物理授業実践記録
蜃気楼の教材化
〜蜃気楼発生装置とライブカメラの活用〜
富山県立滑川高等学校
木下正博
 
1.目的

 蜃気楼は空気の密度変化によって局地的に発生する光学現象であり,高校物理では光の単元で取り上げることが多い。日本では富山湾が有名であり,私が勤務する滑川高校からも蜃気楼を観察することができる。そこで,蜃気楼を実験・理論・観察を裏付けとした光の学習教材として活用する試みを紹介する。
 
2.蜃気楼とは

 蜃気楼は大きく分類すると,遠方の景色が上方に伸びたり倒立して見える上位蜃気楼と,下方に倒立して見える下位蜃気楼がある。春の富山湾などに発生する蜃気楼は上位蜃気楼であり,全国的にも珍しい現象である。一方,下位蜃気楼は国内各地の冬の海上などで多く観察できる現象である。砂漠の蜃気楼やアスファルトの逃げ水現象も下位蜃気楼の一種である。以下に富山県魚津市から撮影した実際の上位蜃気楼の一例を示す(図1)。


図1 実景と様々に変化する蜃気楼

 
3.学習教材としての活用

 (1) 空気の温度差で作る蜃気楼発生装置
 本装置はニクロム線をアルミ板で挟み,その板を熱くすることで板の直下に上暖下冷,直上に上冷下暖の空気層を作り出す(図2)。このとき,板の直下から他端の像を見ると上方に伸び,また装置の下部に風を送ることで倒立する上位蜃気楼が観察できる(図3−1,3−2)。一方,板の直上から他端を見ると,下位蜃気楼が観察できる(図4)。


図2 蜃気楼実験装置の全体


     実  景        上方に伸びた蜃気楼(図3−1)


上方に倒立した蜃気楼(図3−2)   下方に倒立した蜃気楼(図4) 

 (2) 光路計算によるシミュレーション
 装置内における空気の鉛直温度分布を測定しコンピュータで光路計算と画像処理を行った。これによって,媒質の密度(温度)変化と光路の関係が容易に理解できるようになり,また,実験とシミュレーションの比較から,なぜ伸びたり倒立して見えるかなど,光の屈折と蜃気楼の関係を視覚的に示すことが可能になった。図5に光路計算結果の一例を示す。


光路曲線(縦・横軸の尺度に注意)

コンピュータによる画像処理
図5 光路計算結果の一例

(3) ライブカメラの活用
 インターネットライブカメラを滑川高校(海岸から約200m)の校舎3階の窓枠に設置し,1分間隔で静止画像を撮影しHPに自動転送した。これによって生徒は教室や自宅のパソコンから自由に現在の様子を知ることができるようになった。図6にインターネットライブカメラの様子を示す。


図6 インターネットライブカメラの様子

 
4.実践効果

 光の学習に蜃気楼を活用した結果,生徒の多くは様々な光の現象・法則を容易に吸収し,実体験として定着する効果が得られた。さらに,不定期に発生する蜃気楼ではあるが,ライブカメラの活用によって,時には生徒を海岸まで引率し,実際の蜃気楼をしっかり観察させることができるようになった。これにより生徒は波動現象に一層の興味・関心を示し,自らの力で課題を解決しようとする自発性が芽生えた。
 今後,課題研究等への応用も視野に入れた地域教材として,その活用が大いに期待できるものと感じている。
(※本研究の一部は平成11,12年度富山大学大学院にて行った成果である)

参考文献
1) 木下正博:空気の温度差で作る蜃気楼発生装置,第2回サイエンス展示・実験ショーアイデアコンテスト1997年レポート,科学技術振興事業団,
12-17,(1997)
2) W.H.Lehn.,H.L.Sawatzky:Image Transmission under Arctic Mirage Conditions,Polarforschung,45,120-128,(1975)

なお,蜃気楼発生装置やライブカメラの詳細については以下のURLを参照して下さい。
http://www014.upp.so-net.ne.jp/kino/index.htm

Eメール:kino@js3.so-net.ne.jp