物理授業実践記録
文部科学省SPP(サイエンスパートナーシップ)より
−セラミックス(材料科学への誘い)−
(東京)帝京高等学校
生沼明人
 
1.はじめに

 本校における状況も含め、受験勉強をはじめとする高校段階における現状の学習は、あらかじめ答えが用意されている問題を早くそして正確に解くこと(解答を作り上げること)に主眼が置かれているのではなかろうか。多くの先生方が苦心され、さまざまな方法で興味をひきつける努力をなされていることと思う。
 その半面、大学、社会での研究活動においては、解決方法や結果は回答者の数だけあり、そのオリジナル性が大きく評価を受けることが多いと考えられる。「理論」を好む生徒と「実験」を好む生徒という個々の特性を抜きにして、とにかく生徒たちの自由な発案や、実験および調査する力を伸ばしていくことは非常に大切であると思われる。
 大学における研究活動を行っている先生(研究者)を招いて講義を聴き、実験を行い、製作をすることにより、いろいろな情報を収集し問題を解決していく力をつけるきっかけにすることが本校におけるSPP招聘講座への取り組みの狙いである。このような機会が独創性を伸ばすことを期待しつつ、企画・申込・運営を行った。今回はその一例について紹介する。
 
2.授業の流れ
−招聘講座・講師:榎本尚也助教授(九州大学)−

午前の部:「材料科学への誘い」というテーマ
◎ 「セラミックス」「三大材料」「materials」「原子の並び」について講義
(パワーポイントを使って解説)

 

◎ 身の回りにある「もの」について考えて話し合いを行う。


◎ 実際に「セラミックス部品」を触ってみて応用例を実感する。


◎ 2種類の粘土で陶器作りをして燃焼過程を観察、そのにおいや見た目で質量や温度がわからないことを理解していく。

午後の部:「体験ステージ」というコンセプト
◎ マイナス200℃の世界(「液体窒素」を用いた超伝導セラミックスの浮遊実験)

 

◎ 900℃の世界(マッフル炉を用いての七宝焼き)

 

 
3.午前中の講義内容

 事前にアンケートをとり、もっとも興味のあった「研究者というイメージ像」や「大学と大学院」、「理科系での研究」についての話や生徒からの質問に対して答えながら本題へと入っていく展開。大学の先生=むずかしそう・・・といった先入観を取り除きながら興味をひきつけていった。
 もの(製品)はモノ(材料)からできているという考えや三大材料(金属材料、有機材料、無機材料)についての説明から好奇心を高めていき、身の回りへの観察を行っていく。このとき、回りのものにいろいろと気のつく生徒、逆に友達の意見を見聞きしその後探していく生徒、さらには全く探していけない生徒と様々であった。また、物質論について哲学的な見地(やや難しかったか?)からも考えさせてくれていた。その後の「身近なものについて」の討論でもやや難しい話が出たりしていつもにはない雰囲気をかもし出していた。さらに様々な「セラミックス製品」を手にして触れ、材料ということに対しての親近感は持ったようである。
 実験室において市販の粘土を使って、片方には発泡スチロールを入れ、陶器作りの焼成過程を観察し、発生する臭いや高温の状態の色を観察していった。人の感覚というものは、見た目と温度、質量などと全く一致しないことを実感。いわゆる赤々と見えるのは500〜600℃であり、それ以下の300〜400℃でも触ると火傷しますという注意には、生徒たちの反応があった。
 
4.午後の部(七宝焼きの実験)

 液体窒素のマイナス200℃(低温)での超伝導セラミックスを使ったマイスナー効果の実験を各テーブルにおいて演示実験。そして自分たちで磁石の浮遊を体験する。また、液体窒素を用いていろいろなもの(たとえば草木など)を瞬間冷凍する実験(遊んでいるようにしか見えないが!?)を行う。極低温の方を味わう。
 マッフル炉の900℃(高温)でのガラスの溶融による七宝焼の製作を行い、物体の「温度」と「モノ」の色の関係について理解するとともに、見た目で熱さ・冷たさ(温度の高低)は判断できないことや、実験では危険が隣り合わせという面での実験・実習に対する慎重さを学べたように思える。
 「人の感覚」「温度ともの(光)の色」「ものへの哲学的な見方」「高温・低温の危険性」などについて実験を通じて生徒たちの能動的行動が出てきたように感じられ、書面上の学習と実際の色、温度、状態の変化を目にすることにより、注意深く物事を見つめていけるようになることを期待している。
 
5.あとがき

 このような講義は生徒にとって新鮮であり、日常の授業において、なかなか興味をもつきっかけをつくることができなかった生徒にとてもいい機会になったのであったと考えられる。教員側では講義依頼・SPP申請・承認・予算確定そして物品準備・実施までに大変な苦労がある。しかし、それにもまさる生徒のその後の意欲的な活動に驚いている。生徒の知的好奇心を原動力とし、その後、「液晶」、「ソーラーカー」、「地震」、「ウニ」、「微生物」と生徒の希望調査から毎年SPPに申請し実施している。今回の講座によって新素材や高温・低温の状態、物質の三態、色と温度など各個人の新たなる好奇心を駆り立て、個人個人の新たなるテーマ探しにつなげていきたい。

○参考○
<サイエンス・パートナーシップ・プログラム>
Science Partnership Program(SPP)
(大学、公的研究機関、民間企業等と教育現場との連携の推進)
文部科学省「科学技術・理科大好きプラン」における7つの施策のうちの一つ。
先進的な研究施設や実験装置等、科学技術・理科教育に活用できる様々なリソースを持つ大学、研究機関、企業等と学校現場が連携することにより、第一線の研究者・技術者による特別授業や研究機関等を利用した発展的な学習プログラムの開発、教員を対象とした最先端の科学技術に関する研修等を実施する。
文部科学省SPP事業HP
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/daisuki/03072301.htm
三菱総合研究所SPPのHP
http://www.rikadaisuki-spp.jp/