】


 【考 察】

 上の表やグラフより,おもりの位置がおんさ先端から離れるに従って,おんさの振動数が増加していくことがわかった。ただし,x=4〜5cm 付近から,徐々に勾配が緩やかになってきているのがわかる。つまり,おんさの根本に近づくにつれて,おんさの振動に対するおもりの質量の影響が減少し,最終的には元の振動数440Hzに収束していくことがわかる。

 
2 生徒実験
おんさの振動数とうなりの関係

【目 的】 (1) おんさの質量変化と振動数の関係を調べる。
(2) おんさの振動数とうなりの振動数の関係を確認する。
【準 備】 440Hzのおんさ2個 おもり5個(約1cm角のマグネット板 1枚約1g) パソコン 計測システム「振駆郎」 マイク 

【実験装置】

【実 験】

 2つのおんさの振動数とうなりの振動数の関係

(1) おんさの振動数を測定する。
(2)  マグネットを付けていないおんさBと,おもりを1つ付けたおんさAを同時に鳴らしうなりの振動数Δを測定する。
(3) おもりの個数を2,3,4・・・と増やしていき,1と同様にうなりの振動数ΔΔΔ・・を測定する。
(4) 上述の実験 II において得た実験値からのうなりの振動数 を計算する。

【結 果】

【考 察】

 この実験結果より,2つのおんさによるうなりの振動数は,それぞれのおんさの振動数の差になっていることがほぼわかった。ただし,振駆郎から得られるグラフから,うなりの振動数を測定するのはややむずかしく,かなりの誤差を生じると思われる。今後さらに精度良く実験を行えるための方法を考えていきたい。

 授業で用いた実験プリント



 
まとめ

 今回の実験で,最も主眼に置いたことは,音波の性質をいかに定量的に扱うことができるかということであった。幸運にも,「振駆郎」という大変使いやすく,かつ精度のかなり高いソフトに出会い,研究をスムーズに進めることができた。生徒たちも印象に残る実験になったのではないだろうか。また,少人数ではあったが,今回も放課後や休日に課題研究をしてくれる生徒に出会えたことは,大変うれしくありがたかった。研究主題自体は単純で,結論に関してもまだまだ不十分なものであったが,この研究を通して,取り組んだ生徒に,学業に対する主体性が見られるようになり,成績の上昇が見られたことは,理科教員としてうれしく思う。
 最後に,今回の研究に際し,多くの助言とアイデアをいただいた,本校物理教員の三好浩行先生,永井瑞樹先生,さらに,振駆郎の使用を快く承諾いただいた,科学技術振興機構様,および許諾に際し,お世話をいただきました科学技術振興機構理科ねっとわーくサポートデスク池田裕子様,啓林館の担当者の方に,この場をお借りして感謝とお礼を申し上げます。