物理授業実践記録
身近な道具や材料を用いた簡単な演示実験
滋賀県立膳所高等学校
辰巳富一
 
1.はじめに

 最近,気にかかることの1つが、大学受験に出題されない分野は身を入れて勉強しようとしない生徒の学習に対する姿勢です。自然体験の乏しさや電化製品のブラックボックス化とあいまって,日々の学習が現実の自然現象から遊離しているのではないかと危惧しているところです。
 
2.定性的理解を深めるための演示実験

 学習事項の定着には,体験が重要で,体験を通して現象を身近に感じることが学習意欲を高めていくことにつながっていくと考えています。とは言うものの,大学受験のことを考えると,2・3年生合わせて7単位の授業の中で生徒実験を頻繁に行うことは困難です。そこで,このギャップを埋めるためにできるだけ演示実験を行うようにしています。
 以下に,演示実験の一部を紹介します。これらは,前任校で文系進学者向け「物理 I A」において,定性的な理解を促すために行っていた生徒実験などを少し工夫して演示しているものです。身近にある道具や材料を用いるため,生徒の興味関心を喚起し,定性的な理解を深めるために有効であると思われます。

(1) 大気圧
 ここでは生徒へのインパクトを強くするために台所用ボウル(ステンレス製 27cm)を用いて自作した「マグデブルグの半球」を用いています。身近にある台所用ボウルがくっ付き,人がぶら下がっても離れないことで大気圧を実感させます。下の写真は,本校土曜日講座で実施したときのものです。生徒が懸垂しても離れることはありません。


※自作「マグデブルグの半球」について説明
[1] ステンレス製S字フック(最大荷重6kg)2個を逆向きにハンダ付けして8の字形にし,台所用ボウルにハンダ付け(3点に固定)する。
(注)ここで用いるハンダは,ステンレスハンダです。
[2] ボウルにドリルで穴を開け,エア用ボールコックを取り付ける。ステンレス製ナット,ステンレス製座金を用いてハンダ付けしますが,エア用ボールコックのピッチは一般のねじのピッチと異なるので注意が必要です。なお,エア用ボールコックを取り付けるのは,連続した授業で使用するためです。
[3] 厚紙2枚に水を吸収させ,ボウル間のパッキンとして用いる。
[4] エア抜きは,ボウル内部でアルコールを燃やし,パッキンを入れて他のボウルを重ねるだけで十分です。

(2) 電流が磁界から受ける力および電磁誘導・相互誘導

[1] ラジカセの外部出力端子に豆電球(0.2V,0.3A)を接続し,明るさが変化することから変動する電流が出力されていることを確認します。
(注)実験で使用するラジカセは旧型のもので,私はNATIONAL MODEL.NO RX-1760を用いています。
[2] 電球をコイルに変えてネオジュウム磁石を近づけ,コイルが振動することで電流が磁界から力を受けることを確認します。
[3] コイルとネオジュウム磁石をインスタント焼きそばの容器に貼り付け,ラジオ放送を聴き,コイルの振動が空気中を伝わることで音が聞こえることを確認するとともに,スピーカーの構造や原理を確認します。
[4] 出力端子にモーターを接続して,コイルと磁石を使っているものは,スピーカーとして使用できることを確認します。
[5] コイルを検流計に接続して,コイルにネオジュウム磁石を近づけたり遠ざけたりすることにより,コイルを貫く磁束が変化すると,コイルに誘導電流が流れることを確認します。
[6] 入力端子に接続した自作のスピーカーの前で話すことにより,空気の振動でコイルが振動し,誘導電流が流れることをラジカセのスピーカーから出る話し声で確認します。
[7] ラジカセ2台(A,B)と巻き数5回,20回,50回のコイルを巻きつけた鉄棒を用意し,20回巻きコイルをラジカセAの出力端子に,50回巻きコイルをラジカセBの入力端子に接続します。ラジカセAの音声をラジカセBから出力させることにより,1次コイルに流れる電流が変動すると,2次コイルに誘導電流が流れることを確認します。
[8] ラジカセBの入力端子を5回巻きコイルに変更し,その音量の変化から,2次コイルに流れる誘導電流がコイルの巻き数により変化することを確認します。
 
3.おわりに
−生徒の反応から−

 「ボウルの実験は,自分でもぶら下がってみたので特にびっくりしました。先生がぶら下がった時から私もぶら下がりたいって思っていたので,ぶら下がれてとても満足でした。楽しかったです。それと同時に,すごいなーと思いました。なぜ,そのことが起こるのか理由がわかったときは勉強してよかったっていつも思います。」
 「物理は,いつも身近なことを調べるからおもしろい。マイクやスピーカーがどのようにできているのか知ることができて,勉強になると同時にびっくりした。いつも学校の授業は,自分の生活に遠い話だけど物理の授業は結びついているのでおもしろい。」
 「身近にあって,ずっと不思議だったことが物理の授業でわかっていくことがとてもおもしろい。」
 これらの生徒実験レポートの感想からもわかるように,身近な道具や材料を用いて実験を行うことで学習に対する興味関心を喚起し,学習意欲を高めていくことができます。進学校であっても,この観点は大切であると考えています。問題演習に時間をかけなければならない事情はあるものの,何らかの形で現象に接する機会を提供していきたいと考えています。