物理授業実践記録
手作りコンデンサーによる生徒実験
〜台所用品で電気の実験をしよう!〜
香川県立高松高等学校
白川達章
 
はじめに

 物理 II (旧課程)での課題研究は,生徒にじっくりと実験に取り組ませる絶好のチャンスであったが,独自にテーマを設定させるのがむずかしく,またさまざまなテーマになった場合それに対応することの困難さ(器具や材料の準備,理論的な知識の量,指導にあたる人員・時間など)は大きな問題であった。そこで全体での統一テーマを決め,それぞれのチームが競い合い,また徐々に獲得していく知識・技能を共有し合うという形をとった。前任校では風力発電やクリップモーター,ニクロム線の温度係数など,教科書等に登場するようなテーマとともに,手作りコンデンサーを作成し,その電気容量を測るというテーマを数回採用した。多少のズレはあるが,多くは2学期開始直後,1・2年生が文化祭の準備で学校が騒々しくなる時期の放課後に合わせて作成・計測を行った。

 
1.作り方

 調理用のアルミホイル(8m×25cm)2本を縦につなぎ合わせたものと食用ラップ(20m×30cm)を交互に2組ずつ重ね合わせて,ラップの紙の芯などに巻き付けコンパクトにする。充放電時の接続のため,巻き終わりの部分には予備用のアルミホイルで電極を作り,それを一部が外にはみ出すように挟み込んでセロテープやゴムで止める。
 テスターを使い電極間の抵抗値が無限大であることが確認できたところで完成となる。乾電池で充電した電荷により,LEDが一瞬だけ輝くことでもできあがったことを確認することができる。多少のばらつきはあるが,2μF程度の容量のものになる。
 
2.放電曲線からの容量決定

 できあがったコンデンサーを下のような回路に組み込む。

 最初は電圧計を接続し,数本の電池で充電した電荷を1MΩの可変抵抗に向かって放電させる際の電流の時間的変化を3秒ごとに記録し,その時間変化の様子をつかませる。次にA/D変換器を増設したPCに自動計測を行わせ,得られたデータを表計算ソフトでグラフ化,また(電流の時間積分値)=(コンデンサーへの帯電量)を計算させる。

 充電時の電池の本数や放電させる抵抗の値を変えたときの放電曲線の変化を調べながら,いずれの場合もほぼ同じ電気容量になることを確認する。

 
3.電気振動からの容量決定

 さらにできあがったコンデンサーを下のような回路に組み込む。

 スイッチを切ると下のような電気振動の波形が観測される。(グラフ下の時刻の目盛りはms) 振動の周期が約3msであることから,容量が2.2μFであることが求まり,放電曲線から得られる値にも近い値が得られる。

 
終わりに

 「巻くだけでできる」といういたって簡単な構造であるが,3割ほどの班は最初に出来上がった時点では,どこかに絶縁が十分でない部分があり,抵抗値が無限大にならない。そこで途中までほどき直して,丹念にテスターで抵抗値を確認しながら,部分的に食用ラップを挟み込むなどしてコンデンサーに仕上げるのはかなり忍耐力の必要な作業である。しかし将来的に理科系の世界で生きていく生徒たちに,頭で考えることとそれを実際に実現することの間にはギャップがあること,また出来上がりうまく動きだしたときの感動を感じさせるなど,もの作りの楽しさを教えるのには格好の題材であった。普段座学では苦労している生徒が手先の器用さで生き生きする瞬間も見ることができた。完成後のPCでの自動計測を繰り返すうちに,教科書の記述や問題演習だけではイメージのしにくい電荷の動きについても理解が深まったようである。さらにデータ処理,またレポートをホームページのファイルで作成させる際も,パソコン操作の達者な生徒に「指導」を任せ,新たに得たノウハウを互いに伝え合うなどして,生徒達だけでみるみるうちにスキルアップしていった面もあった。
 3年生の2学期は入試に向けて問題演習に集中させたい時期なのかもしれないが,ある程度時間をかけて手を動かしながら考えさせるということは,若い彼らだけに将来もの作りに取り組む際の貴重な経験となるのではなかろうか。

※ この論文はH18年 第5回啓林館「教育実践賞」において,審査員特別賞を受賞した作品です。