物理授業実践記録
スローモーションの驚き
〜波動の授業を通して〜
鹿児島県立川辺高等学校
内村武志
 
1.はじめに

 「実験がなければ理科の授業じゃない!」とよく言われます。しかし普通科の進学校では残念ながら「実験より問題演習」、これが実情だと思います。私も例外ではなく,合間を見て演示実験をちょこちょことやる程度なのであまり偉そうに報告できることなどありませんが,1つだけ生徒の反応が大きい実験を知っていますので紹介したいと思います。
 
2.普段見ることのできない「動き」

 波動の分野で欠かせない「ウェーブマシン」。はじめて見ると感動的ですよね。とくに固定端反射,自由端反射の説明には欠かせません。また,大型ばねを使っての縦波,横波の演示。これも波の独立性の説明に必須です。これだけでも生徒は歓声を上げてくれるから嬉しいのですが,「定常波」の説明になると理解が難しい。これは,向きの異なる2つの進行波とその合成波である定常波とが見た目に区別できないからだと考えました。そこで、ストロボ(発光間隔を調整できるライトでも可)を用いて弦の定常波をスローモーションで見てみたところ,糸がくねくねと動く様子を見ることができて感動的でした。ただ,市販の「弦定常波発生器」だと弦の材質を工夫しても振幅の大きさに限界があったので、簡単に自作できる実験器具を用いてやってみたところ,意外にももっと面白いものが見られました。


ウェーブマシンではこの程度


縦波と横波をぶつけます

※自作実験器具についての説明

(1) 市販のモーターと電池ボックス(単3です。)をテープで固定する。
(2) 電池ホルダーに凧糸を取り付け,モーターと電池ホルダーを結線。
(片方をみのむしクリップにしておくと電源スイッチになります。)
(3) モーターの回転軸に消しゴムを取り付ける。
(消しゴムの重心をずらしてさし込みます。)
(4) 偏心した消しゴムの回転が装置全体を振動させ,吊した凧糸に定常波を作ります。
(凧糸を着色すると見やすいし,節になる部分には印を付けておくと便利です。)
装置全体 振動中!
 
3.「同期」…周期についての理解が深まる

 私としては単純に,弦が平面的な動きをするのでなく,紡錘状(立体的)に動いていることを生徒に伝えたかっただけなのですが、ストロボの発光間隔を調整していると弦の動きよりも消しゴムの動きの方に目が行ってしまう生徒が多かったのです。「見て見て!消しゴム!」そう叫んだ生徒の後に「おぉぉ〜!!」、大半の生徒が驚きを示しました。消しゴムの回転運動もスローモーションになったのです。そして、ある周期では静止し,さらに逆回転に見えるときもありました。これにヒントを得て,同じ運動を繰り返すものはストロボの発光間隔調整により,すべてスローモーション,または逆向きの運動として見ることができると気付きました。そして、水滴の自由落下でも面白い瞬間をとらえることができました。
 
4.理想は「1つの実験で複数の項目の説明」を

 実験は種類が多いほど楽しい。これは事実なのですが,生徒にとってはその場限り。どんなに反響があった実験でも1年も経つと「あ〜そういう実験あったね。」と見たことは憶えていても法則や原理とつながっていない生徒が多いようです。だから,同じ実験で複数の項目が独立して説明できれば,その実験を見る回数も増え,同時に理解も深まると思います。私はこの実験だけで,以下のようなことを説明しました。
(1) 弦定常波発生の仕組みと実際の弦の動きを説明(装置全体)
(2) 等速円運動と単振動,波動との関連性及び周期についての説明
[1] ストロボの周期=円運動の周期:静止状態で観測可
[2] ストロボの周期>円運動の周期:スローモーションで観測可
[3] ストロボの周期<円運動の周期:逆回転の観測可
(扇風機の羽根や自動車のTVコマーシャルで見られるタイヤの回転などを例にとりました。)
(3) 水滴の自由落下の様子と変位の時間変化
 滴下の間隔を調整すると一度に複数の水滴が見えます。(2)と同じ奇妙な現象(水滴の滝登り!?)も見ることができます。もちろん各水滴の変位は1:4:9:…となります。(病院で入手した点滴の調整器具が役立ちました。これが最も調整しやすいと思います。最近は医療廃棄が厳しいらしく返還を求められましたが。)
 
5.おわりに

 ストロボ装置は埃をかぶっていないでしょうか? 数年前に,某アニメの連続発光シーンが問題になったことがありましたが,事前に注意を促しておけば危険も回避できます。調子にのって長時間見せてしまうと問題がありそうですが…。最近はCGやデジタル機器に頼りがちです。古い実験器具も工夫して教材化していきたいものです。